採用の担当から「面接に出てほしい」と頼まれたら、どこまで引き受けますか。採用が忙しくなる時期に情シスへ届く相談は、IT担当の面接への同席、採用管理のツールの導入、選考でのAIの利用、の3つにほぼ集まります。
どれも断りにくく、引き受けすぎると後で困る相談です。公開されている情シスと人事の声、国の指針と法律の定めをもとに、手伝う範囲と線の引き方を、相談ごとに見ていきます。
相談1「IT担当の面接に出てほしい」
ひとり情シスの立場から書いている、きりんの情シスさんは、この相談をこう書き出しています。
「来月、IT担当者の採用面接があるんだけど、情シスにも参加してほしくて」
こう言われた情シス担当者は少なくないはずです。
出典: note「「採用の面接、情シスもやってほしいんだけど」を乗り越える。AIでIT人材採用面接シートを作る方法」きりんの情シスさん(2026年7月19日)
採用担当は、ITのことが分からないから技術の部分を見てほしい、という気持ちで声をかけます。一方の情シスは、面接で何を聞き、どう評価すればよいのか分からず戸惑う。同じ記事は、情シスに期待される役割を、技術の確認、チームの働き方に合うかの確認、入社後の業務をこなせるかのすり合わせ、の3つに整理しています。
面接の前に、採用担当と次の3点を決めておくと、当日も後も迷いません。
- 受け持つ範囲: 技術の確認だけか、人柄や条件の話にも入るか
- 合否への関わり方: 点数を付けて意見を出すだけか、合否を一緒に決めるか
- 聞いてはいけないこと: 本籍や家族のこと、思想や信条などは、採用担当と同じ線で聞かない(厚生労働省の指針。相談3で触れます)
技術の質問と評価の基準を1枚の面接シートにしておけば、次の採用でもそのまま使えます。
相談2「採用管理のツールを入れたい」
応募の数が増えると、履歴書を共有フォルダに置き、進み具合を表計算で追う形では回らなくなります。ひとりで人事を担っていた重田さんは、採用管理のツール(ATS)を入れたときの迷いを書いています。
あくまで主観ですが、月の応募数/30~40人以上の企業はATSを導入した方が良いかなと思います。
出典: note「ATS(採用管理システム)導入したくて、HRMOS・HERP・Talentioで悩んだ話」重田@ニーリー人事(2022年1月29日)
同じ記事は、セキュリティと効率の両面から、その規模をツールなしで管理するのは限界があるとし、合わなかったときの乗り換えの手間が大きいので選ぶときは慎重に、とも書いています。
情シスが見るところは、機能の比較とは別にあります。採用サイトの応募の受け付けを設計した記事(Qiita)は、応募のデータがどこを通り、どこに残るかを先に決めるよう勧めています。
通知メールを送ったことを、そのまま正式な応募recordにしないのがポイントです。
出典: Qiita「WordPress採用サイトの応募受付をデータフローで設計する:フォームとATSの責任境界」2GU(2026年9月1日)
応募の通知メール、面接官に回すPDF、集計のための表計算のファイル。ツールを入れても、応募者の情報はあちこちに写されます。情シスが採用担当と確認しておきたいのは、次の4つです(編集部の整理)。
| 確認すること |
中身 |
| 正式な置き場所 |
応募者の情報の正本をどこに置くか(ツールの中か、別の場所か) |
| アカウントと権限 |
社員のアカウントでログインできるか。面接官は担当の応募者だけを見られるか |
| 写しの行き先 |
通知メール、ダウンロードしたファイル、チャットへの転送を、どこまで許すか |
| 消すしくみ |
決めた時期に、ツールの中と写しの両方から消せるか |
相談3「選考でAIを使ってよいか」
ここがいちばん判断に迷う相談です。コンサルティング会社のユーファスは、情シスの担当者として、既にある法令から線を引いた経緯を書いています。
厚生労働省の指針(職業安定法第5条の5にもとづく平成11年労働省告示第141号)は、職業紹介の事業者だけでなく求人をする会社も対象に、次の個人情報を原則として集めてはならないとしています。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
ユーファスは、職務経歴書や自己PRの文章をAIに読み込ませて人物像を分析させると、文面からこうした事項を推し量ってしまうことがある点を問題にしています。推し量らせることが「集める」に当たるかは指針に書かれていないため、社内のルールで明示的に禁じたそうです。
入力そのものにも論点があります。個人情報保護委員会は、生成AIのサービスに個人データを含む文章を入力するときの注意を、2023年6月に出しています。ユーファスは、学習に使われない設定を確かめたAIのアカウントだけを使い、必要な範囲を超える情報は入力しない形にしています。そのうえで、線をこう引いています。
AIの出力は、経歴の要約や条件への該当の抽出、文面の作成といった補助に限る。合否およびこれに準ずる判定は、AIに委ねない。
出典: note「「採用でAIを使っていいですか」と聞かれて。情シス担当者が、既存の法令から引いた合否判定の線|情シスの相談室 #3」ユーファス(UFAS)(2026年9月14日)
ユーファスは、補助か判定かの境目を、AIの答えをそのまま採用の理由にできるかどうかで見ていると説明しています。要約なら、人が判断するときの材料にとどまります。評価点や適性の判定は、それ自体が結論になってしまいます。法律の判断が要る場面は、原文と専門家の確認に沿ってください。
不採用の人の書類は、どうするか
採用が終わると、不採用の人の履歴書と、メールやツールに残ったデータが手元に残ります。社労士の矢川さんは、扱いに困るのは不採用の人の個人情報だとして、こう勧めています。
私個人としてオススメなのは、すべて返却することです。
出典: note「応募者から預かる書類の管理方法」矢川 喬平/社労士(2022年9月5日)
同じ記事は、ほかの方法として専門の業者による溶解処理を挙げ、電子のデータはロックの付いたファイルで、紙は鍵のかかる場所で保管するよう勧めています。
個人情報保護法第22条は、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない、としています。保存の期間を一律には決めていないので、会社で「いつ消すか」を決める必要があります。情シスが手伝えるのは、相談2で挙げた写しの行き先まで含めて、消し漏れを見つけることです。
採用担当と情シスの分担表(例)
最後に、3つの相談と書類の片づけを、分担の形にまとめました(編集部の例)。
| 項目 |
採用担当 |
情シス |
| IT担当の面接 |
日程、候補者への案内、合否の最終判断 |
技術の質問と評価の基準、面接シート |
| 採用管理のツール |
選定と業務の流れ、候補者との連絡 |
アカウントと権限、写しの行き先、消すしくみの確認 |
| 選考でのAI |
何に使うかの決定、合否の判断 |
使うAIの設定(学習に使われないか)の確認、入力してよい情報の線引き |
| 書類とデータの片づけ |
消す時期を決める、紙の返却や処分 |
ツール・メール・共有フォルダの写しの洗い出しと削除 |
今日からできること
- 次のIT担当の採用の前に、採用担当と「受け持つ範囲」「合否への関わり方」「聞いてはいけないこと」の3点を話しておきます。
- いまの採用で、応募者の情報がどこにあるか(ツール、メール、共有フォルダ、チャット)を採用担当と書き出します。
- 採用担当がAIを使っている、または使いたい場合は、どのAIのどのアカウントかと、学習に使われない設定になっているかを一緒に確かめます。
- 「AIは要約と文面まで。合否は人が決める」という一文を、採用の手順か社内のAIの利用のルールに書き足します。
- 不採用の人のデータを消す時期を採用担当と決め、ツールの中と写しの両方から消す日を予定に入れます。