会社の代表メールのパスワードを知っている人を、いま全員言えますか。SNSの公式アカウントや、クラウドの管理者のアカウントならどうでしょう。
部署で1つのIDとパスワードを何人もで使い回す「共有アカウント」は、どの会社にもあります。公開されている情シスの声を読むと、この問いで手が止まる人は少なくありません。
「全員言えますか」で、手が止まる
ひとりで情シスを任された人に向けて、パスワードのルールの作り方を書いているLazyHackさんは、記事の最初にこう問いかけています。
そのパスワードを知っている人を、全員言えるでしょうか。
出典: note「小さな会社のパスワード管理ルールの決め方」LazyHack(2026年10月19日)
LazyHackさん自身も、情シスを任されたときに同じ景色を見ています。パスワードは担当者がそれぞれ管理していて、その担当者はもう退職し、辞めた人が知っていたパスワードは、おそらく変えないままになっていた、という話です。会社に、決まったときにパスワードを変える習慣がなかったからだと書いています。
意地悪な人がいたわけではありません。誰も「変える係」になっていなかっただけです。
共有アカウントは、現場が回るように増えていく
中小企業のIT運用を見ているチャニコさんは、共有アカウントが生まれる場所として、問い合わせの窓口、店舗の端末、共用のPC、業務システム、SNSの運用、クラウドの管理を挙げています。担当の交代、シフト制、複数人での対応、外部への委託の運用など、個人のアカウントでは困る場面があるからです。
共有アカウントの利用って、
“ルールを守らない”
というより、
“現場が回るように工夫した結果”
だと思うんですよね。
出典: note「“共有アカウント”と“個人アカウント”、ちゃんと使い分けられていますか?」情シス不在日記。by チャニコ(2026年5月28日)
最初は便利なので「今はこれで回っている」になりやすく、気づくと、誰が操作したか分からない、退職後も使われ続ける、といった問題が少しずつ増えていく、とも書いています。
よくある5つの場面
公開されている声を読んで、共有アカウントで起きがちな場面を並べました(編集部の整理)。
| 場面 |
何が起きているか |
声の出典 |
| 辞めた人が、まだ覚えている |
退職や異動のときにパスワードを変えず、知っている人が社外に残る |
LazyHackさん、nobu.ai.designさん |
| 二段階認証のコードが、辞めた人のスマホに届く |
私物のスマホに結び付けたまま、設定した人が退職して入れなくなる |
GMOメディアのテックブログ |
| 操作ログには「admin」しか残らない |
何人もで同じ管理者のアカウントを使い、誰が設定を変えたか分からない |
nobu.ai.designさん、吉田航さん |
| パスワードが、チャットや共有の文書に書いてある |
必要なときにその場で共有するうちに、誰が知っているか分からなくなる |
GMOメディアのテックブログ |
| みんなで使ったGoogleのアカウントがロックされる |
1人用のアカウントを何人もで使い、本人確認を求められて止まる |
吉田航さん(2019年)、Googleのヘルプ |
2つ目の場面を書いたのは、GMOメディアのセキュリティの担当者です。500を超える共有アカウントを管理する中で、二段階認証を誰かのスマホに結び付けると取り回しが悪く、私物のスマホに結び付けられることもある。そんな話の流れで、こう添えています。
「設定者が退職したのでログインできなくなった」というような事故も起きかねません。(起きました。)
出典: Zenn「500個以上の共有アカウントをどう管理し、多要素認証を運用しているか」GMOメディアテックブログ(2024年12月13日)
3つ目の場面を、インフラエンジニアのnobu.ai.designさんは、管理者のアカウントを委託先まで含めて共有した結果として描いています。
誰でも入れる。
でも、誰が何をしたかは分からない。
出典: note「管理者アカウントを複数人で共有『クラウドセキュリティ運用の話⑦』」nobu.ai.design(2026年5月19日)
5つ目は、Googleの管理者ヘルプにも書かれています。Googleのアカウントは1人で使うことを前提にしていて、何人もが同じアカウントを使うと、本人確認を求められたり、一時的にロックされたりすることがある、という説明です。関連する項目には、メールアドレスの委任や共同トレイの作り方が並んでいます。
