件名は「停電について」。
たとえば総務から、こんなメールが回ってきたとします。来月の土曜日に設備点検で電気が止まる、とだけあり、止まるフロアも、電気が戻る時刻も見当たりません。サーバー室の機器の顔ぶれが浮かんで、長い息が出る場面です。
法定停電の準備は、サーバーの停止手順を開くところから始めると遠回りです。最初にやるのは、総務とビル管理から範囲と時刻と空調の話を聞くこと。停電はビルの行事で、段取りに要る情報の半分は情シスの外にあります。
手順書は200項目、終わりは深夜2時半
たかが停電、されど停電である。
出典: rura「法定停電の夜に」(2022年1月11日)
主担当を任された情報システム管理者のnoteです。手順書は大項目だけで200以上。17時に始めた作業は、21時ごろにサーバー管理ソフトの通信が切れて行き詰まり、先輩が糸口を見つけて戻りました。終わったのは深夜2時半です。
機器ごとの止め方の違いには、読んでいて笑ってしまいます。
3秒長押しで停止なのに、8秒長押ししたら強制終了になるとか指先の匙加減だと思う。
出典: rura「法定停電の夜に」(2022年1月11日)
青と赤のボタンを同時に押す手順では、「コナンに出てくる爆弾処理班にでもなった気持ちだった」そうです。
ここまで笑えるのは、無事に終わったからでしょう。オフィスのサーバールームを手放すよう勧める2019年のnoteにも、「オフィスにサーバールームを設けていて一番面倒なのが、年に一度の法定停電」とあります。週末の前後に出社して機器を落として上げるうえ、土日も動く部隊やサーバールームのIP-PBXがあると、業務の調整まで増えるからです。機器の話だけでは終わりません。
「法定」でも、毎年止まるとは限らない
「法定停電」は現場の呼び名です。経済産業省の内規には「年次点検」「停電点検」とあります。電気の保安を外部に委託する場合の要件を定めたこの内規では、年次点検は1年に1回以上で、原則は電気を止めて行います。
ただし例外があります。信頼性が高く、同等の点検を毎年している機器は、電気を止める点検を3年に1回以上にできます。経済産業省のQ&A(2026年10月版)は、承認のあとも点検の結果が不適当なら、全ての年次点検を停電で行うよう求めています。
つまり、総務に聞くことは「いつ止まりますか」だけでは足りません。「来年も止まりますか」まで聞いておきましょう。この例外を使う建物では、前回の手順書を知る担当者がもういないかもしれないからです。点検のやり方はビルの持ち主と電気の保安の担当者が決めることで、テナントが選べる話ではありません。それでも、予定は聞けます。
だから、通知を待たずに聞く手もあります。データセンターの設備を管理する人のnoteによると、計画停電の日時は数か月前から決まっているそうです。オフィスビルでも、点検の業者を手配する以上、直前に決まる話ではないでしょう。
総務とビル管理に聞く6つのこと
賃貸のオフィスなら、元の情報はビル管理会社からの通知です。自社ビルなら、総務や施設の担当者が持っています。情シスが聞きたいのは次の6つです。
| 聞くこと |
情シスに要る理由 |
| 止まる範囲(階、系統、共用部) |
止める機器が決まる。電気の現場は系統で分けて止める |
| 止まる時刻、戻る時刻、遅れたときの連絡先 |
止める順を逆算し、戻す朝の集合を決める |
| サーバー室の空調は止まるか、電気が戻れば動くか |
機器だけ先に上げると、冷えない部屋で動かすことになる |
| 停電の前後に入館する手段 |
カードの扉やエレベーターが使えるかで、集合の時刻が変わる |
| ブレーカーを戻す人と、戻った合図 |
ビル側の遮断器は情シスが触らないので、待つ先を決める |
| 来年以降の停電の予定 |
毎年でない建物では、手順書と担当者の引き継ぎを先に考える |
聞き漏らしやすいのは、電気が戻るときの話です。電気の現場から書かれたnoteは、復電で起きがちなことの1つ目に「戻したつもりが戻っていない」を挙げます。機器が動き出すことで「予期せぬ機器稼働」や「想定外の連動」が起きることもあるそうです。ブレーカーの初期の位置に色シールを貼る方法も紹介されていて、「『記憶』より『物理』で勝つ」という言い方が印象に残りました。
情シスにまねできることは2つあります。触らないことと、撮ることです。分電盤を勝手に操作せず、サーバー室の分電盤の写真を前の週に撮って、ビル管理の担当者に渡しておく。どのブレーカーの先に何があるかを一緒に書き込めば、戻す朝の確認はずっと速くなるはずです。
他部署の話も、情シスの案内に混ざってきます。防犯カメラや入退室管理の機械を総務が契約している会社なら、その止め方も総務と業者に聞くことになります。
クラウド中心の会社にも影響する機器
サーバー室が無い会社も、関係はあります。ルーター、スイッチ、NAS、複合機は、オフィスにある限り止まります。たまの社内SEのnoteによると、モニターやデスクトップPCの電源も「意外と忘れがち」だそうです。
編集部が気になるのは、オフィスにいない人への影響です。VPNの機器や社内の認証サーバーがオフィスにあれば、停電の間は在宅の人や出張中の人もつながりません。土曜の夜でも、海外の拠点は仕事中かもしれません。
反対に、SaaSとスマートフォンだけで仕事が回る会社なら、止まるのはオフィスの回線くらいです。その場合、準備は数台の電源を切るだけで済むでしょう。
