「〇〇さんのPCのログ、3か月分出してもらえますか」。労務や人事の担当から、こう頼まれた経験のある情シスは少なくないはずです。申告した勤務の時間と、実際の働き方がずれていないか。労働基準監督署の調査に備えたい。退職した社員から残業代を求められた。理由はいろいろですが、記録を持っているのは、多くの場合、情シスです。
この記事では、厚生労働省のガイドラインと個人情報保護委員会のQ&A、公開されている専門家や現場の記事6件(編集部が読んで整理)をもとに、労務から「PCのログ」を頼まれたときに情シスが確かめることと、渡し方の型をまとめます。
なぜ労務は「PCのログ」を求めるのか
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年)は、始業・終業の時刻を確かめる原則の方法として、次を挙げています。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
出典: 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日)
自己申告で記録する場合も、入退場の記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場の中にいた時間が分かるデータがあり、申告との間に著しいずれがあるときは、実態を調べて補正するよう求めています。2019年の働き方改革の関係の法の改正では、健康を守る面からも、労働時間の状況を客観的な方法で把握することが求められるようになりました(社労士のnoteの解説より)。
つまり、労務が「PCのログ」を求めるのは、思いつきではなく、国の決まりに沿った動きです。
あるある1: 「ログって、どこにあるんですか?」
頼まれてから、情シスが最初に考えるのは「どのログのことか」です。
- WindowsのイベントログのPCの起動・終了、ログオン・ログオフ
- 資産管理やエンドポイントの管理のツールの操作の記録
- VPNの接続の記録、クラウドのサービスのサインインの記録
- 入退室のカードの記録(総務や施設の担当が持っていることも)
それぞれ置き場所も、残る期間も違います。フォレンジックの会社のnoteは、ログの扱いについて、こう注意しています。
ログは一定期間で上書きされる場合があります。
出典: note「労務調査でパソコンの起動時間を確認する方法と注意点」デジタルデータフォレンジック(2026年4月24日)
「3か月分」と頼まれても、PCの中には1か月分しか残っていない、ということは起こりえます。
あるある2: 「PCがついていた=働いていた」ではない
ログがそろっても、そのまま労働時間にはなりません。同じnoteは、こう書いています。
PCが起動していても、本人が業務をしていたとは限りません。
出典: note「労務調査でパソコンの起動時間を確認する方法と注意点」デジタルデータフォレンジック(2026年4月24日)
労務の仕組みを提供する会社のセミナーの記録でも、話し手が次のように述べています。
PCログや入退室ログといった客観的な記録も絶対ではありません。たとえば昼休みの業務外利用やPCを使わない会議、深夜の自動更新など、業務外でもログを取る場合があります。
出典: note「“働いている時間”は本当に見えていますか?2026年の労務戦略セミナーレポート第1弾」テレワークマネジメント(2026年3月17日)
夜中の3時にPCが起動していたのは、Windowsの更新だった。情シスなら、すぐに思い当たる場面です。ログは「ずれを見つけて話を聞くきっかけ」として使い、本人の説明と合わせて判断するのが、現場の考え方です。
あるある3: 社員からは「全部見られている」と思われる
ログを出す側の情シスは、社員からどう見えているのでしょうか。会社員の目線で書かれたnoteは、知り合いの情シスに聞いた話として、こうまとめています。
普段はログを溜めているだけで、実際に中身を見るのは問題が起きたときだけ。
情報漏洩やトラブル、勤怠やパフォーマンス問題が発生したら、過去の操作履歴が引っ張り出される。
出典: note「情シスに聞いた、会社のPCってどこまで監視されてるの?」幸せサボリーマンの極秘テク(2025年10月9日)
