情報漏えいやランサムウェアの話題が増え、セキュリティへの関心が高まっています。では、その守りを支える国内のセキュリティ企業は、どのくらいの規模で、どんな人が働いているのでしょうか。上場する6社の有価証券報告書から、売上高・従業員数・平均年収などを図解で整理しました。
はじめに断っておくと、これは会社の優劣や順位をつけるものでも、投資の判断材料でもありません。数字が何を表すか(連結か単体か、決算期、事業の違い)を読み解くための整理です。
セキュリティへの投資は、事故が相次ぐほど注目されます。しかし、守りを提供する会社の中身は、意外と知られていません。世界で事業を展開する大手もあれば、特定の製品に強い会社、企業のネットワークを見張る監視サービスの会社もあります。規模も、十数億円から数千億円まで大きく開きます。まずは、公式の数字である有価証券報告書から、その広がりを見てみましょう。
規模(売上高と従業員数)
国内セキュリティ企業の規模(売上高・従業員数、連結)作成: 編集部 / もとの資料: 各社の有価証券報告書(EDINET)
図の数字を、表でも示します(売上・従業員は連結)。
| 会社 |
売上高(連結) |
従業員(連結) |
決算期 |
| トレンドマイクロ |
2,759.84億円 |
6,717名 |
2025年12月期 |
| ソリトンシステムズ |
197.62億円 |
655名 |
2025年12月期 |
| デジタルアーツ |
108.35億円 |
279名 |
2026年3月期 |
| サイバーセキュリティクラウド |
50.85億円 |
164名 |
2025年12月期 |
| FFRIセキュリティ |
43.49億円 |
236名 |
2026年3月期 |
| セキュアヴェイル |
12.80億円 |
116名 |
2026年3月期 |
まず目を引くのが、トレンドマイクロの規模です。世界で事業を展開するグローバル企業で、売上高は連結で2,759億円を超え、国内の専業各社とは大きく異なる水準にあります。図では、トレンドマイクロを別格として分け、国内専業の5社を横棒で並べています。
国内専業の中でも、売上高は十数億円から約200億円まで幅があります。製品を中心にする会社、監視・運用のサービスを中心にする会社など、成り立ちが異なります。規模の大小は、良し悪しや順位を表すものではなく、事業の性格の違いとして読むのが適切です。
なお、売上や従業員数は、ここでは連結(子会社も含めたグループ全体)の値を使っています。会社によっては、海外の子会社や別事業の会社を含むため、「セキュリティだけ」の数字ではない場合もあります。グループ全体の規模として捉えるのが正確です。
働く人と待遇
国内セキュリティ企業の働く人と待遇(年収等は単体の値)作成: 編集部 / もとの資料: 各社の有価証券報告書(EDINET)
働く人の数字です。平均年収・平均年齢・平均勤続は、提出会社(単体)の値です。
| 会社 |
従業員(連結) |
平均年収(単体) |
平均年齢 |
平均勤続 |
| トレンドマイクロ |
6,717名 |
約989万円 |
40.3歳 |
9.1年 |
| ソリトンシステムズ |
655名 |
約680万円 |
43.0歳 |
13.3年 |
| デジタルアーツ |
279名 |
約699万円 |
34.9歳 |
7.1年 |
| サイバーセキュリティクラウド |
164名 |
約813万円 |
37.6歳 |
2.5年 |
| FFRIセキュリティ |
236名 |
約766万円 |
38.1歳 |
4.9年 |
| セキュアヴェイル |
116名 |
約448万円 |
34.8歳 |
6.3年 |
平均年収は万円未満を四捨五入しています。ここで気をつけたいのは、平均年収・年齢・勤続は「単体(提出会社だけ)」の値だという点です。従業員数(連結)とは母数が違うため、混ぜて読むと実態を見誤ります。たとえばトレンドマイクロは、連結の従業員は6,717名ですが、平均年収の対象となる単体の従業員は725名です。
