2026年の秋は、国内で情報漏えいやランサムウェアの公表が相次ぎました。予約システム、人事システム、メール、ITサービスの委託先と、狙われた先はさまざまです。一つひとつは別の事故ですが、並べてみると、共通する「入口」が見えてきます。
ここでは、各組織の公式発表から主な10件を図解で整理します。件数は各組織の公表値(多くは「最大」「可能性」の段階)で、確定ではありません。会社の優劣をつけるものではなく、自組織の備えに生かすための整理です。
相次いだ主な事故(公式発表より)
2026年秋に公表された主な情報漏えい・ランサム事故10件(編集部整理)作成: 編集部 / もとの資料: 各組織の公式のお知らせ・発表資料
図に出した内容を、表でも示します(件数は公表値)。
各件の詳しい経緯は、組織名のリンク先の記事にまとめています。
共通する「入口」と「狙われたもの」
並べてみると、きっかけ(入口)には型があります。委託先や外部サービス経由で巻き込まれる形、自社システムへの直接の不正アクセス、VPN・RDPといったリモート接続の悪用、そしてメールや認証情報の乗っ取りです。狙われたものも、個人情報、予約・会員・従業員の情報、メールアドレス、認証情報に整理できます。
相次ぐ事故に見る「入口」と「狙われたもの」、情シスの備え作成: 編集部 / もとの資料: 各組織の公式のお知らせ・発表資料を編集部が整理
とくに目立つのが、二つの流れです。一つは、委託先やクラウドに預けたデータが、その先の事故で巻き込まれる形(銀のさら、レゴランド、JR東海など)。もう一つは、VPN・RDPや、メール・認証情報という「入口」が突かれる形(両毛システムズ、八王子学園、東洋紡せんい、キングプリンターズ)です。前者は自社の努力だけでは防ぎきれず、後者は自社で固められる部分です。
委託先やクラウドで起きた事故が自社に波及する形は、サービスを外部に任せるほど増えます。便利さと引き換えに、預けた先のリスクも一緒に引き受けることになるためです。防ぎきれないからこそ、「どこに何を預けているか」を把握し、事故が起きたときにすぐ動ける段取りを持っておくことが、現実的な備えになります。一方で、VPN・RDPや認証情報といった入口は、自社の設定と運用で固められます。相次ぐ事故は、この「固められる入口」が、まだ十分に守られていない組織が少なくないことも示しています。
狙われるものにも、新しい動きがあります。キングプリンターズの事故では、攻撃者の狙いが、盗んだ認証情報を使って生成AIのサービスを不正に利用することだったとされています。データそのものだけでなく、クラウドや生成AIにログインするための「鍵」が狙われる形です。APIキーやアカウントが漏れると、見知らぬ利用や高額な請求につながります。認証情報を、データと同じくらい大切に守る視点が、これからいっそう必要になります。
件数の読み方に注意
図や表の件数は、各組織が公表した時点の値です。多くは「最大」「可能性のある」件数で、漏えいが確定した人数ではありません。調査が進むと、増えることも減ることもあります。「調査中」「精査中」としている組織もあります。見出しの大きな数字だけで驚くのではなく、確定した事実と、調査中の事項を分けて受け取ることが大切です。報道や図を見た社員から問い合わせが来たときも、この違いを添えて伝えると、落ち着いた対応につながります。
情シスが今日やること
- 預けたデータを棚卸しする: どの外部サービス・クラウドに、どんなデータを預けているかを一覧にします。委託先で事故が起きたとき、いつ・何が連絡されるか(連絡体制)も確認します。
- 入口を固める: 外部に開いたVPN・RDPがないかを確認し、不要なら遮断します。管理者やリモート接続のアカウントには多要素認証(MFA)をかけ、パスワードの使い回しを見直します。
- アカウントを整理する: 退職者や使われていないアカウントは、侵入の入口になります。人事の連絡から無効化までの流れを決めておきます。
- バックアップを確かめる: ランサムウェアへの最後の備えはバックアップです。オフラインの保管があるか、実際に戻せるかの復旧試験をしているかを確認します。
- 便乗の不審メールに備える: 漏れた連絡先を狙うなりすましや、事故に便乗したフィッシングが増えます。社員・利用者に、かたるメール・SMS・電話への注意を周知します。
同じような事故は、業種や規模を問わず、どの組織にも起こりえます。だからこそ、他社の事故を「対岸の火事」にせず、自組織に置き換えて点検する材料にすることが役立ちます。
一つひとつの事故は別々でも、入口には共通点があります。委託先・クラウドに「何を預けているか」を把握し、認証情報とリモート接続という「入口」を固める。この二つを両輪で進めることが、相次ぐ事故からの実務的な学びになります。
完璧に事故をゼロにするのは難しくても、固められる入口を一つ減らし、預け先を一つ把握するたびに、巻き込まれたときの被害は小さくできます。他社の公表を点検のきっかけにして、できるところから、一つずつ進めていきましょう。