ふだんから全員を見張っているわけではない、という実態は、情シスの感覚にも近いはずです。一方で、「問題が起きたら引っ張り出される」と受け止められていると、ログを出す場面が増えるほど、情シスへの見方は厳しくなります。だからこそ、誰の判断で、何のために見るのかを、先に決めておくことが大事です。
あるある4: 調べる前に、PCを触ってしまう
「本人のPCを持ってきたので、ちょっと見てください」。急いで電源を入れると、それ自体が新しい記録になります。先のフォレンジックの会社のnoteも、調べる対象のPCをそのまま操作すると、新しいログやキャッシュができて、調べる時点の状態が変わることがあると注意しています。
懲戒や裁判につながりそうな件では、手元で触る前に、管理のツール側の記録で足りるかを考え、必要なら専門の会社に相談します。
国の決まりで押さえること(個人情報保護委員会のQ&A)
社員のPCの操作の記録を見ることは、個人情報の扱いでもあります。個人情報保護委員会のQ&A(Q5-7)は、従業者を対象にオンラインなどでモニタリングをするときの留意点として、次を挙げています。
- モニタリングの目的をあらかじめ特定したうえで、社内規程などに定め、従業者に明示する
- モニタリングの実施の責任者と、その権限を定める
- 実施のルールをあらかじめ作り、運用する人に徹底する
- ルールに従って適正に行われているかを確かめる
同じ回答は、重要な事項を定めるときは、労働組合などに通知し、必要に応じて協議することが望ましいとも書いています。勤怠のためにPCのログを使うなら、その目的を規程に書き、社員に知らせておくことが土台になります。
労務と情シスの分担(編集部の整理)
| 役割 |
労務・人事 |
情シス |
| 目的を決める |
勤怠のずれの確認、調査への備え、請求への対応など、何のためかを決める |
目的に合うログが何かを答える |
| 範囲を決める |
対象の人、期間 |
その期間のログが残っているか |
| 規程と説明 |
就業規則やモニタリングの規程、社員への説明 |
規程に書く「どのログを、どれだけ残すか」の案 |
| 取り出す |
依頼票を出す |
決めた範囲だけ取り出し、取り出した記録を残す |
| 見る・判断する |
本人の説明と合わせて判断する |
判断はしない。ログの読み方(自動の更新など)を添える |
| 保管と消去 |
保管の場所、消す日 |
渡した写しの受け渡しの方法 |
依頼票の型
労務から頼まれたとき、この項目を埋めてもらってから取り出すと、出し直しが減ります。
- 目的: (例)自己申告とPCの使用時間のずれの確認
- 根拠: 就業規則やモニタリングの規程のどの条か
- 対象: 社員の名前、使っているPCやアカウント
- 期間: 何月何日から何月何日まで
- 欲しい記録: PCの起動・終了、ログオン・ログオフ、VPN、入退室など
- 見る人: 労務の誰と、上長の誰まで
- 受け渡し: 共有のフォルダか、暗号化したファイルか
- 保管と消す日: いつまで残し、いつ消すか
- 本人への説明: 誰が、いつ、どう話すか
今日からできること
- ログの一覧を作ります。 PCのイベントログ、資産管理のツール、VPN、クラウドのサインイン、入退室の記録について、どこにあり、どれだけ残るかを一枚にまとめます。勤怠の記録を残す期間と比べ、足りないものは設定を見直します。
- 労務と一度話します。 どんな場面でログを頼みそうか、労務の担当に聞いておきます。頼まれてからではなく、先に話すのがこつです。
- 依頼票を作ります。 上の型を、社内のフォームやチケットに入れておきます。
- 規程を確かめます。 PCの操作の記録を勤怠の確認に使うことが、就業規則やモニタリングの規程に書かれているかを、労務や法務と確かめます。
- 触る前に止まる手順を決めます。 懲戒や裁判につながりそうな件では、PCの電源を入れる前に、誰に相談するかを決めておきます。
人事との連携の型は、入社と退社の手続きを扱った入社・退社の連絡が遅い?人事と情シスがすれ違わない連絡票と進め方も参考になります。PCの操作の記録が、どんな仕組みで残り、検知されるかは「USBメモリを挿すと情シスが飛んでくる」は本当? 検知の仕組みと理由で書いています。