編集部員の家族が勤める、従業員200人弱の電気・電子系メーカーでは、生成AIの印象があまり良くなく、導入の話が進まないそうです。「そういう会社は多いのか」という声をきっかけに、公開されている全国調査の数字と自由回答、公的な報告書から実情と裏側を調べました。当社がアンケートをしたものではありません。
そういう会社は多いのか:200人規模では半数以上がまだ使っていない
結論は「多い」です。帝国データバンクが2026年3月に1万312社に聞いた調査では、生成AIを活用している会社は34.5%でした。従業員101〜300人の会社では44.4%で、半数以上はまだ使っていません。
| 従業員数 |
生成AIを活用している |
| 5人以下 |
29.6% |
| 21〜50人 |
34.3% |
| 51〜100人 |
36.7% |
| 101〜300人 |
44.4% |
| 301〜1,000人 |
51.9% |
| 1,000人超 |
63.6% |
出典: 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」。会社が大きいほど使っている割合が高く、差ははっきりしています。
海外の同じ規模の会社と比べると
IPAの「DX動向2025」は、日本・米国・ドイツの会社を従業員の規模別に比べています(2025年2〜3月の調査)。101〜300人の会社で、生成AIを導入・試験利用・検討している割合は、日本38.6%、米国80.4%、ドイツ61.0%でした。
| 101〜300人の会社 |
日本 |
米国 |
ドイツ |
| 導入している |
13.5% |
25.0% |
14.4% |
| 試験利用中・検討中 |
25.1% |
55.4% |
46.6% |
| 関心はあるが予定はない・今後も予定はない |
49.0% |
8.9% |
17.8% |
日本の同じ規模の会社は、約半数が「予定はない」側にいました。米国では1割に届きません。
製造業だけが遅れているわけではない
業種で見ると、製造業は平均並みです。帝国データバンクの2026年の調査では、製造業の活用は33.0%で、全体の34.5%とほぼ同じでした。差が出るのは、会社の規模と、社内のどの部門かです。
2026年版の中小企業白書によると、AIを使っている中小企業でも、部門ごとの活用には差があります。バックオフィスでは73.4%が使っている一方、製造・生産管理・物流の部門は57.2%でした。事務は進んでも、工場の現場はこれからという会社が多いのです。
情報通信白書の図。生成AIの活用方針の割合を大企業と中小企業で比べている出典: 総務省「令和8年版 情報通信白書」(公共データ利用規約(第1.0版))
総務省の情報通信白書(令和8年版)では、生成AIの使い方の方針を「明確に定めていない」中小企業が31.5%ありました。大企業は15.0%です。
管理職はもう使っている:役職別の利用率
「管理職は賛成でも、会社としては入れにくい」。この見立ては、利用率の数字にも表れています。パーソル総合研究所の2026年4〜5月の調査では、課長相当の73.3%、部長相当の77.2%が仕事で生成AIを使っていました。
役職別の生成AIの業務利用率。2026年は課長73.3%・部長77.2%、社長は57.5%出典: パーソル総合研究所(報道用の素材)
同じ調査で、代表取締役・社長相当は57.5%、役員相当は60.4%、一般社員は47.1%です。課長・部長は、方針を決める社長や役員より10ポイント以上高い割合で使っています。
ただし、社長の利用も半年で40.2%から57.5%に増えました。経営者が反対しているというより、会社として決める段取りが追いついていない形です。
経営者と社員で「経営層の理解」の受け止めが違う
帝国データバンクが2024年に、生成AIを使っている会社に「経営層の理解はあるか」を聞いています。経営者が答えた場合、「大いに理解あり」は67.7%でした。一般社員が答えた場合は30.4%です。上は理解しているつもりでも、下からはそう見えていません。
会社が決めないまま、個人が先に使っている
東京商工リサーチの2026年4月の調査では、生成AIについて「方針は決めていない」会社が37.5%ありました。「個人で活用していることもある」は27.1%です。
東京商工会議所も2026年に、デジタル化に取り組む23区の中小企業に聞いています。製造業(225社)でいちばん多い答えは「個人レベルで活用」の47.6%で、「使用を禁止」は0.9%しかありませんでした。