平均勤続年数の長短も、良し悪しとは直結しません。近年に採用を増やした会社は、新しく入った人が多いぶん、平均勤続が短く出やすくなります。数字の背景(成長段階や採用の方針)とあわせて読むことが大切です。
平均年齢にも幅があります。長く続く会社は平均年齢が上がりやすく、若い会社や急成長中の会社は下がりやすい傾向があります。年齢・勤続・年収は、どれも単独では良し悪しを決められません。たとえば平均年収が高くても、平均年齢が高ければ、年齢を重ねた結果かもしれません。複数の数字を、背景とあわせて読むことが大切です。
今回取り上げたのは、有価証券報告書を公表している上場企業です。セキュリティの会社には、上場していない会社や、別のグループに属する会社も数多くあります。ここに載っていない会社が小さい・弱いということではありません。公式の数字が取れる範囲での整理である点も、あわせて押さえておきたいところです。なお、ラックなど一部の会社は、今回の方法では数字を取得できなかったため、この一覧には含めていません。
数字の背景にあるもの
同じ「セキュリティ企業」でも、事業の性格はさまざまです。ウイルス対策やフィルタリングなどの製品を売る会社、企業のネットワークやログを監視・運用するサービスを提供する会社、クラウド上の対策を提供する会社などがあります。製品を中心にする会社は、作った製品を多くの顧客に届けるため、人数のわりに売上が大きくなりやすい一方、サービスを中心にする会社は、人手が売上に直結しやすい、といった違いが出ます。
こうした事業の違いは、従業員一人あたりの売上や、利益の出方にも表れます。だからこそ、売上や従業員数の大小だけで会社を測るのではなく、「どんな事業で、どう稼いでいるか」まで含めて見ると、数字の意味がより正確に分かります。この記事では個別の事業内容までは踏み込みませんが、気になる会社があれば、その会社の有価証券報告書の「事業の内容」を読むと、数字の背景が見えてきます。
有報の数字を読むときに確かめること
就職・転職や、取引先を知る目的で有価証券報告書の数字を見るときは、次の点を確かめると、読み違いを防げます。
- 単体か連結か: 売上や従業員が、グループ全体(連結)か、その会社だけ(単体)かを確かめます。平均年収は単体で載ることが多く、連結の従業員数と母数が違います。
- 決算期をそろえる: 会社によって決算期が違います(この記事でも12月期と3月期が混在)。時点が違う数字を、そのまま並べて優劣を語らないようにします。
- 持株会社かを見る: 持株会社(ホールディングス)は、提出会社だけの従業員が少なく出ることがあります。人数の少なさが、そのまま会社の小ささではありません。
- 事業の性格の違いを踏まえる: 製品中心か、監視・運用のサービス中心かで、人の構成も、利益の出方も変わります。同じ「セキュリティ企業」でも中身は多様です。
- 「平均」であることを忘れない: 平均年収や平均年齢は、社内のばらつきをならした一つの値です。実際には、職種・役職・年齢によって幅があります。平均だけを見て、全員がその水準だと思い込まないようにします。
- 優劣・投資の判断にしない: 数字は実態の一面にすぎません。会社の良し悪しを決めつけたり、「買い」「おすすめ」といった投資の判断に使ったりはしないでください。
同じ「セキュリティ企業」でも、グローバル大手から、製品特化、監視サービスの専業まで、規模も成り立ちもさまざまです。数字をそのまま優劣に結びつけるのではなく、「何を表す数字か」を確かめながら読むことが、会社を正しく理解する近道になります。
こうした読み方は、就職・転職だけでなく、取引先や委託先を知るときにも役立ちます。相手の規模や成り立ちを、公式の数字から落ち着いて把握しておくと、過度に大きく見積もったり、逆に軽く見たりせずに付き合えます。
数字は、使う人の見方しだいで、役にも立てば、誤解のもとにもなります。この記事の図と表が、公式の数字を落ち着いて読むための一つの入口になればと思います。