「それは技術的に無理です」と答えたら、「でもGeminiはできるって言ってますよ」と返された。生成AIが職場に広がって、こんな会話が増えています。AIの答えがなぜずれるのか、角を立てずに断ったり代わりを出したりする言い方、社内で先に決めておきたいことをまとめました。
「でもGeminiはできるって言ってるから」 SNSで話題の新しい無茶振り
2026年9月、SNSであるエンジニアの投稿が話題になりました。「技術的に不可能」と答えた要件について、PM(開発の方針を決める役の人)から言われた一言です。「でもGeminiはできるって言ってるから、やりましょう」。
反応には、「こういう話はこれから増える」という声が目立ちました。専門家として調べて出した判断が、AIの一言で軽く扱われることへの不満も多く寄せられています。
情シスの現場に置き換えると、たとえば次のような依頼です。
- 「AIに聞いたら、この設定を変えれば直るって。今すぐやって」
- 「このフリーソフトを入れれば解決するって、AIが言ってた」
- 「Excelでここまで全自動にできるらしいから、明日までに作って」
- 「AIによると、このライセンスで全員使えるはず」
AIの答えがずれる理由
AIの答えがいつも間違っているわけではありません。ただ、職場の依頼に当てはめると、ずれやすい理由がいくつかあります。
確かめていない情報が混ざる
Googleは、Geminiアプリの使い方のヘルプで「Geminiアプリは間違えることがあります」と明記しています。回答を再確認し、専門的な助言についてはGeminiの回答に頼らないよう求めています。プライバシーのヘルプでも、生成される情報は不正確または不適切な場合がある、と書いています。
Geminiは、回答に「ソース」として参考にしたページを示すことがあります。ただしGoogleのヘルプによると、すべての回答にソースが付くわけではありません。根拠のリンクがない答えは、まず裏付けを探す必要があります。
自社の環境を知らない
AIは、あなたの会社のネットワーク、使っている製品の版、設定、過去の経緯を知りません。質問に書かれなかった前提は、AIにとって存在しないのと同じです。
会社で契約した仕事用のGeminiでも、使う人がアクセスできない社内の情報には触れません。Googleは、Google Workspaceの生成AIは権限のない社内の情報にアクセスしない、と説明しています。AIが知っているのは、質問した人が見られる範囲までです。
Googleのヘルプに載っている、Google Workspaceの生成AIでプロンプトが処理される流れの図(英語)出典: Google Workspace 管理者ヘルプ「Google Workspace の生成 AI に関するプライバシー ハブ」(引用)
「技術的にできる」と「うちでやってよい」は別
AIが「できる」と言うのは、多くの場合、一般的な製品としてできるという意味です。自社で実際にやるには、次の壁があります。
| ずれの原因 |
例 |
確かめ方 |
| 契約やライセンスのプランが違う |
上位のプランにしかない機能だった |
自社の契約内容と、製品の公式のプラン比較 |
| 権限がない |
管理者しか変えられない設定だった |
管理画面で、自分の権限で触れるかを見る |
| 社内の方針に反する |
許可していないソフトや外部サービスを使う方法だった |
社内規程、情シスのルール |
| 前提が古い |
画面やメニューの名前が今の版と違う |
製品の公式ヘルプの最新版 |
| 質問の前提が抜けている |
社内の別のシステムとの連携を考えていない |
依頼した人が使った質問文を見せてもらう |
たとえば仕事用や学校用のアカウントでGeminiアプリを使うには、管理者の許可が要るとGoogleは案内しています。AIの答えが正しくても、会社の設定次第で使えないことがあるのです。
ずれた答えを見分けるサイン
AIの答えを受け取ったら、次のサインがないかを見ます。1つでも当てはまれば、そのまま実行せずに裏付けを取ります。
最後の2つは見落としがちです。AI自身が「ここから先は分からない」と言っている合図なので、そこを担当者と一緒に確かめれば話が早く進みます。
角を立てずに断る・代わりを出す言い方
AIを根拠にした依頼を、頭ごなしに否定すると関係がこじれます。相手は、良かれと思って調べてくれたのです。次の順番で返すと、角が立ちにくくなります。
- 調べてくれたことにお礼を言う
- AIの答えを、前提と条件に分けて一緒に見る
