「すみません、今日だけは再起動しないでもらえますか」。月初の朝、経理の席から内線が入ります。画面の右下には、更新のための再起動を求める通知。経理はちょうど、前の月の数字を締めているところです。
この電話が鳴る理由は、たいてい単純です。情シスは経理の締めの日を知らず、経理は情シスの作業の日を知らない。どちらが悪いという話ではありません。見ている暦が違うだけです。経理の締めの日と、情シスが毎月くり返す作業を1枚のカレンダーに並べておけば、「今日だけは」の多くは前もって避けられます。
「締め」は月に一度ではない
情シスが最初につまずくのは、「締め」という言葉の幅の広さです。販売管理のシステムを見直すことになった情シスの担当者は、聞き取りの場で、五十日にも月末にも決算月にも「締め処理をします」と言われたと書いています。
すべて締め処理として一緒くたに説明されてしまい、ヒアリングしても締め処理の意味が理解できませんでした。
出典: Zenn「現場改善#013 締め処理の謎」川原(2022年10月8日)
聞き直して分かったのは、五十日の締めは請求書を出すため、月末の締めは請求書と自社の月の集計のため、という違いでした。決算の締めは、その上に重なります。名前と中身をそろえてからは、利用者と情シス、ベンダーの話がかみ合うようになったそうです。
経理から見れば、締めの日は仕事が一度に押し寄せる日でもあります。
月末になると伝票処理や帳票出力、売上・経費の計上、取引先との照合作業など、さまざまな業務が一気に押し寄せてきます。
出典: note「経理業務の平準化で実現する月末地獄からの脱却」ukak@ゆるふわバックオフィスゼネラリスト(2025年4月20日)
四半期ごとに決算を組む会社なら、山はもう一段高くなります。配属3年目の経理の担当者は、最初のころの決算をこう振り返っています。
3ヶ月に1回やってくる山場に、配属当初は毎回ドキドキ。
出典: note「経理の繁忙期をラクにする!私がやっている5つの準備」まな(2025年9月18日)
締めの日に止まると困るのは、会計システムだけではありません。請求書を出すシステム、経費精算のSaaS、帳票を出すプリンター、経理の担当者のPC。締めの作業は、情シスが面倒を見ている多くの仕組みの上で進みます。
| 締め |
主な時期 |
経理がしていること |
情シスが避けたい作業 |
| 五十日の締め |
5・10・15・20・25日の翌営業日など |
請求書を出す |
請求のシステムの保守、プリンターの入れ替え |
| 月末・月初の締め |
月末から月初の数営業日 |
売上と経費の計上、残高の照合 |
経理の端末の再起動、入れ替え、権限の変更 |
| 決算の締め |
決算月の翌月 |
決算の整理、監査や税理士への資料づくり |
会計システムの版の更新、ファイルの保存先の移行 |
表は月末締めの会社の例です。実際の日は会社ごとに違うので、経理に聞くのがいちばん早いでしょう。
情シスの作業も、毎月同じころにやってくる
情シスの側にも、毎月決まった山があります。代表はWindowsの月例の更新です。米国で第2火曜日に公開され、日本では水曜日に届きます。日付でいえば、毎月9日から15日のどこか。月初の締めが長引く月には、試算表を仕上げる週とぶつかります。
社員の側から見たこの日を、大学の情報システムの管理職を務めた筆者は、職場の端末が一斉に更新を取りに行く日として書いています。
「毎月第2水曜日が怖いんです‥」
出典: note「毎月第2水曜日は職場のネットワークが遅いと感じませんか|Windows更新プログラムの話」officeark_it(2025年6月9日)
2026年は、ここに変化がありました。Microsoftは、7月28日以降に出す更新から、再起動が要る更新を月例のセキュリティ更新にまとめ、再起動を月1回に減らしています。再起動は、できるだけ利用者の「アクティブ時間」の外に入ります。ただし同社の説明は、この仕組みを今のところ、会社のIT部門が管理していない端末だけのものとしています。会社で管理しているPCがいつ再起動するかは、Intuneやグループポリシーで情シスが決めた期限しだいです。
月例の外から来る更新もあります。10月27日にも、eMudhraの証明書の扱いを直す定例外の更新が出たばかりです。中身はWindowsの定例外の更新の記事にまとめました。このほか、パスワードの期限、PCのリース切れ、会計や経費精算のSaaSの保守も、毎月どこかの日に落ちてきます。パスワードの期限の考え方は「月曜の朝にパスワード期限切れ」の問い合わせ殺到で、SaaSの請求とライセンスの数の合わせ方はSaaSの請求書とカード払いは誰が管理する?で扱いました。
