WebサイトのSSL/TLS証明書(通信を暗号にし、サイトの持ち主を示す電子的な証明書)は、使える期間がどんどん短くなっています。2026年3月15日からは最長200日になり、2029年3月15日には47日になります。年に1回、手作業で入れ替えてきた会社ほど、今のうちに仕組みを変える必要があります。
何が決まったのか CA/Browser Forumの決議SC-081v3
証明書のルールは、CA/Browser Forum(認証局とブラウザー会社でつくる業界団体)が決めています。2025年4月11日、有効期間を段階的に短くする決議SC-081v3が可決されました。提案したのはAppleで、GoogleとMozilla、認証局のSectigoが賛同しています。
投票の結果は次のとおりです。ブラウザー側は全社が賛成し、反対は1票もありませんでした。
| 投票した側 |
賛成 |
反対 |
棄権 |
| 認証局(証明書を発行する会社) |
25 |
0 |
5 |
| ブラウザー(Apple・Google・Microsoft・Mozilla) |
4 |
0 |
0 |
棄権した5つの中には、日本のJPRS(日本レジストリサービス)とセコムトラストシステムズが入っています。決議の中身は、認証局が守る基本ルール(Baseline Requirements)に書き込まれました。2026年9月7日付の最新版2.3.0にも同じ日程が載っています。
CA/Browser Forumの決議SC-081v3のページに載った投票の結果出典: CA/Browser Forum「Ballot SC081v3: Introduce Schedule of Reducing Validity and Data Reuse Periods」(引用)
対象になる証明書・ならない証明書
対象は、ブラウザーが標準で信頼する「公開の」サーバー証明書です。確認の厳しさの順にDV(ドメインの管理だけを確認)、OV(会社の実在も確認)、EV(さらに厳しく確認)と種類がありますが、どれも同じ上限です。
一方、社内で立てた認証局(プライベートCA)が出す証明書は、この決まりの対象外です。メールの暗号化に使うS/MIME証明書や、プログラムに署名するコードサイニング証明書も別のルールで動いています。
有効期間と確認の使い回しはこう短くなる
証明書の上限は「発行した日」で決まります。2026年10月3日の時点は、上限200日の段階にいます。
| 証明書を発行した日 |
最長の有効期間 |
ドメイン確認を使い回せる期間 |
| 2026年3月14日まで |
398日 |
398日 |
| 2026年3月15日〜2027年3月14日 |
200日 |
200日 |
| 2027年3月15日〜2029年3月14日 |
100日 |
100日 |
| 2029年3月15日から |
47日 |
10日 |
OV・EVで確認する会社名や所在地の情報は、使い回せる期間が2026年3月15日に825日から398日へ短くなりました。こちらはその後の短縮は決まっていません。
なお基本ルールは、上限ちょうどではなく「1日少なく」することを勧めています。たとえば2029年以降は「46日を超えないほうがよい、47日を超えてはならない」と書かれています。
基本ルール2.3.0の6.3.2節。発行日ごとの最長の有効期間を定めた本文と表出典: CA/Browser Forum「Baseline Requirements for the Issuance and Management of Publicly-Trusted TLS Server Certificates Version 2.3.0」(引用)
「ドメイン確認の使い回し」とは何か
認証局は証明書を出す前に、申し込んだ人がそのドメインを本当に管理しているかを確かめます。これをドメイン認証(DCV)といいます。方法は、決められたメールへの返信、DNSへの文字列の登録、Webサーバーへのファイルの設置などです。
これまでは一度確かめれば、1年あまりは結果を使い回せました。2029年3月以降は10日しか使えません。47日ごとの更新のたびに、ほぼ毎回この確認をやり直すことになります。
年に何回更新することになるか
期限ぎりぎりではなく、余裕を持って更新するのが普通です。無料の認証局のLet's Encryptは、有効期間の3分の2ほどが過ぎたら更新するよう勧めています。この考え方で回数を数えると、次のようになります。
| 最長の有効期間 |
3分の2で更新したときの間隔 |
年間の更新回数の目安 |
証明書20枚なら |
| 398日 |
約265日 |
1〜2回 |
20〜40回 |
| 200日 |
約133日 |
約3回 |
約60回 |
| 100日 |
約67日 |
5〜6回 |
100〜120回 |
| 47日 |
約31日 |
約12回 |
約240回 |
なぜ短くするのか
決議の説明では、証明書は「発行した時点の事実を写したもの」だとしています。時間がたつほど、ドメインの持ち主が変わるなど、中身が現実とずれやすくなります。
証明書を途中で無効にする仕組み(失効)もありますが、決議は確実に働かない場面があると指摘しています。期間そのものを短くすれば、失効の仕組みに頼らず守れます。あわせて、更新の自動化が進むことや、暗号の方式を早く切り替えられることも理由に挙げています。
手作業の更新が回らなくなる理由
年1回の更新なら、カレンダーに書いておけば何とかなりました。47日になると、次の理由で手作業では回らなくなります。
- 回数が増える。上の表のとおり、証明書20枚で年240回の入れ替えになる
- ドメイン確認も毎回になる。メールで承認する方式だと、そのたびに人が承認する
- 入れ替える場所が多い。Webサーバー、ロードバランサー、VPN装置などに同じ証明書を入れていることがある
- 担当者が休む・異動する。月に何度もある作業を1人で抱えると、休暇の週に期限が来る
- 通知に頼れない。Let's Encryptは2025年6月4日で期限切れの通知メールをやめた