- 「できる」「できない」ではなく、「この条件ならできる」「この方法なら近いことができる」と返す
- 試すなら、時間と場所を区切る(30分だけ、テスト用のアカウントで、など)
- 最後の判断は、人が責任を持って行うことを確認する
| 依頼 |
避けたい返し |
言い換え |
| AIがこの設定で直るって |
「AIは当てになりません」 |
「調べてくださってありがとうございます。うちの版でも同じ画面があるか、公式のヘルプで確かめてから試しますね」 |
| このフリーソフトを入れれば解決 |
「勝手なソフトはだめです」 |
「会社のパソコンに入れるには確認が要るので、まず許可済みのツールで同じことができないか見てみます」 |
| 全自動にできるらしい |
「無理です」 |
「8割は自動にできそうです。残りの2割は、ここの判断が人に必要なので、確認の画面を挟む形でどうでしょう」 |
| このライセンスで全員使えるはず |
「契約を知らないでしょう」 |
「契約の条件を確かめます。対象外だった場合の費用も一緒に出しますね」 |
質問文を見せてもらうと、ずれの原因がすぐ分かることがあります。「社内のシステムと連携して」という条件が抜けていた、といった具合です。相手を責めずに、前提のずれを一緒に見つける形にできます。
依頼する側の方へ AIに聞くときの4つのコツ
AIに調べてもらうこと自体は、悪いことではありません。担当者に相談する前に、次の4点を意識するだけで、AIの答えはぐっと使いやすくなります。
- 前提を書く。使っている製品と版、契約のプラン、社内で決まっているルールを質問に入れる(機密情報は入れない)
- 「できますか」だけでなく、「できない場合や、必要な条件は何か」も聞く
- 根拠になる公式のページを示してもらい、自分で開いて同じことが書いてあるか確かめる
- 担当者に渡すときは、答えだけでなく質問文ごと渡す
この4点がそろった依頼なら、担当者も「どこまで合っていて、どこからが違うのか」をすぐに判断できます。結果として、やりたいことが早く実現します。
社内で決めておくとよいこと
AIの答えをめぐるもめごとは、個人の言い方だけでは防ぎきれません。会社として、先に決めておくと楽になります。
国の「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に第1.2版が公表されました。AIを使う側には、出力の精度やリスクを理解し、確かめたうえで使うよう求めています。
機密情報を不適切に入力しないことも挙げています。人間の判断を挟むことで、予期しない事故を防げるとも書いています。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織向け3位で初登場しました。AIの使い方は、便利さだけでなく安全の問題として見られています。
| 決めること |
決め方の例 |
| 使ってよいAIサービス |
会社が契約したサービスに限る。個人のアカウントで業務の情報を扱わない |
| 入力しない情報 |
顧客の個人情報、取引先の機密、社外秘の資料、パスワード |
| AIの答えを根拠にするとき |
公式の資料での裏付けを付ける。質問文と回答の全文、日時、サービス名を添える |
| 試す場所 |
本番ではなく、テスト用の環境やアカウントで試す |
| 最後に判断する人 |
設定変更やソフトの導入は、情シスか決められた担当者が判断する |
個人向けのGeminiアプリについて、Googleは人間のレビュアーが会話の一部を見ることがあると説明しています。そのため、見られたくない機密情報は入力しないよう求めています。
一方、Google Workspaceの生成AIについては、内容を人間がレビューすることはないと説明しています。許可なく組織の外でAIの学習に使うこともないとしています。同じ「Gemini」でも、どの契約で使うかで扱いが変わります。
ルールは、A4で1枚に収まる長さにします。長い規程は読まれません。「使ってよいもの」「入れてはいけない情報」「迷ったら誰に聞くか」の3つが書いてあれば、最初は十分です。
決めたら、AIの答えを根拠にした依頼の受け方も、このルールに沿ってそろえます。担当者によって対応が違うと、「あの人はやってくれたのに」という新しいもめごとが生まれるからです。
今日からできること
AIは、依頼する人にとっての頼もしい相談相手です。情シスがその答えを「確かめて、使える形にする役」に回れば、無茶振りは、仕事を早める材料に変わります。