マイクロソフトの2024年の調査(Work Trend Index)によると、日本でAIを使う人の78%は、自分で選んだAIを職場に持ち込んでいました。リーダーの67%が「AIの導入は不可欠」と答える一方、49%は「経営層にAI導入のビジョンと計画がない」と心配しています。
全国の声:「本社待ち」「うそを言う」「確認が手間」
調査の自由回答には、会社が二の足を踏む理由がそのまま出ています。次の表は、公開された調査に載っている声を原文のまま並べたものです。
| 声(原文のまま) |
答えた会社 |
出典 |
| 「本部方針のため」 |
活用していない会員企業 |
福井商工会議所(2025年) |
| 「本社が活用、検討に至っていない」 |
活用していない会員企業 |
福井商工会議所(2025年) |
| 「製図作業で使えるかもしれないが成果物のチェックのほうが手間がかかる懸念がある」 |
建設業の会員企業 |
福井商工会議所(2025年) |
| 「AIが時にうそを言う」 |
回答企業 |
帝国データバンク(2026年) |
| 「上長の確認と検証に手間がかかるようになった」 |
回答企業 |
帝国データバンク(2026年) |
| 「人がメインで補助的に活用するのは良いが、依存度が高くなり、人が思考しなくなるのが心配」 |
情報サービス、中小企業 |
帝国データバンク(2026年) |
| 「社内ルール整備と適切な運用が今後の課題」 |
回答企業 |
帝国データバンク(2026年) |
福井商工会議所の調査では、製造業の活用は31.4%で、全体の44.4%を下回りました(回答151社・製造業35社)。使っている会社でも、いちばん多いのは「特定の個人のみ活用している」の32.8%でした。
電子情報技術産業協会(JEITA)の事例集は、AIを使い始めるときの壁として「現場の抵抗感」を挙げています。理由は「今のやり方で問題ない」「入力が面倒」です。
会社が入れられない裏側:6つの壁
自由回答と調査の数字を合わせると、200人規模のメーカーが止まる理由は、次の6つに分けられます。
1. 取引先の図面と秘密保持の約束
受託で設計や製造を請け負う会社は、取引先から図面や仕様を預かっています。その多くに秘密保持契約(NDA)があり、「預かった情報を外部のサービスに入れてよいか」は契約しだいです。AIの会社に送ってよいか誰も判断できないので、全部やめておこうとなりがちです。
発注する側が条件を示す例も出てきました。大阪市は2025年に、受託事業者向けの生成AIのガイドラインを作りました。水道局の確認書では、入力を学習しない設定にすることや、知り得た秘密や個人情報を入れないことを受注者に約束させています。
IPAの2024年度の調査では、中小企業の1割強が取引先から情報セキュリティ対策を求められていました。
2. 輸出管理という、もう1つの約束
電子部品や制御機器には、輸出管理(外為法)の対象になる技術が含まれることがあります。安全保障貿易情報センター(CISTEC)の資料に、経済産業省の解釈が載っています。外国のサーバーに情報を保管するサービスは、原則として技術の提供に当たらないというものです。
ただし、サービスの提供者が情報を見たり使ったりすると知りながら契約する場合などは例外です。契約の前に、規約・セキュリティ・サーバーの国を確かめることが求められています。生成AIへの入力も、輸出管理の担当者を最初から入れて判断するのが安全です。
3. 品質の責任を誰が持つか
帝国データバンクの2026年の調査で、生成AIの懸念の1位は「情報の正確性」(50.4%)でした。「トラブル時の責任所在などのルール整備」も25.5%あります。メーカーでは、AIの誤りが図面や検査記録に紛れ込むと、品質事故につながります。
ドイツ自動車工業会の品質管理の団体(VDA QMC)は、2026年3月に品質管理でのAIの手引きを出しました。生成AIは安全に関わらない分野に限って使い、従来の品質管理の方法で確かめるよう勧めています。最初から品質記録に使おうとすると、反対が出るのは当然です。
4. 決める人がいない
東京商工リサーチの2025年の調査で、生成AIを推進していない理由の1位は「推進するための専門人材がいない」(55.1%)でした。2位は「活用する利点、欠点を評価できない」(43.8%)です。ひとり情シス協会などの調査では、情シスが1人の会社のAI導入は17%で、複数人の会社の37%の半分以下でした。
情シスが総務などと兼務の会社では、契約・規程・教育を一人で抱えることになり、手が止まります。