それでも、なくならない理由
フリーランスの情シスの吉田航さんは、2019年の記事で共有アカウントの問題を、ライセンス、同時に使えない制約、セキュリティ(パスワード、操作ログ、多要素認証、シングルサインオン)に分けて説明しています。同じ記事で、なくしきれないものとして2つを挙げています。
- システムの連携に使う、人に結び付かないアカウント
- 管理者のアカウントを1つしか作れないサービスの、その管理者のアカウント
GMOメディアの記事も、共有するのは「アカウントを1つしか作れない」ものだけに限り、手間やライセンスの不足を理由にした共有は認めていない、と書いています。
つまり、共有アカウントは「ゼロにする」より、「理由のあるものだけを残し、残したものを管理する」ほうが続きます。
全部を禁止せず、3つに分ける
公開されている声と公式の説明から、共有アカウントを次の3つに分ける考え方が取れます(編集部の整理)。
| 分け方 |
例 |
片づけ方 |
| 個人に分けるもの |
メンバーを増やせるクラウドのサービス、問い合わせのメール、管理者の操作 |
1人1つのアカウントに分け、必要な権限だけを付ける。メールは委任や共同の受信箱を使う |
| 共有のまま管理するもの |
アカウントを1つしか作れない外部のサービス、SNSの公式アカウント |
管理者と使える人を決める。パスワードは管理の仕組みに入れ、人に見せずに使えるようにする |
| 非常用 |
管理者のアカウントの予備、システムの連携用 |
ふだんは使わない。使う条件と、使ったあとに誰に知らせるかを決めておく |
GMOメディアでは、パスワードを人に見せずに自動で入力する仕組み(クラウド型のID管理のサービス)を使い、「誰が何に入れるか」を役割ごとに管理しています。二段階認証は、会社のアカウントでしか開けない社内のWebの仕組みで認証のコードを出す形にして、私物のスマホに頼らないようにしたそうです。同じことを、市販のパスワード管理のツールでできる場合もあります。
変えるのは「いなくなったとき」
パスワードを毎月変えるルールは、共有アカウントでは続きません。変えるたびに、使う全員に新しいパスワードを知らせる必要があるからです。
総務省の「国民のためのサイバーセキュリティサイト」は、流出した事実がない場合はパスワードを変える必要はなく、定期的に変えるとパスワードの作り方がパターン化して簡単になりやすいことのほうが問題だ、としています。LazyHackさんも、変えるべきなのは、知られたかもしれないときと、知っている人がいなくなったときだと書いています。
GMOメディアでは、重要なアカウントは退職のたびに変え、そうでないものは「要更新」の印を付けて、半年に1度の見直しのときにまとめて変えているそうです。退職が続いても回る、ほどよい落としどころです。
共有アカウントの管理表(例)
最初の一歩は、表を1枚作ることです。編集部が考えた項目の例です。
| 項目 |
書くこと |
| サービス名・アカウント |
どのサービスの、どのID(メールアドレス)か |
| 何に使うか |
代表の問い合わせ、SNSの投稿、管理者の操作など |
| 分け方 |
個人に分ける予定/共有のまま管理/非常用 |
| 管理者 |
パスワードを変える責任を持つ人(1人) |
| 知っている人・使える人 |
名前と部署。委託先も含める |
| 二段階認証の届く先 |
会社の端末、管理の仕組み、または誰かのスマホ |
| 最後に変えた日 |
年月日 |
| 次に変えるきっかけ |
知っている人の退職・異動、漏えいの疑い、半年ごとの見直しなど |
「知っている人」の欄が埋まらないアカウントは、それだけで変える候補です。
今日からできること
- 代表メール、SNSの公式アカウント、クラウドの管理者の3つだけでも、知っている人を書き出してみます。全員を言えなければ、そのアカウントから変えます。
- 上の管理表を作り、アカウントごとに「個人に分ける」「共有のまま管理」「非常用」の3つに分けます。
- 二段階認証が誰かの私物のスマホに結び付いていないかを確認し、会社の端末か管理の仕組みに移します。
- 退職と異動の手続きの一覧に「その人が知っている共有アカウントのパスワードを変える」を1行足し、人事からの連絡で動けるようにします。
- Googleのアカウントなどを何人もで使っている場合は、メールの委任や共同の受信箱など、1人1つのアカウントのまま共有できる仕組みに切り替えます。