情シスを1人雇うか、外の会社に任せるか。比べるときに年収と外注の月額だけを並べると、会社が払う額を少なく見積もってしまいます。社会保険料の会社負担や採用費を2026年度の料率で確かめ、シミュレーターで1年目と3年間の費用を比べる方法をまとめます。
情シスを1人雇うと、年収のほかにいくらかかるか
会社が払うのは年収だけではありません。健康保険や厚生年金などの保険料は、社員と会社がそれぞれ負担します。この記事では、雇用保険と労災保険(労働保険)も含めて「社会保険料」と呼びます。
協会けんぽに入っている会社で、2026年度の料率を並べると次のとおりです。
| 保険 |
料率 |
会社の負担 |
メモ |
| 健康保険 |
9.9%(全国平均) |
4.95% |
都道府県で違う。東京都は9.85% |
| 子ども・子育て支援金 |
0.23% |
0.115% |
2026年4月分から加わった |
| 介護保険(40〜64歳) |
1.62% |
0.81% |
40歳未満は対象外 |
| 厚生年金 |
18.3% |
9.15% |
2017年9月から同じ率 |
| 子ども・子育て拠出金 |
0.36% |
0.36% |
会社だけが払う |
| 雇用保険(一般の事業) |
1.35% |
0.85% |
2026年4月〜2027年3月の率 |
| 労災保険(その他の各種事業) |
0.3% |
0.3% |
会社だけが払う。業種で違う |
会社の負担を足すと、40歳未満は約15.7%、40〜64歳は約16.5%です。年収500万円の人なら、会社は年収とは別に約79万〜83万円を払う計算になります。健康保険組合に入っている会社は、組合の料率で計算し直します。
厚生労働省の令和8年度の雇用保険料率の案内。一般の事業は13.5/1,000出典: 厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」(引用)
採用費は「年収の約30%」が一つの目安
マイナビの「中途採用状況調査2026年版」は、人材紹介を次のように説明しています。「採用した段階で年収の約30%程度の費用が発生する形態のサービス」です。年収500万円の人を人材紹介で採ると、150万円前後かかる計算です。
同じ調査で、2025年の中途採用費用の実績は1社平均609.9万円でした。業種別に見ると、「IT・通信・インターネット」の人材紹介の実績が平均597.3万円で最も高くなっています。IT系の会社ほど、人材紹介の費用が膨らみやすいことが分かります。
教育やPCの費用も1年ごとにかかる
採用した人には、PCやソフト、研修、資格の受験料などがかかります。こうした費用は会社によって差が大きいため、シミュレーターでは「教育やPCなどの年間費用」として自社の数字を入れます。
シミュレーターの計算の前提
シミュレーターに年収や外注の月額を入れると、採用と外注の1年目と3年間の費用が並んで出ます。計算の中身は次のとおりです。
| 項目 |
採用 |
外注 |
| 1年目 |
年収×(1+社会保険料の率)+採用費+年間費用 |
月額×12 |
| 3年間 |
年収×(1+社会保険料の率)×3+採用費+年間費用×3 |
月額×36 |
| 含まないもの |
昇給、退職金、福利厚生、上司が教える時間、辞めたときの採り直し |
初期費用、作業の追加料金、社内の窓口役の時間 |
採用費は最初の1回だけ数えます。賞与がある場合は、賞与も含めた年収を入れます。
入力例で読み方を確かめる
年収500万円、社会保険料の率16%、採用費150万円、教育やPCなどの年間費用50万円で計算します。外注の月額は、例として30万円と60万円の2通りを入れてみます。
| 入力 |
1年目 |
3年間の合計 |
| 採用 |
780万円 |
2,040万円 |
| 外注 月30万円 |
360万円 |
1,080万円 |
| 外注 月60万円 |
720万円 |
2,160万円 |
採用の1年目は、500万円×1.16の580万円に、採用費150万円と年間費用50万円を足した780万円です。3年間では、580万円×3に採用費と年間費用3年分を足して2,040万円になります。
外注が月30万円なら、3年間で960万円安くなります。月60万円だと、1年目は外注が60万円安いものの、3年間では採用の方が120万円安くなります。この入力例では、外注が月65万円を下回れば1年目は外注が安く、月約56.7万円を下回れば3年間でも外注が安くなります。
外注の3つの形 情シス代行・ヘルプデスク・IT顧問の違い
外注といっても、頼める範囲は形によって違います。名前は各社で異なるため、何をしてくれるかで見分けます。
| 形 |
頼めること |
向いている会社 |
| 情シス代行 |
PCの準備、アカウントの発行と削除、ネットワークやサーバーの管理、業者とのやり取りなど日々の運用 |
情シスがいない会社、ひとり情シスが辞める会社 |
| ヘルプデスク代行 |
