「すみません、ネットがつながりません」。支店からの電話を受けた情シスは、まず相手の机の上を想像するところから始めます。電話の向こうでは、拠点の人が見慣れない箱を前に、どのランプの話をすればいいのか迷っています。
この記事では、支店・営業所・店舗など離れた拠点と情シスのすれ違いを、公開されている声と調査から整理し、拠点に配る連絡票と写真の撮り方を付けました。
離れた拠点と情シス、すれ違うのはどこ?
離れた拠点には、たいていITの担当がいません。情シスには現地が見えず、拠点の人は機器の名前を知りません。どちらの説明が下手なのでもなく、見えている物が違うのです。
株式会社バッファローは2026年4月16日、2拠点以上ある会社でネットワークの運用に携わる330人への「多拠点企業のネットワーク運用負担に関する実態調査」を公表しました。直近2年に行った対応で最も多かったのは「トラブルの原因特定のための機器ステータスや接続情報の確認」で45.8%です。「拠点からの問い合わせによるトラブル対応」が40.9%で続きます。
困りごとの1位は「拠点の状況把握が難しい」で38.2%です。最も時間がかかった案件で、何が起きているかをつかむまでに1時間以上かかった人は50.8%でした(この問いに答えた289人のうち)。
公開されている体験談8件を読んで整理すると(編集部)、すれ違いは次の場面に集まります。
| 場面 |
拠点の事情 |
情シスの事情 |
| ネットが切れた |
機器の名前が分からない。仕事が止まって焦る |
画面もランプも見えない |
| 機器が壊れた |
代わりが届くまで仕事にならない |
送り返しと台帳の更新に手間がかかる |
| 拠点の「詳しい人」 |
頼られて断りにくい |
どこまで触ったのか分からない |
| 回線・ルーター・プリンター |
契約先と連絡先がその場で分からない |
拠点ごとに契約がばらばら |
| 本社の決まり |
シフトや来客で、働き方が本社と違う |
例外が増えると管理しきれない |
あるある1: 「ランプが光っています」の、どのランプか
遠方の拠点で、丸1日以上通信が止まった障害がありました。機器を確かめたのは現地の担当者で、構成図の型式を口で伝えても、あまり分かってもらえなかったそうです。情シスの筆者はこう振り返っています。
現地の担当者から「○○のランプが光っている」と言われても、すぐにはそれが正常なのか異常なのかが判断できなかった。
出典: はてなブログ「ネットワーク障害を経験して得た教訓」ピッシーのメモ帳・gd-pishi(2024年10月19日)
この筆者は、正常なときの写真があれば、どのランプが異常かすぐ分かったはずだと書いています。5つのグループ会社のIT運用をひとりで受け持つ筆者も、同じ悩みを書いています。「ネットに繋がらない」は電話では状況がつかめず、結局現地に行くことが多いそうです(note・たまの社内SE、2025年12月)。
型式は情シスの言葉で、色と置き場所は拠点の言葉です。電話の最初に「その箱は何色で、どこに置いてありますか」と聞くと、話が早く進みます。切り分けの質問は「Wi-Fiが遅い」「ネットがつながらない」の正体と情シスの1分切り分け質問にまとめています。
あるある2: 5分の作業のために、3時間の電車
地方の企業で情シスの管理職を務める筆者は、ループの思い出を書いています。ループは、ケーブルのつなぎ方の誤りで通信があふれる障害です。その中に、先輩の話があります。
先輩は新幹線で別事業所に呼び出されたこともあるそうです。で、ケーブル抜いたら直ったと。5分のために3時間電車に乗って行ったそうです
出典: note「ループと情シス」ぴょん吉(2021年3月10日)
先ほどの調査でも、困りごとに「現地対応や外部手配の負担が大きい」を選んだ人が28.8%いました。今後の改善で「現地対応の回数を減らすこと」を選んだ人は34.5%です。
ケーブルを抜く作業は、拠点の人にもできます。どのケーブルかを決めるのは情シス、手を動かすのは拠点の人と分ければ、移動は減らせます。
あるある3: 拠点の「詳しい人」が、善意でケーブルを挿す
元情シスの筆者の職場では昔、数人から十数人の拠点を同じネットワークに収めていました。ある日、いくつもの拠点から「LANが繋がらなくなった」と連絡が来ます。全部の拠点を切り離して1つずつ戻すと、原因はある拠点でした。
話を聞くと、その拠点にいたガジェット好きの A さんが、外れてぶら下がったままの LAN ケーブルを見つけて、
「たぶんこの HUB から外れたんだろうな。刺しておこう。ヨシ!」
とやってしまったそうです。
出典: Qiita「切れたらキレられた話」hmatsu47(2022年12月10日)
Aさんは、拠点のために良かれと思って挿しています。調べている最中には、拠点の責任者から早く直してほしいという電話もあったそうです。理由が分からないまま止まる側からすれば、もっともです。
この職場は、その後ループを防ぐ機能のあるスイッチに入れ替え、数年後には拠点ごとにネットワークを分け直しました。詳しい人は、拠点にも情シスにも頼りになる人です。止めるより、お願いする範囲を決めて連絡役になってもらうほうがうまくいきます。
あるある4: 本社の決まりが、拠点の働き方に合わない