締めの期間に続ける作業、後に回す作業
締めの期間だからといって、全部を止めるわけにはいきません。月例の更新を止め続ければ、攻撃に使われる穴を開けたままにすることになるからです。続けるものと、締め明けに回すものを分けておきます。
| 作業 |
締めの期間の扱い |
理由 |
| 月例の更新の配布 |
続ける。再起動の期限だけを締めの日から外す |
修正を遅らせない |
| 定例外の更新 |
当てるかをその場で決め、経理の窓口に先に知らせる |
待てない修正がある |
| PCの入れ替え・リース切れの回収 |
締め明けに回す |
会計ソフトや帳票の設定の確認に時間がかかる |
| 会計システム・SaaSの版の更新 |
締め明けに回す。SaaSは保守の日を確認 |
画面や帳票の形が変わることがある |
| パスワードの期限・アカウントの停止 |
締めの日に期限が来ないようにする |
ログインできないと締めが止まる |
| ネットワークの工事・ファイルの保存先の移行 |
締め明けに回す |
銀行や税理士とのやりとりが止まる |
システムの入れ替えのような大きな作業では、日付だけでなく、経理の手が空くかも見ておきたいところです。経理の担当者がIT寄りの仕事まで抱えている会社では、なおさらでしょう。インフラの仕事から経理に移った担当者は、別の仕事で手が離せないと伝えていた間に、新しいシステムの契約が進んでいた経験を書いています。
「少なくとも現行プロジェクトAがひと段落するnヶ月後からでないと私はそちらにリソースは割けません」と伝え、そちらに注力しているうちに契約を締結していました。
出典: note「経理マンのシステム導入“失敗”事例2選」ゾル(2024年12月3日)
ファイルの保存先や名前の決まりを変えるときも同じです。2021年に、電子帳簿保存法の対応を2か月で進めた一人情シスの記録があります。取引先・日付・金額でファイル名を付けて保存する作業が、経理の実務の担当者に重くのしかかったそうです(中小企業の一人情シスが2ヶ月間で電子帳簿保存法に対応させるまでの軌跡)。決まりを変えるなら決算の締めを外し、経理が新しいやり方に慣れる余裕のある月を選びます。
締めカレンダーを1枚にする
経理の締めの日と、情シスが毎月くり返す作業を並べた締めカレンダーの例作成: 編集部 / 出典: 情シスの相棒編集部(もとの資料: Microsoft「One restart a month for Windows updates」と公開されている体験談7件)
カレンダーには、両方が書き込みます。経理が書くのは、締めの日と、決算や監査の予定です。情シスは、月例の更新の日と再起動の期限、PCの入れ替え、SaaSの保守、パスワードの期限、自分たちの不在の日を書きます。同じ日に両方の欄が埋まったら、どちらかをずらす。作るのは決算の日程が決まったときで、あとは月初に見直せば足ります。
経理への知らせ方も、カレンダーに合わせて変えます。システムの保守の手引きを書いたあるエンジニアは、保守の数週間前に社内の関係者へ知らせ、当日に大事な予定が無いかを見て、あれば日をずらす手順を勧めています(システムメンテナンスを事故なく終わらせるためのTips)。経理あてなら、たとえば次のような短い文面で足ります。
件名:【経理の皆さんへ】11月の更新と作業の予定
・11月11日(水):Windowsの月例の更新が届きます。再起動の期限は11月18日(水)18時です。
・11月2日〜6日:締めの期間のため、経理の端末の入れ替えと権限の変更はしません。
・締めの期間に困ったとき:情シス 〇〇(内線〇〇)。不在の日は 〇〇 が受けます。
締めの前の週に確認すること
- 経理に、今月の締めの日と、決算や監査の予定を聞き、カレンダーに入れます。
- 管理画面で、経理の端末の再起動の期限が締めの日に来ないかを見ます。重なるなら、期限の日数か時間帯をずらします。
- パスワードの期限、アカウントの停止、ライセンスの切り替えの日が、締めの日と重なっていないかを調べます。
- 会計や経費精算のSaaSのお知らせのページを開き、保守の予定をカレンダーに足します。
- PCの入れ替え、ネットワークの工事、ファイルの保存先の移行は、締め明けの週に置きます。
- 締めの期間の連絡先と、情シスが不在の日に代わりに受ける人を、経理の担当者に渡します。
経理の締めの日を、情シスの予定表に1行入れる。最初の一歩は、それだけで足ります。来月の月初、経理の席からの内線が「今日だけは」から「来週お願いします」に変わっていれば、カレンダーが効いてきた証拠です。