社員からの「つながらない」「パスワードを忘れた」などの問い合わせ受付と一次対応 |
問い合わせが多く、担当者が本来の仕事に手を回せない会社 |
| IT顧問 |
IT投資やセキュリティの方針、業者選び、見積もりの確認などの助言 |
作業は社内や業者でできるが、判断できる人がいない会社 |
3つを組み合わせる会社もあります。たとえば、日常の問い合わせはヘルプデスク代行に任せ、年に数回の大きな判断はIT顧問に相談する形です。
業務委託なら、作業の指示は相手の責任者を通す
外注の多くは業務委託(請負や準委任)の契約です。業務委託では、相手の会社の作業者に、自社の社員と同じように細かく指示を出すことはできません。
厚生労働省は、契約は請負でも実態が労働者派遣にあたるものを「偽装請負」として、区分の基準を示しています。自社で直接指示を出したいなら、労働者派遣の契約を選びます。
採用と外注、どちらが向いているか
費用のほかに、次の表で自社の状況に近いものを探します。
| 自社の状況 |
向いている形 |
理由 |
| ITの作業は週に数時間で、判断できる人がいない |
IT顧問+必要なときの作業依頼 |
社員1人分の仕事量がない |
| 社員からの問い合わせが毎日多い |
ヘルプデスク代行か採用 |
窓口を切り出すと担当者の手が空く |
| 業務の改善や社内システムの見直しを進めたい |
採用 |
業務を知る社内の人の方が進めやすい |
| ひとり情シスが近く辞める |
情シス代行で穴を埋め、並行して採用 |
採用が決まるまでの間も運用は止められない |
| 夜間や休日の監視が要る |
外注 |
1人では交代できない |
採用には、人が辞めたときに知識ごと抜ける心配があります。外注には、契約が終わると手順や設定が手元に残らない心配があります。どちらを選んでも、手順書や台帳を自社の場所に残す決まりを作ります。
1人だけ採用したときに起きやすいこと
情シスを1人だけ採用すると、その人が休むと仕事が止まります。夏休みや病気で休んでいる間は、PCのトラブルに対応できる人がいなくなります。
評価の難しさもあります。情シスの仕事は「何も起きないこと」が成果なので、ほかの部署から見えにくいからです。評価の伝え方は、情シスは「稼いでいない部門」?の記事で扱っています。
外注の契約で決めておくこと
見積もりを取る前に、次の項目を自社の言葉で書き出します。比べる条件がそろい、後からの追加料金も減ります。
- 頼む作業の一覧と、頼まない作業
- 対応する曜日と時間、急ぎのときの連絡方法
- 月に何時間まで、または何件までが月額に入るか
- 管理者アカウントを誰が持つか。自社にも必ず1つ残す
- 毎月の報告の中身(対応件数、残っている課題)
- 再委託するか、するなら誰にか
- 解約するときの引き継ぎ(手順書、設定の記録、データの返却)
見積もりで確かめる項目
外注の見積もりは、月額だけを見ると比べられません。次の項目を各社にそろえて聞きます。
| 項目 |
確かめること |
| 初期費用 |
今の設定や機器を調べて書き出す作業が別料金か |
| 月額に入る範囲 |
何時間まで、何件まで、どの作業までか |
| 範囲を超えたとき |
1時間あたりの料金、訪問の料金 |
| 契約期間 |
最低の契約期間と、解約を伝える期限 |
| 担当者 |
担当が替わるときの引き継ぎのしかた |
ひとり情シスが辞めた会社で何が起きるかは、ひとり情シスがいなくなった会社で起きることにまとめています。外注先に引き継ぐときも、同じ棚卸しが役に立ちます。
経営層に説明するときの文面の例
採用か外注かを決める人には、同じ条件でそろえた数字を見せます。シミュレーターの結果を使った文面の例です。
情シスを年収500万円で1人採用すると、1年目は約780万円、3年間で約2,040万円です。社会保険料の会社負担と採用費を含めた額です。外注のA社は月30万円で、3年間で1,080万円です。
ただしA社の月額は月40時間までで、社内の窓口役が1人必要です。まず1年間はA社に任せて作業の量を測り、その結果で採用するかを決めることを提案します。
数字に加えて、外注に頼まない作業と、その作業を誰が受け持つかも書き添えます。決めた後で「誰の仕事か」がもめるのを防げます。
今日からできること
| やること |
目安 |
ポイント |
| 情シスの仕事を1週間分書き出す |
今週 |
作業ごとにかかった時間も書く |
| 自社の社会保険料の率を確かめる |
今週 |
健康保険組合か、労災の業種は何かを見る |
| シミュレーターで採用と外注を比べる |
今週 |
外注の月額は2〜3通り入れる |
| 外注先2〜3社に同じ条件で見積もりを頼む |
今月 |
作業の一覧と対応時間をそろえて渡す |
| 管理者アカウントと手順書の置き場を決める |
今月 |
採用でも外注でも自社に残す |
まずは今の仕事を書き出すところから始めます。頼みたい作業がはっきりすると、採用の求人票にも外注の見積もり依頼にも、そのまま使えます。