シフトで1台のPCを何人かで使う店舗や、来客の多い営業所では、本社と同じ前提が成り立たないことがあります。
あるある1で触れた、たまの社内SEの筆者は、系列店舗のメールが止まった場面を取り上げています。店舗の担当者は、親会社の情シスに「いつ復旧しますか」と尋ねました。筆者は、本部と現場の距離をこう書いています。
社内SEは構造上、上下関係が生まれやすい立場にあります。本部に所属しているケースが多く、またITツールを「提供する側」だからです。何もしなくても、現場との間に距離は生まれます。
出典: note「現場と同じ目線がなければ困りごとは聞き出せないこと」たまの社内SE(2026年4月27日)
製造業で情シスのマネージャーを務める筆者は、意見をもらいたいときは相手の拠点に1人で出向くそうです。資料は事前に送り、その場では「聴く8:話す2」を守ると書いています(note・まさ@アップデートする情シス、2024年9月)。決まりを変える前に拠点で聞き、合わない所は「誰が・いつまで・代わりに何をするか」を書いて例外にします。
拠点ごとに「機器と連絡先の1枚」を作る
回線やプリンターは、拠点ごとに契約先が違うことがよくあります。故障のときに誰へ電話するかを、拠点も情シスも同じ紙で見られるようにします。
| 項目 |
書く内容の例 |
| 回線 |
契約先、故障の連絡先、契約の名義 |
| ルーター |
機種、置き場所、正常なときの写真 |
| プリンター・複合機 |
契約先、保守の電話番号、リースの満了月 |
| 拠点の連絡役 |
名前、内線、不在のときの代わりの人 |
新しい拠点の回線は早めに頼みます。地方では引ける回線が限られたり工事の日が埋まっていたりして、1〜2か月待つこともあります。オフィスの開設の手順をまとめた筆者は、2か月は見ておくよう勧めています(note・吉田航、2019年9月)。
現地に行かずに済む準備: 写真・連絡票・カード
正常なときの写真を撮っておく
飲食店を展開する会社の情シスの筆者は、担当者が現地に行けないときは店舗のスタッフによる一次切り分けが鍵だと書いています。電源の入れ直しは、回線終端装置、ルーター、給電機器の順に案内するそうです。
作業前後の写真をクラウドに保存し、リモートサポート時に「右から2番目の青いケーブル」と具体的に指示できるようにします
出典: Zenn「飲食店のインフラ整備と運用改善の勘所」情シス ふな(2026年1月2日)
写真は、まず拠点ごとに4枚撮ってもらいます。機器の全体、ランプ、ケーブルの差し口、置き場所です。
拠点に配る連絡票
電話の前に書いてもらう紙です。急ぎなら電話しながらで構いません。
【ITのトラブル連絡票(拠点用)】
拠点名と、つながる電話番号:
いつから(日時):
困っていること(1行): 例)受付のPCだけネットにつながらない
止まっている範囲: 全部/1台だけ/分からない
止まっている仕事: 例)受注の入力ができない
試したこと: 電源の入れ直し/ケーブルの確認/なし
写真: 機器のランプ、画面のメッセージ(撮れたら送る)
急ぎの度合い: 今すぐ/今日中/明日まで待てる
機器の横に貼る確認カード
【この箱について(拠点のみなさんへ)】
この箱: インターネットの出入口(ルーター)
いつもの状態: 写真のとおり、左のランプが緑
お願いしたいこと: 情シスから頼まれたときの電源の入れ直しと写真
外れたケーブルを見つけたら: 挿す前に写真を送ってください
連絡先: 情シス(内線〇〇)、回線の故障窓口(〇〇)
機器の送り返しと代わりの機器
- 仕事が止まる機器(受付のPC、ルーターなど)は、代わりを先に送る
- 箱に、つなぎ方の紙1枚と返送用の伝票を入れる
- 拠点は、届いた箱で壊れた機器を返す。データの入ったPCは、送る前に情シスへ連絡してもらう
- 台帳に送った日と戻った日を書き、戻らない機器を月に1回確かめる
台帳は次のテンプレがそのまま使えます。
言い方の例
| 言いがちな言い方 |
こう言い換える |
| (情シス)ルーターの型番を読んでください |
ケーブルがいちばん多く刺さっている黒い箱の写真を送ってもらえますか |
| (情シス)勝手に触らないでください |
外れたケーブルは、挿す前に写真を送ってください。どこに挿すかはこちらで見ます |
| (拠点)ネットが全然だめです |
受付のPCだけつながりません。ほかの2台は使えます。10時ごろからです |
今日からできること
- 拠点ごとに、ルーターと周りの機器の写真を、正常なときに4枚撮ってもらう
- 連絡票を拠点に配り、電話の前か電話しながら書いてもらう
- 各拠点で連絡役を1人決め、お願いする範囲を「ランプを見る、電源を入れ直す、写真を撮る」の3つにする
- 回線、ルーター、複合機の契約先と故障の連絡先を、拠点ごとに1枚にまとめて拠点にも置く
- 直近3か月で現地に行った件を数え、写真があれば電話で直せた件に印を付ける
拠点の人は、ITの担当ではないのに、電話口で情シスの目と手になってくれています。写真1枚と連絡票1枚があれば、情シスは現地を想像しなくて済み、拠点は待つ時間が短くなります。
(この記事は、公開されている体験談8件と、株式会社バッファローの公開調査をもとに、編集部が整理しました。)