取引先からセキュリティチェックシートが届き、期限は数日後。営業は添付のExcelを開きますが、聞かれているのは端末の管理、委託先のアクセス管理、事故のときの連絡体制です。営業が答えられる行はわずかで、残りは情シスの席へ回ってきます。
公開されている6件の声を読んで、営業と情シスがどこですれ違うのか、どう分担すれば当日から動けるのかを整理しました。
「明日まで」は、珍しい話ではない
セキュリティチェックシートとは、取引先が、自社の情報の守り方を確かめるために送ってくる質問票です。SecureNavi株式会社が2026年2月に発表した調査(情報システム・セキュリティ部門680名を含む780名が対象)を、ScanNetSecurityが伝えています。
| 項目 |
結果 |
| 回答の依頼が増えた |
68% |
| 回答期日が2〜3営業日 |
35%(最多) |
| 回答期日が4〜7営業日 |
28% |
| 当日〜1営業日以内 |
13% |
| 1週間以内に回答を求められる(合計) |
76% |
回答に使える時間は、思ったより短いようです。この短い時間に、営業・情シス・総務・法務が少しずつ動きます。
営業がExcelを開いてから起きること
回答を営業の雑務にしない設計を書いた樋口さんは、よくある最初の流れを、こう描いています。
最初は、営業担当がExcelを開いて、過去回答を探して、情シスや開発に聞いて、何とか埋める。
出典: Qiita「セキュリティチェックシート対応を“営業の雑務”から“プロダクト機能”へ変える設計」樋口 悟(2026年5月10日)
同じ記事は、チェックシートには「営業だけで判断してはいけない項目が大量にあります」とも書いています。営業が悪いのではありません。探し方が人に付いていて、見る場所が決まっていないのです。
中小企業の様子は、PIPELINEの公式noteに出てきます。担当が決まらず、総務が兼任したり、営業に押し付けられたりする。送った側も、返事を待つ間に困っています。
催促の連絡をすると、先方の担当者から不満を言われてしまう
出典: note「セキュリティ対策連載 #1 「回答が返ってこない」」PIPELINE公式note(2026年2月27日)
情シスが「あとで見ます」と言えば、営業は取引先に「もう少しお待ちください」と謝る。立場は違っても、板挟みなのは同じです。
設問は毎回ちがうのに、答えは似ている
取引先ごとに様式が違うことも、手間を増やします。トリックスタジオのnoteは、まずこの一文から入っています。
取引先ごとに違うExcelが存在する。
出典: note「チェックしているのに、安心できない」トリックスタジオ(2026年3月23日)
その結果、前回の回答がどこにあるか、なぜその答えにしたのかをたどれず、毎回同じ調べ物をやり直すことになる、と書いています。
回答する側にいたgood-sunさんのnote(2022年)には、何度か対応するうちに「この設問の回答はこうだな」と覚えてしまう、とあります。覚えているのは人の頭の中だけで、異動や退職で消えます。しかも同じnoteに、当たり前のことを聞いているようで「意外と出来てないんだな、これが」とあります。回答は、自社の足元を見直す機会にもなります。
営業が「実施しています」と書く前に
回答の書き方で、公開されている記事が口をそろえるのは、事実のとおりに書くことです。btnconさんの記事は、こう勧めています。
未実施は未実施として、「いつまでに何をするか」を添える方が信頼されます。
出典: Qiita「取引先からセキュリティチェックシートを求められたら」btncon(2026年9月20日)
同じ記事は、「一部実施」を「実施している」と書きたくなっても避けるよう求めています。営業が取引先に気を遣って「実施」と書いてしまうと、後で実態との差が問題になります。
もう一つ、nfujita55aさんの記事には、設問の意味が読み取れないときの工夫が出てきます。
このような何を言っているか分からない事項に注記して解釈を明確にすること、日本語解読大会、と呼んでます。
出典: Qiita「セキュリティーチェックシートという闇への防衛術」nfujita55a(2022年12月2日)
解釈を決めて注記を付けて返せば、「こう読んだ上での回答」だと伝わります。この記事には、契約と合わないシートはN/A(該当しない)で返す、回答を有料の事項にする、という方法もあります。会社の方針が要るので、営業と情シスだけでは決められません。
誰が何に答えるか(編集部の整理)
6件の声を並べると、分担は次の形に落ち着きます。会社の規模で入れ替わるので、たたき台として使ってください。
| 役割 |
受け持つこと |
渡すもの |
| 営業(窓口) |
シートを受け取り、期限と先方の担当者を確認する。進み具合を取引先に伝える |
期限、先方の連絡先、契約書の該当部分 |
| 情シス |
端末、ネットワーク、アカウント、ログ、委託先のアクセス管理の項目に答える |
回答と、根拠になる規程や設定画面の場所 |
| 総務・人事 |
入退社、教育、入退室、規程の項目に答える |
規程の版、直近の研修の記録 |
| 法務 |
契約、再委託、事故時の連絡の項目を確認する |
契約書のひな形 |
| 責任者 |
最終の確認と、N/Aや有料化などの方針を決める |
承認の記録 |
営業が「分かる範囲で埋めない」と決めておくと、動きが揃います。営業の役目は、早く正しい担当に回し、取引先に状況を伝えることになります。
営業に渡す一次回答の文面(例)
営業が取引先に返す最初の一通を、あらかじめ用意しておきます。
- 受け取りのお礼と、回答の予定日を書く。
- 「関係部署で確認して回答します」と書き、営業の推測は書かない。
- 設問の意味が不明な箇所は、「次の意味で回答します」と注記する案を添える。
- 未実施の項目は「未実施。〇年〇月までに対応予定」と書く(予定が決まっているときだけ)。
情シスに回すときの依頼の文は、こう書けば迷いません。「期限は〇日。〇〜〇行目が技術の項目。過去の回答があれば、そのファイルの場所も教えてください」。
回答の正本を1つにする
樋口さんの記事は、回答の正本は、開発・情シス・法務などと連携して管理すべきだ、と書いています。ここでいう正本は、凝ったツールでなくてもかまいません。
- 設問のよくある型(端末の管理、パスワード、バックアップ、委託先、事故の連絡)ごとに、標準の回答を書く。
- 回答ごとに、根拠になる規程や画面のスクリーンショットの置き場所を書く。
- 最後に確認した日と、確認した人を書く。
- 年に1度、全体を見直す。
こうしておくと、新しいシートが届いたとき、情シスは正本と見比べて、違う所だけ答えればよくなります。
今日からできること
- 直近1年に届いたチェックシートを2〜3枚集め、共通して聞かれる設問を書き出します。
- 営業に、「届いたら、その日のうちに情シスへ」「分かる範囲で埋めない」を伝えます。
- 技術の項目の標準の回答を、10問分だけ先に書いてみます。
- 未実施の項目の一覧を作り、いつまでに何をするかを、責任者と決めます。
- 営業と情シスで15分だけ集まり、上の分担表を自社の名前に置き換えます。