5. 何に使えばいいか分からない
2026年版の中小企業白書では、AIを使っていない中小企業の理由の1位が「活用する業務がイメージできていない」(63.4%)でした。総務省の令和7年版の白書でも、日本の会社の懸念の1位は「効果的な活用方法がわからない」(30.1%)で、米国の9.7%を大きく上回ります。
6. 最初に聞いた話が「流出」だった
2023年4月、韓国の大手電機メーカーで、社員がソースコードや会議の内容をChatGPTに入力していたと報じられました。東京商工会議所は同じ年の中小企業向けのガイドで、この件を例に「機密情報は入力しないでください」と呼びかけています。
同じガイドに載る2023年5月の東商の会員調査では、生成AIを「活用する予定はない」が64.7%でした。生成AIが広まり始めた時期に、注意の例として各所で紹介された話です。
OpenAIやAnthropicから顧客の情報は漏れたのか
「AIに入れた情報が、AIの会社から漏れるのでは」。印象が悪い理由の中心は、この不安です。
AIの会社の公式の発表と報道を2023年から調べると、利用者の情報が外に出た件は確かにあります。ただし、規模と原因は限られていました。
| 時期 |
会社 |
何が起きたか |
原因 |
| 2023年3月 |
OpenAI |
ChatGPTで他人の会話の題が見えた。9時間の間に使っていたPlus会員の1.2%は、氏名・メール・カード番号の下4桁などが他人に見えた可能性がある |
オープンソースのライブラリの不具合 |
| 2024年1月 |
Anthropic |
委託先が、一部の顧客の名前と未払いの残高が入ったファイルを第三者に誤って送ったと報じられた |
委託先の人のミス |
| 2025年7月 |
OpenAI |
利用者が「検索エンジンに表示する」を選んだ共有リンクが、検索に載ったと報じられた |
共有機能の作り |
| 2025年11月 |
OpenAI |
分析の委託先のMixpanelが侵入され、API利用者の一部の名前・メール・おおよその場所などが流出した |
委託先への侵入 |
| 2026年7月 |
Anthropic |
共有した会話のページが検索に載ったと報じられた |
共有機能の作り |
| 2026年7〜9月 |
OpenAI |
研究用のAIエージェントが隔離された環境を抜けて外部のサービスに入り、学習・評価用のデータを送っていた。利用者が出した画像53件が、URLを知る人だけが見られるリンクで置かれた |
研究用のAIモデルの想定外の動き |
出典: OpenAI・Anthropicの公式の発表、TechCrunch・VentureBeat・Decryptの報道。Mixpanelの件で、会話の中身・APIキー・パスワード・支払い情報は流出していないとOpenAIは説明しています。
AIのモデルが原因になったのは2026年が初めて
2025年までの件は、どれもAIとは関係の薄い原因でした。ライブラリの不具合、委託先、人のミス、共有機能の作りです。今回調べた範囲で、AIが入力を覚えて他人に話してしまったという公表例は見つかりませんでした。
2026年のOpenAIの件は性格が違います。評価中の研究用のモデルが、意図しない形でインターネットを使い、外部のサービスに入りました。ただしOpenAIは、法人・業務用のアカウントとAPIのデータは、管理者が許可しない限り学習・評価用のデータに入れていないと説明しています。
Anthropicも7月に、評価中のClaudeが設定ミスでインターネットにつながり、実在の3つの組織のシステムに入ったと公表しました。被害を受けたのはその3組織で、利用者の会話が外に出たという発表ではありません。
国内の流出のニュースは、ほとんどがAIと無関係
東京商工リサーチによると、2025年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失は180件でした。原因は次のとおりです。
| 原因 |
件数 |
割合 |
| ウイルス感染・不正アクセス |
116件 |
64.4% |
| 誤表示・誤送信 |
37件 |
20.5% |
| 紛失・誤廃棄 |
18件 |
10.0% |
| 不正持ち出し・盗難 |
7件 |
3.8% |
ニュースでよく見る流出は、ランサムウェアなどの攻撃と、メールの誤送信が中心です。この集計の説明に、生成AIは出てきません。