自動更新の仕組み ACMEを使う
答えは自動化です。標準の方法として、ACME(証明書の申し込みから入れ替えまでを自動で行う通信の約束事)があります。2019年3月にRFC 8555として標準になりました。
サーバーにACMEのソフト(クライアント)を入れておくと、次の流れを人の手なしで繰り返します。
- 期限が近づいたら、認証局に新しい証明書を申し込む
- 認証局から出された課題に答えて、ドメインの管理を証明する
- 新しい証明書を受け取り、Webサーバーなどに入れ替えて再起動する
ドメインの確かめ方は2種類から選ぶ
| 方式 |
しくみ |
向いている場面 |
気をつけること |
| HTTP-01 |
Webサーバーに決められたファイルを置く |
1台のWebサーバーで公開しているサイト |
80番ポートで外から見える必要がある。ワイルドカード証明書には使えない |
| DNS-01 |
DNSに決められた文字列(TXTレコード)を登録する |
ワイルドカード証明書、社外から見えないサーバー |
DNSを書き換えるAPIの鍵をサーバーに置くことになる。権限を絞る |
無料の認証局だけの話ではない
ACMEはLet's Encryptだけの仕組みではありません。たとえばJPRSは、2022年3月2日からDV証明書でACMEに対応した発行サービスを、取り扱い事業者を通じて提供しています。今の販売店や認証局が対応しているかは、窓口に確かめるのが早道です。
Let's Encryptも自らの期間を短くします。標準の証明書は2027年2月10日から64日、2028年2月16日から45日になる予定です(2026年10月3日時点の発表)。
認証局が「そろそろ更新を」と知らせるARI(RFC 9773、2025年6月)という仕組みもできました。対応したクライアントなら、認証局が一斉に失効させる前の早めの更新にも自動で応じられます。
まず証明書の棚卸しをする
自動化の前に、どこに何枚の証明書があるかを知る必要があります。台帳はExcelでも十分です。次の列を用意します。
| 列 |
書く内容 |
例 |
| ドメイン名 |
証明書に入っている名前 |
www.example.co.jp |
| 使っている場所 |
サーバー・機器・サービス |
自社Webサーバー、VPN装置 |
| 種類と認証局 |
DV・OV・EV、発行元 |
DV、○○認証局 |
| 有効期限 |
証明書に書かれた日付 |
2027年1月20日 |
| 更新の方法 |
自動か手動か、使っている仕組み |
自動(ACME)、手動 |
| ドメイン確認の方法 |
メール・DNS・ファイル |
DNS |
| 契約と支払い |
契約者、支払い方法、請求先 |
法人カード、総務部 |
| 担当 |
正と副の2人 |
情シス田中、総務佐藤 |
| 通知の宛先 |
期限や失敗の知らせが届く先 |
共有アドレス |
漏れなく見つける3つの方法
- ドメインの一覧から探す。ドメインを登録している会社の管理画面で、自社のドメインをすべて書き出す
- 証明書の公開記録から探す。Google Chromeは、公開のログ(Certificate Transparency)に記録のない公開の証明書を信頼しない。ログの検索サイトにドメイン名を入れると、過去に出た証明書を一覧で調べられる
- 機器の管理画面を見る。VPN装置、UTM、NAS、複合機などの管理画面に入れている証明書を確かめる
2番目の方法では、制作会社や部署が独自に取った「知らない証明書」が見つかることもあります。見つけたら、誰が更新しているのかを台帳に書き足します。
自動にできないものから優先して手を打つ
| 場所 |
例 |
やること |
| レンタルサーバー・クラウド |
会社のWebサイト |
管理画面の自動更新を有効にする |
| 自社で管理するサーバー |
予約システム、会員サイト |
ACMEのクライアントを入れる |
| ネットワーク機器 |
VPN装置、ロードバランサー |
メーカーにACMEや自動化への対応を聞く。機器の入れ替えの予定にも入れる |
| 社内だけで使うシステム |
社内ポータル |
公開の証明書が本当に要るか見直す。プライベートCAも選択肢 |
| OV・EVで書類確認があるもの |
会社のサイト |
DVで足りるか検討する。会社情報の再確認は398日ごとに必要 |
担当と通知先を個人から外す
自動にしても、更新が失敗することはあります。DNSの設定変更やサーバーの移転で、ACMEが静かに止まることがあるからです。Let's Encryptも、更新されないときに知らせる監視を用意するよう勧めています。
| 決めること |
おすすめの形 |
| 担当 |
正と副の2人。ひとり情シスなら、副は総務や委託先の担当者でもよい |
| 通知の宛先 |
個人ではなく共有アドレス(例: cert-admin@自社ドメイン) |
| 販売店・認証局のアカウント |
会社のアドレスで作り、パスワードは会社の管理表に置く |
| 支払い |
個人のカードを使わない。法人カードか請求書払い |
| 監視 |
外からサイトを見て、残りの日数が少なくなったら知らせる仕組み |
| 委託先 |
制作会社や保守会社が更新している証明書を台帳に載せ、対応を確認する |
委託先には、次のような文面で確かめておくと話が早くなります。
今日からできること 2029年3月までの段取り
次の節目は2027年3月15日の100日です。手作業の証明書が年5〜6回の更新になる前に、自動化のめどをつけるのが現実的な目標です。
| 時期 |
やること |
| 2026年10月〜12月 |
証明書の台帳を作る。手動の更新に印を付ける |
| 2027年1月〜3月 |
手動のものを自動化するか、やめるかを決める。委託先に確認する |
| 2027年3月〜2028年 |
手動の更新をなくす。監視を入れる。機器の入れ替えを計画する |
| 2029年3月まで |
47日・ドメイン確認10日でも回るかを、実際の更新で確かめる |
最後に、今週中にできるチェックリストです。