1年間、大きなトラブルなく会社のITを回したのに、評価面談で言われたのは「情シスは稼いでいない部門だから」。そんな経験に、うなずく人は少なくないはずです。評価されにくい理由と、成果を数字で見せる方法、面談での返し方、評価する側への提案をまとめました。
「稼いでいないから評価Aはつけられない」 SNSで広がった一言
2025年1月、SNSである投稿が話題になりました。上司から「情シスは稼いでいない部門なので、評価Aはつけられない」と言われた、という内容です。反応の多くは、怒りと共感でした。
- 「情シスがいなければ、ほかの部門の稼ぎも成り立たない」
- 「警備員に利益を求める会社があるのか」
- 「バックオフィスは全部これ」「残念ながら、よくある」
- 「トラブルを起こさない運用より、起きたトラブルの解決のほうが評価されそう」
データセンターの空いた場所を整理し、費用を年に約2,000万円減らした人の体験談もありました。それでも評価は上がらなかったそうです。
なぜ情シスの仕事は評価されにくいのか
情シスの成果は、多くの場合「何も起きなかったこと」です。メールが届く、会議がつながる、ファイルが開ける。どれも当たり前に見えるので、うまくいっている間は誰の目にも留まりません。
SNSの声にもあったとおり、トラブルを防いだ人より、起きたトラブルを派手に解決した人のほうが目立ちます。防いだ火事は、誰にも見えないからです。
| 情シスの仕事 |
評価する側から見える姿 |
実際に生んでいる価値 |
| 更新やバックアップ |
夜に何かしているらしい |
業務が止まらない。ランサムウェアの被害から戻れる |
| 問い合わせ対応 |
質問に答えているだけ |
社員がつまずいて止まる時間を減らす |
| 契約やライセンスの見直し |
細かい事務作業 |
毎月の固定費が下がる |
| 入社・退職の手続き |
アカウントを作って消すだけ |
初日から働ける。辞めた人からの情報の持ち出しを防ぐ |
| 機器の入れ替え |
パソコンを配っている |
古い機器による故障や攻撃の入口をなくす |
評価する人がITの中身に詳しくないことも、見えにくさに拍車をかけます。「何をしたか」を情シスの言葉で書いても、伝わらないのです。
成果を数字で見せる5つの物差し
見えない仕事は、数字にすると見えるようになります。次の5つを、1年分そろえてみてください。
| 物差し |
何を数えるか |
記録の取り方 |
書き方の例 |
| 問い合わせ件数 |
受けた相談や依頼の数。種類別の内訳 |
問い合わせ用の窓口やチケットの仕組みにまとめる |
年間1,240件。うち3割がパスワード関係 |
| 解決までの時間 |
受けてから解決するまでの平均と、当日中に解決した割合 |
受付と完了の日時を残す |
平均4時間。当日中の解決が85% |
| 止まらなかった時間 |
メール、ファイル共有、基幹システムなどの稼働率 |
停止した日時と長さを記録する |
主要システムの稼働率99.9%(停止は年に計8時間) |
| 削った費用 |
解約、契約の見直し、機器の統合で減った金額 |
見直し前後の請求書を残す |
使っていないライセンス40件を解約し、年120万円減 |
| 防いだ事故 |
防ぐためにした作業と、検知して止めたもの |
更新の適用日、ブロックした不審なメールの数 |
全パソコンの更新を毎月15日以内に適用。不審な添付付きメールを320通隔離 |
稼働率は、1年(8,760時間)のうち動いていた時間の割合です。99.9%なら止まっていたのは年に約8.8時間、99%なら約88時間(3日半ほど)になります。0.9ポイントの差が、止まった時間で見ると10倍の差になります。
問い合わせ件数は、減ったことも成果です。よくある質問を社内向けにまとめて件数が減ったなら、「社員が自分で解決できる仕組みを作った」と書けます。
記録を続けるための、いちばん小さな仕組み
立派な管理ツールがなくても、記録は始められます。問い合わせの入口を1つ(専用のメールアドレスやフォーム)にまとめ、表計算ソフトに次の列を作るだけです。
| 列 |
入れる内容 |
| 受付日時 |
2026/10/3 9:12 |
| 依頼した部署 |
営業部 |
| 種類 |
パスワード、パソコン、プリンター、アカウント、その他 |
| 完了日時 |
2026/10/3 10:05 |
| かかった時間 |
50分 |
| ひとこと |
次から自分でできるよう手順を送った |
月末に10分だけ、件数と平均時間を集計します。これを12か月続ければ、面談の資料はほぼできあがります。
「防いだ事故」は、起きたときの重さで伝える
防いだ事故は、証明が難しい成果です。そこで「何をしたか」と「起きたらどうなるか」を分けて書きます。後者には公的な数字が使えます。
警察庁によると、2025年(令和7年)のランサムウェアの被害の報告は226件でした。被害に遭った組織の約6割が中小企業です。
被害に遭った組織への調査では、復旧に総額1,000万円以上かかった組織が5割を超えました。1か月未満で復旧できた組織は、5割強にとどまっています。
警察庁の資料にあるランサムウェアの被害の調査・復旧費用の総額の内訳出典: 警察庁ウェブサイト「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(公共データ利用規約(第1.0版)(警察庁ウェブサイトの利用規約で確認))