一方で、AIがらみの国内の事故も起き始めています。2026年8月、特定保健指導を請け負うRIZAPで、担当者が会社の許可していない外部の生成AIに個人情報を入力していたことが分かりました。
委託した地方職員共済組合の発表では726人分で、病名にあたる情報も含まれていました。
「禁止」のままにすると何が起きるか
会社が決めないと、使いたい人は個人のアカウントで使います。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織編の3位に初めて入りました。解説書は、職場でAIが使えないと社員が個人で使う「シャドーAI」が起きるとし、対策の最初に「AIサービス利用の検討」を挙げています。
KPMGとメルボルン大学の2025年の調査の日本の集計では、37%が勤め先の方針やガイドラインに反するAIの使い方をしたと答えています。東京商工会議所の2026年の調査では、生成AIを使っている会社の43.2%が無料のツールだけを使っています。
関連する決まりは、生成AIの社内ルールは何を書く?「禁止」の前に決める5項目とひな形にまとめています。
動き出したメーカーは何から始めたか
JEITAの事例集(2026年3月)には、中堅の製造業の例が載っています。どの会社も、身近な業務から始めています。
| 会社 |
規模 |
始め方 |
効いたこと |
| 旭鉄工(自動車部品) |
410名 |
社内のカイゼン事例集を言葉で探せるようにした |
社長が講師になり、部長に教え、部長が課長に教えた |
| 樋口製作所(精密板金) |
292人 |
熟練者のノウハウをシステムにした |
機密性の高い金型図面は社内に置いたAI(ローカルLLM)で扱う |
| 岡田研磨(機械部品の加工) |
85人 |
プログラミング未経験の役員が生成AIでアプリを作った |
紙の業務をアプリにし、データ化の時間を約90%減らした |
旭鉄工は、生産性が40%上がり、基準内賃金も16%上げたと答えています(DX全体の成果)。事例集は、現場の抵抗感を和らげる方法として、トップが引っ張ることと、成果を給与や職場の改善で社員に返すことを挙げています。
樋口製作所の例は、取引先の図面を預かる会社の参考になります。すべてを外のAIに出すのではなく、図面のように重いものだけ社内に置くという分け方です。
管理職が上を説得するときの材料
経営者の不安は、たいてい次の5つです。それぞれに、確かめられる答えがあります。
| 経営者の不安 |
答えの材料 |
| 入れた情報がAIに学習される |
法人向けの契約では、入力を既定で学習に使わないとOpenAI・Anthropicなど各社が公式に書いています。個人情報保護委員会も、学習に使わないことの確認を求めています |
| 取引先との約束を破る |
契約とNDAを洗い出し、「入れてよい情報」「社内のAIだけ」「入れない」の3段階に分けます |
| AIの誤りで品質事故が起きる |
品質記録・検査・出荷の判断には使わず、文書の下書きと要約から始めます |
| お金がかかる |
Microsoft 365の対象プランなら、Copilot Chatは追加料金なしで使えます。Google WorkspaceのBusiness Standard(1人月1,600円)はGeminiを含みます |
| 効果が分からない |
1部署で3か月試し、作業時間がどれだけ減ったかを測って報告します |
料金は2026年10月3日時点です。くわしくは生成AIの法人プラン比較で確かめられます。人数を入れると月額が分かるシミュレーターも使えます。
試行を上に通すときは、目的・費用・期間・やめる条件を1枚の稟議書にまとめると話が早く進みます。
補助金を使うなら、デジタル化・AI導入補助金2026も確かめてください。交付が決まる前に契約すると対象外になります。
今日からできること
- 社内で、誰がどのAIをどの仕事に使っているかを、名前を出さずに聞きます。叱るためではなく、実情を知るためと最初に伝えます。
- 取引先との契約・NDA・輸出管理の規程を見て、「入れてよい」「社内のAIだけ」「入れない」の3段階で情報を分けた表を作ります。
- すでに契約しているMicrosoft 365やGoogle Workspaceで、法人向けのAIが追加料金なしで使えるかを管理画面で確かめます。
- 1つの部署を決めて、3か月、文書の下書きと要約だけに使い、減った時間を記録します。
- 社長や役員に、最初の利用者になってもらいます。旭鉄工のように、上から順に教える形が広がりやすいからです。
社内のルールは、ひな形から作ると早く済みます。