「Wi-Fiお借りしてもいいですか?」「Wi-Fiのパスワード教えて」。来客からこう聞かれたとき、社員のPCがつながっているのと同じWi-Fiを教えていないでしょうか。編集部が読んだ3本のnoteは、書き手の立場こそ違いますが、3本とも同じ場面を心配していました。
受付で渡しているのは、社内の鍵かもしれない
来客時、受付で「Wi-Fiのパスワードはこちらです」と案内している会社、けっこう多いんですよね。
出典: note「会社のWi-Fi、ゲスト用と分けていますか?――『鍵を渡す』ことの怖さ」(キョウ・2026年5月13日)
同じ記事は、その案内を「社内のネットワークという「建物」に入るための鍵を渡している行為」とたとえました。うまい言い方です。中小企業向けにITのヘルプデスクを請け負う合同会社セクーラも、noteにこう書いています。
会議室の壁にパスワードを書いた紙が貼ってある会社さんも意外と多い気がします。
出典: note「来客に社内のWi-Fiをそのまま教えていませんか」(合同会社セクーラ・2026年9月27日)
なぜ、社内の鍵がそのまま来客に渡るのでしょう。キョウさんが、ありがちな失敗のうち「一番多い」ものとして挙げるのが、社員もゲストも同じSSID(Wi-Fiの名前)を使っている形です。受付に貼った紙のパスワードを、社員も毎日使っている状態です。オフィスを開いたときに1本だけ用意したWi-Fiが、そのまま来客にも使われ続けた名残ではないか。編集部はそうみています。
受付と会議室は総務の持ち場で、つながる先のネットワークは情シスの持ち場。どちらも「向こうが決めたもの」と思っているうちは、誰も見直さないままです。現場の社員が「うちのWi-Fi、ゲスト用と分かれてますか?」と総務にひとこと聞くだけで、風向きが変わることもある。キョウさんの記事の終わり近くには、そんな一文があります。
来客の端末から、社内の何が見えるか
公衆Wi-Fiの話ですが、総務省が2025年2月に出した「公衆Wi-Fi提供者向け セキュリティ対策の手引き」に、分かりやすいホテルの例があります。
総務省の手引きにある、業務用のネットワークでWi-Fiを出したホテルの例出典: 総務省「公衆Wi-Fi提供者向け セキュリティ対策の手引き(令和7年2月版)」(公共データ利用規約(第1.0版)(総務省ウェブサイトの利用規約))
経費を抑えようと、ホテルの業務用のネットワークで宿泊者にWi-Fiを出した。数日後、事務室のコピー機に保存したファイルが宿泊者のパソコンから見える、と報告が来た。原因は、業務用と宿泊者用のネットワークを分けていなかったことでした。
ホテルを会社に、宿泊者を来客に置き換えれば、会議室でも同じ形の事故は起こりえます。Wi-Fiの入門の連載を書いているスーザンさんが挙げる、社内のWi-Fiにつながる機器はこうです。
会社のWi-Fiには、業務用パソコン・共有フォルダ(NAS)・ネットワークプリンターなど、社外に見られたくない機器がつながっています。
出典: note「【Wi-Fi入門 第8回】ゲストWi-Fi設定――私物スマホ・お客さん用ネットワークを切り分ける」(スーザン・2026年6月20日)
来客に悪意が無ければ済む話でもありません。来客の端末がたまたまウイルスに感染していれば、社内に広がる経路になる、とキョウさんは指摘します。
時間がたってから効いてくる面もあります。セクーラのnoteには、こうあります。
しかも一度教えたパスワードは変えない限りずっと有効です。半年前に来た業者さんのスマホが今も勝手に繋がっているなんてことも普通に起こります。
出典: note「来客に社内のWi-Fiをそのまま教えていませんか」(合同会社セクーラ・2026年9月27日)
見落としやすいのは、その先でしょう。来客用のWi-Fiを別に作っても、これまでに配った社内用のパスワードは、相手の端末から消えません。分けた日に社内用のパスワードも一度替えなければ、半年前の業者のスマホは、来客用ではなく社内用につながり続けます。
公衆Wi-Fiを出す企業等でも、1割強が「共有している」か「わからない」
では、分けている組織はどれくらいあるのか。手引きの巻末に、総務省が2024年2〜3月に行った調べの結果があります。地方自治体1,726団体と企業等714社に依頼し、Wi-Fiを提供している所が答えたものです。業務用のネットワークとの分け方の答えは、次のとおりでした。
| 答え |
企業等(120) |
自治体(744) |
| 物理的に分離している |
63% |
79% |
| 論理的に分離している |
25% |
17% |
| 同じネットワークを共有している |
3% |
1% |
| わからない |
9% |
3% |
企業等の答えでは、「同じネットワークを共有している」と「わからない」を合わせて12%です。しかもこれは、公衆Wi-Fiとして意識して出している所の数字で、会議室で来客に教えるWi-Fiは調べの外にあります。サービスとして出していない分、分け方を決めた人がいない会社はもっと多いでしょう。