止める日までの段取り、戻す朝の段取り
範囲が分かったら、機器の一覧に「止める人」「戻す人」「時刻」を足します。そのうえで、グリーの情報システム部の手順から2つ借りましょう。1つは、監視の通知を受ける業者への静観の依頼です。計画した停止で電話が鳴らないようにすると、本当の障害とも区別しやすくなります。もう1つが全社への案内です。電子機器とサーバーの電源プラグを抜くお願いに並んで、「冷蔵庫の中身の整理など」まで入っているのが、いかにもオフィスの停電です。プラグを抜くのは、点検の際の電圧変動や突入電流で機器が故障する場合があるためと説明しています。
案内の件名には、建物と日時を入れましょう。公務員の実務を書くnoteの嘆きはこうです。件名が「停電について」だけのメールが並ぶと、本文を開くまでどこの話か分かりません。同じnoteの例は「【○○事務所】停電します(5/31土10-16時)」です。
止める順と上げる順は、逆にします。FSジャパンのデータセンター向けの解説によると、利用者に近い階層から止め、戻すときは下の階層から上げて、前の階層の正常を確認してから次へ進みます。オフィスなら、業務のサーバーを止めてからストレージ、最後にネットワーク機器です。朝は電気と空調の復旧を確認してから、ネットワーク機器、ストレージ、サーバーの順に上げます。
ネットワーク機器は電気が戻れば自分で起動することがあっても、サーバーは電源投入の設定しだいで、人が入れて仮想マシンを順に起こす作業が残ります。戻す朝が早くなるのは、そのためです。グリーの本社ビルでは、停電が日曜から月曜にかかるため、月曜の朝6時ごろに集まり、9時ごろまでを目標に起動と動作を確認します。
たまの社内SEのnoteが挙げるトラブルは「モニターが映らない、ファンが回らない、NASがマウントされない」。特定のフロアだけつながらないときはスイッチの故障が多いので、予備を1〜2台置いておくと安心です。
年に一度の「止めてよい日」をどう使うか
止まる日は、負担であると同時に好機でもあります。グリーの情報システム部は、この時間を「年に一度のメンテナンスのチャンス」と呼びます。ファイアウォール、スイッチ、無線LAN、サーバー、UPSのバージョンアップを集中して進め、問題があれば見切りをつけて後日に回します。
一方で、千葉商科大学は止めない道を選びました。同大学の報告によると、2019年のサーバー室の移転を機に保守切替盤を約270万円で設け、点検のたびに借りる発電機からサーバー室全体へ給電できるようにしました。以前は3〜4人が休日に出て、シャットダウンと再起動をしていましたが、今は1人の立ち会いで済みます。
ところが、止まらないまま2〜5年動き続けると、一部のサーバーのアプリとL3スイッチに不具合が出ました。L3スイッチは設定を保存できない状態になり、どちらも再起動で直ったそうです。報告は、定期的な再起動を計画する必要があるとしています。
編集部は、この報告で法定停電の見え方が変わりました。年に1度の停電は、全部の機器を再起動して確認する日でもあったのです。止めない設備を入れるなら再起動の予定を別に持ち、止める運用を続けるなら、その日に保守を寄せる。どちらを選ぶにしても、情シスだけでは決められません。この大学の取り組みも、施設部門と情報システム部門の共同事業でした。
ただ、テナントが切替盤を入れるのは現実的ではないでしょう。代わりに、オフィスに残すサーバーを減らす手があります。停電のたびに手順書の行が1つ減るなら、それも立派な成果です。
読んだ日に確認すること
- 総務に、次の停電の日を聞きます。前回の通知のメールが残っていれば、転送してもらいます。
- 前回の手順書を開きます。無ければ機器の一覧から作り、止める人、戻す人、時刻の3列を足します。
- 下の文面で、6つの確認を総務へ送ります。
- 監視の業者と保守の業者に、静観の依頼の締め切りを確認します。
- 戻す朝に出社する人と、予備のスイッチの置き場所を決めます。
件名:【○月○日まで】○月○日の停電の件で、6点教えてください
○月○日の設備点検の停電に向けて、サーバーと社内ネットワークの準備を始めます。
次の6点を教えてください。ビル管理会社への確認が要る項目は、
こちらから直接聞いてもかまいません。
1. 止まる範囲(階、系統、共用部、サーバー室)
2. 止まる時刻と電気が戻る予定の時刻、遅れるときの連絡先
3. サーバー室の空調は止まるか、電気が戻れば自動で動くか
4. 停電の前後に入館する手段(カードの扉、エレベーター、警備への届け出)
5. ブレーカーを戻す担当と、戻ったことを知らせる方法
6. 来年以降も同じ時期に停電する予定があるか
全社への案内は、回答をいただいてから一緒に作らせてください。
来年の件名は、もう「停電について」ではありません。「【本社ビル】停電します(2/6土22時〜翌6時)」と書けるはずです。
あの深夜2時半のnoteの終わりには、静かになった機器へのこんな一言があります。「おやすみ、いつもありがとう。また明日。」総務と同じ表を見ながら準備できれば、止まる時刻や空調で慌てる夜は減るでしょう。
体験談と解説は公開されている8件から取り、法令の扱いは経済産業省の文書で確認しました。点検の周期と停電の時間は建物ごとに違うので、自社のビルの答えは総務とビル管理に確認してください。