警察庁の資料にあるランサムウェアの被害から復旧までにかかった期間の内訳出典: 警察庁ウェブサイト「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(公共データ利用規約(第1.0版)(警察庁ウェブサイトの利用規約で確認))
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの1位は「ランサム攻撃による被害」です。11年連続の選出です。「バックアップと更新を続けたことで、こうした被害に備えた」と書けば、何もなかった1年の意味が伝わります。
数字にしにくい仕事の書き方
5つの物差しに入らない仕事もあります。その場合は、回数、人数、日数のどれかに置き換えると書きやすくなります。
| 仕事 |
数字にする工夫 |
| 新しいツールの導入と定着 |
説明会の回数、使い始めた人数、紙やメールが減った件数 |
| セキュリティの研修や訓練 |
受けた人の割合、訓練メールを開いてしまった人の割合の変化 |
| 入社・退職の手続き |
入社初日にパソコンとアカウントがそろっていた割合 |
| 社内の相談相手 |
他部署から受けた相談の件数、一緒に進めた改善の数 |
| 機器や契約の台帳づくり |
台帳に載せた機器の台数、持ち主不明だった機器の減少数 |
評価面談で使える返し方
面談で言われがちな一言と、返し方の例です。感情的に反論するより、数字と相手の業務の言葉で返すほうが通ります。
| 言われがちな一言 |
返し方の例 |
| 情シスは稼いでいないから |
「売上は作っていませんが、売上を止めない仕事をしています。今期、受注システムが止まった時間は合計2時間でした」 |
| 今年は特に問題がなかったね |
「問題が起きなかったのは、毎月の更新とバックアップの確認を続けたからです。作業の記録をお見せします」 |
| 問い合わせ対応は誰でもできる |
「年間1,240件に対応し、平均4時間で解決しました。よくある質問をまとめて、後半は月の件数を2割減らしています」 |
| ITにお金がかかりすぎる |
「使っていない契約を見直して、年120万円減らしました。残りの費用の内訳も一覧にしています」 |
| 営業と同じ基準で評価する |
「部門に合った目標を、来期の初めに一緒に決めさせてください。案を持ってきます」 |
最後の一言は、今期の評価を覆すより、来期の土俵を作る返し方です。評価の基準そのものが合っていないなら、面談の場で基準を決める約束を取り付けるのが近道です。
逆に、避けたい言い方もあります。「誰もやらないから私がやっている」は、不満としてしか伝わりません。「ITのことは分からないと思いますが」は、相手を突き放してしまいます。
言いたい気持ちは数字に置き換えます。「これだけの件数を、これだけの時間で解決した」と伝えるほうが、評価の言葉として残ります。
他部署からのお礼のメールは、遠慮せずに保存しておきます。情シスの価値を、情シス以外の人の言葉で示せる貴重な材料です。
経営者・上司の方へ 情シスを正しく評価するための提案
「稼いでいないから」という評価は、情シスの人が辞めるきっかけになりかねません。そして辞めたあとに残るのは、誰も中身を知らないシステムです。評価する側ができることをまとめました。
| やめたいこと |
代わりにやること |
| 売上や利益だけで、すべての部門を比べる |
期初に、部門ごとの物差し(稼働率や解決時間など)を本人と決める |
| 「何もなかった」を「成果なし」と読む |
何もなかった理由(予防の作業)を報告してもらい、成果に数える |
| 派手なトラブル対応だけをほめる |
トラブルを減らした仕組みづくりを、同じように評価する |
| IT費用を「コスト」とだけ見る |
減らした費用と、備えた被害の大きさをセットで聞く |
| 1人にすべてを任せきりにする |
予備の担当や外部の支援先を決め、休める体制を作る |
情シスの目標は、たとえば次のように決められます。数値は会社の規模や体制に合わせて調整してください。
| 目標の例 |
目安の決め方 |
| 主要システムの稼働率 |
前年の実績を下回らない |
| 問い合わせの当日解決率 |
前年より5ポイント上げる |
| 更新の適用 |
配布から2週間以内に全台へ適用 |
| 退職者のアカウント停止 |
退職日の当日中に完了 |
| バックアップからの復元テスト |
年に1回以上、実際に戻してみる |
IPAは2026年9月、「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」の第4.0版を公開しました。経営者が認識し実施すべき指針をまとめた「経営者編」があります。最初に取り組む「情報セキュリティ5か条」には「バックアップを取ろう!」が加わり、6か条になりました。
セキュリティ人材の確保・育成を支える方策も付録に入りました。情シスの仕事を、経営の仕事として見直すきっかけになります。
今日からできること
止まらないことは、偶然ではなく仕事の結果です。数字にして見せれば、「稼いでいない部門」は「会社が稼ぎ続けるための部門」に変わります。