手引きが求めるのは、業務用のネットワークでWi-Fiを出さないことです。物理的に別のネットワークを作るか、VLANなどで論理的に分けます。あわせて、同じWi-Fiにつないだ端末どうしの通信を止める機能も、使い方に合わせて設定するよう勧めます。
パスワードは替えるか、教えないか
来客用を分けたあとに残るのが、パスワードの扱いです。
スーザンさんは、一度教えたパスワードは相手の端末に残り続けるとして、来客が多い職場では月に一度など区切りを決めて替えると安心だ、と勧めます。セクーラは、パスワードを定期的に替えることには「正直に言うと私はこの定期変更はあまり意味がないと思っています」と書き、続けてこう勧めます。
なのでゲスト用だけは割り切ってこまめに変えて社内用は簡単には教えないという運用が現実的なところだと思っています。
出典: note「来客に社内のWi-Fiをそのまま教えていませんか」(合同会社セクーラ・2026年9月27日)
替えるなら来客用、社内用はそもそも教えない。2人の勧めは、この順番でそろいます。
パスワード(手引きの言葉では暗号化キー)を掲示する害は、総務省の手引きの5ページのコラムにあります。WPA2パーソナルの方式では、つなぐ人全員が同じパスワードを使います。それを知っている人なら、条件が整えば通信の中身を比較的容易に読み解けるうえ、同じSSIDとパスワードで偽のWi-Fiを立てることもできる。だから、この方式では掲示して誰もが知る状態は望ましくない、という説明です。代わりに挙げるのは、必要な人に用紙を個別に配る、定期的に替えて知る人を少なくする、という対応でした。
とはいえ、替えるには手間がかかります。定期的に替えると、変えた翌日に「繋がらないんですけど」という連絡が何件も来る、とセクーラは書きました。来客用のWi-Fiでその連絡を受けるのは、情シスではなく受付です。月初にパスワードを替えても、受付のカードと会議室の案内が古いままなら、来客は受付に戻ってきます。替える係と、紙を差し替える係を同じ日に動かせるか。来客用のWi-Fiが続くかどうかは、ここで決まりそうです。
セクーラはさらに、パスワードを替える運用より先の話として、エンタープライズ認証のように別に管理する形に触れました。「接続端末すべてを管理し、新しい端末等を把握する事で社内ネットワークの不正端末の可視化をする事が最初の1歩」という一文です。来客用を分けるのは、その手前にある一歩になります。
総務と情シスの分担
| 決めること |
総務(受付・会議室) |
情シス |
| 来客用と社内用を分ける |
来客が使う場所と、だいたいの人数を伝える |
来客用のSSIDを作り、業務用のネットワークと分ける |
| つないだ端末どうしの通信 |
(なし) |
来客用で止める設定にする |
| 分けた日に社内用のパスワードも替える |
会議室の機器などをつなぎ直す日を、使う部署に知らせる |
替えて、社員のPC・複合機・会議室の機器をつなぎ直す |
| 来客用のパスワードを替える日 |
月初などの日を、受付の予定に入れる |
替える作業をする |
| 来客への渡し方 |
受付でカードを渡し、壁の貼り紙は外す |
カードの文面とQRコードを作る |
| 「つながらない」と言われたとき |
来客のカードが新しいものかを見る |
つながらない理由を調べる |
| 長く出入りする業者 |
名前と期間を伝える |
来客用に入れるか、別の扱いにするかを決める |
表は、総務省の手引きと公開されている声をもとに編集部が作った例です。受付を外の会社に頼んでいるなら、総務の列はその会社との取り決めになります。来客から「つながらない」と言われたときの切り分けは、「Wi-Fiが遅い」「ネットがつながらない」の正体と情シスの1分切り分け質問が使えます。
来客用に分けるときに確認すること
- 受付と会議室で、いま来客に教えているWi-Fiの名前(SSID)とパスワードを、総務が書き出します。社員のPCがつながるものと同じなら、そこから手を付けます。
- 来客用のWi-Fiにつないだノートパソコンから、共有フォルダや複合機の管理画面に届かないかを、情シスが確認します。届くなら、分離が足りていません。
- アクセスポイントで、来客用のネットワークの「端末どうしの通信を止める」設定を確認します。製品によって、プライバシーセパレーターやクライアントアイソレーションなどと呼ばれる機能です。
- 来客用に切り替えたら、社内用のパスワードを一度替えます。社員のPC、複合機、会議室の機器などをつなぎ直す段取りは、替える前に決めておきます。
- 会議室の壁の貼り紙を外し、受付で渡すカードに切り替えます。来客用のパスワードを替える日と、カードを差し替える日は、総務の予定に同じ日で入れておきます。
2は、来客用につないだノートパソコン1台でできる確認です。地味な作業ですが、届いてしまったときの驚きは大きい。だから、総務の担当者にも横で見てもらうと、そのあとの話が早く進むはずです。