年に数回の、PCの棚卸し。案内のメールを出して3日たつのに、返事は半分も来ません。やっと届いた返事を見ると、全員が「有り」です。台帳にある数と同じなので、安心してよさそうに見えます。けれど、そのPCは本当に、その人の手元にあるでしょうか。
公開されている情シスの体験談3件を読んで、棚卸しのあるあると、回答を集めやすくした工夫を整理しました。
案内を出しても、期日までに答えるのは半分
クラスメソッドのブログに、アノテーション株式会社の徳道さんが、数百台のPCの棚卸しで困った点を書いています(2022年)。まず、返事の集まり方です。
これが特に厄介で、アナウンスを見て期日までに回答してくれる方は大体50~60%くらいです。
出典: クラスメソッド 開発者ブログ「くらめその情シス:PC棚卸回答を数週間→数日に短縮したおはなし」徳道 圭一(2022年1月21日)
残りの人には、個別に連絡して回ります。前回の棚卸しでは、200人以上を手作業で追いかけ、1週間以上かかったそうです。
名前があれば「有り」と答える
返事が集まっても、安心はできません。徳道さんの会社では、台帳の一覧を社員に見せて、手元のPCが合っているかを聞く方法をとっていました。すると、こうなりました。
使っている人は自分の名前があればPCの管理番号や状態をあまり確認せずに「有り」という回答をしてくることが増えました。
出典: クラスメソッド 開発者ブログ「くらめその情シス:PC棚卸回答を数週間→数日に短縮したおはなし」徳道 圭一(2022年1月21日)
責めたくなる気持ちは分かりますが、社員の側から見れば、自分の名前が載っていて「合っていますか」と聞かれたら、そのまま答えるのが自然です。忙しい日に、デスクの下のPCをひっくり返して管理番号を探す人は多くありません。
同じ記事は、管理番号のシールがはがれていたり、PCをなくしていたりすると、そもそも番号を書けない、とも指摘しています。台帳と現物がずれる場面は、このあたりにあります。
台帳が頼りにならない会社の棚卸し
台帳そのものに自信がない会社もあります。noteのいとぅさんは、Excelで台帳を作る前の状況を、こう振り返っています(2022年)。端末の台数すら「全く把握できていない状況でした」。上の人から「で、現状はどうなってるの?」と聞かれても、答えられない。その後、台帳を作ってからも、「台帳のミスや記載漏れ等が多く」、管理はほぼ一人に任されていたそうです。
台帳が不確かなままだと、棚卸しで「有り」と返ってきても、突き合わせる相手が当てになりません。棚卸しの目的は、台帳と現物を合わせることなので、片方が揺らいでいると、集めた回答の価値も揺らぎます。
現物を見て回れないとき
リモートワークが前提の会社では、事務所を回って確認する方法が使えません。Adwaysのヘルプデスクの戸田さんは、約800台のPCを前に、こう書いています(2024年)。
従業員一人ひとりに連絡を取って、どのPCを使っているかを聞くことも非常に効率が悪いですし、ユーザー側も手間です。
出典: Adwaysエンジニアブログ「PCの棚卸しを自動化した話」戸田(2024年5月10日)
情シスの側の手間だけでなく、聞かれる側の手間でもある。この視点は大事です。聞き方が面倒なら、答える人も雑になります。
2社の工夫を並べてみる(編集部の整理)
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クラスメソッドの例 |
Adwaysの例 |
| 聞き方 |
台帳の一覧の公開をやめ、Googleフォームの記述式に変更 |
SlackのBotで通知し、フォームとスプレッドシートに集める |
| 社員に求めること |
PCの管理番号や状態を、自分で書く |
使っているPCの情報を入力する |
| 催促 |
未回答者への自動リマインド |
未回答者へ自動でリマインド |
| 結果 |
後追いは、200人以上・1週間以上から、一桁台に |
告知の翌日に3〜4割、2〜3日で8〜9割が集まった |
結果の数字は、それぞれの会社の記事に書かれたものです。会社の規模や社員の働き方で変わるので、そのまま自社の目標にはなりません。
共通するのは、2つあります。社員が現物を確かめずに答えられる形をやめたこと、催促を人の手から外したことです。記事では、告知の翌日に3〜4割、2〜3日で8〜9割が集まったと書かれています。
案内の文面と締め切りの例
編集部の整理として、案内を出すときの型を挙げます。
- 件名に、締め切りの日付と、所要時間(3分で済む、など)を入れる。
- 「手元のPCの管理番号(裏面のシール)を入力してください」と、見る場所を書く。
- シールがない、PCが見つからない場合の答え方を、選択肢で用意する。
- 締め切りの前日と当日に、未回答の人にだけ再通知する。
- 回答後に、台帳との差を情シスが確認すると先に伝えておく。
差が出た人を責めない一文も、入れておきます。「ずれは、台帳を直すために知りたいことです」。正直に「見つからない」と答えられる雰囲気がないと、棚卸しの数字は集まりません。
なぜ「有り」のずれは起きるのか(編集部の整理)
3件の体験談を並べると、原因は社員の不注意より、聞き方にあるようです。
- 答えやすい形になっている。 台帳の一覧に自分の名前があると、「はい」と答えるだけで済みます。確認の手間がかかる聞き方のほうが、手間を避ける人には負担です。
- 確認する場所が分からない。 管理番号のシールがPCのどこにあるかを知らない人は、探すところから始めることになります。
- 締め切りを忘れる。 返事が期日までに半分ほどという数字は、悪意の問題ではなく、忙しい日常に案内が埋もれる問題です。
- 台帳の側にも穴がある。 異動、退職、予備機の貸し出しが台帳に反映されていなければ、社員が正しく答えても、ずれは残ります。
つまり、棚卸しのずれは、社員を責めて減らすより、聞き方と台帳の更新の流れを整えて減らすほうが近道です。
ずれが見つかったときの探し方
台帳と回答が合わない端末が出たら、次の順に当たると、無駄が少なくなります。
- 回答した本人に、管理番号をもう一度見てもらう。シールがはがれていないかも聞く。
- 部署の上長に、異動や貸し出しで別の人が使っていないかを聞く。
- 退職者や長期休暇の人の貸与PCは、返却の記録と照らす。
- 資産管理ツールやMDMのログイン履歴がある会社は、最後に使われた日を見る。
- それでも見つからなければ、紛失の扱いにするかを責任者と決める。
見つからなかったときに誰に報告し、どこまでを情シスの判断とするかは、先に決めておきます。
今日からできること
- 前回の棚卸しで、期日までに答えた人の割合と、手作業で追いかけた人数を書き出します。
- 案内の文面を見直し、管理番号を見る場所と、見つからないときの選択肢を足します。
- 台帳の一覧を見せる形なら、社員が自分で入力する形に変えられるかを検討します。
- 未回答者への再通知を、チャットやメールの機能で自動にできるかを調べます。
- 差が出た端末のうち、先に探すものの優先順位(持ち出しの多い人、退職者の貸与PCなど)を決めておきます。