夕方5時すぎ、上司からチャットが1行だけ届きます。
「ごめん、これも急ぎでお願い」
SE歴15年の板挟みエンジニアさんがnoteに書いた、ある日の話です。手元にはもう「急ぎ」が3つありました。午前に頼まれた資料、昼に頼まれた確認、さっき別の人から頼まれた修正。それでも返事は「承知しました!」。終電の少し前まで残って4つとも形にしましたが、翌日、そのなかの1件に直しが入ります。上司は悪気なく言いました。
「あれ、そこまで急いでなかったんだけどね」
「・・・・・はい?」。いちばん急いでいたのは、後回しにした別の依頼のほうだったそうです。
情シスの窓口にも、同じ形の朝があります。元情シスのむすびさんは、新人向けの解説を、こんな2つの問い合わせの作例から始めています。「請求処理が進みません。急ぎでお願いします」「会議で使うパソコンが動きません。こちらも急ぎです」。午前中に立て続けに来たら、どちらが先か。受ける側と頼む側を経験した3人の体験談と解説を読むと、全部に「すぐやります」と返す前に聞くことは、3つに絞れます。
同じ「急ぎ」でも、今日中と今週中がある
板挟みエンジニアさんは、「急ぎ」という言葉を全部同じ重さで受け取っていた、とふり返ります。頼む側の「急ぎ」は「今日中」のこともあれば、「今週のうちに」くらいのこともある。そのうえ、「そして「急ぎで!」と言えばやってくれると思っている人も。。。」と続きます。
しかも「承知しました!」と即答していたので、上司から見れば、私はいつでも余裕がある人に見えていたはずです。
出典: 板挟みエンジニア「「これも急ぎで」と言われるたびに全部引き受けていた私が、一つ聞き返すようにしたら楽になった話」(2026年10月29日)
その結果が、終電前までの残業と、雑になった4件と、翌日の直しでした。次の「急ぎ」がまた自分のところに来るのも当然だった、と書き添えています。
編集部は、この「「急ぎで!」と言えばやってくれる」という受け止めが、社内の窓口ではもっと大きく育つとみています。窓口で「至急」と書かれた依頼に毎回すぐ応じていると、社内には「至急と書けば早い」という経験がたまっていきます。すると、急がない依頼にも「至急」が付き始め、本当に急ぐ依頼がその中に埋もれます。1人の上司との間で起きた終電と直しが、窓口では社内全体の順番の狂いになって返ってきます。
「至急」の1行では、どこから手を付けるか決まらない
受ける側に回ると、景色が変わります。事務職から社内SEになり、今はSIerで問い合わせを受けているウィッチゃんさんは、社内SEのころはベンダーへ依頼する側でした。受ける側に回ってから、困る依頼の例に挙げたのがこの1行です。
「エラーが出ています。至急確認してください。」
どのシステムで、誰が、いつ、何をしたときのエラーなのかが分からない。しかも同じ「至急」でも、全員の業務が止まっているのか、一部の人だけなのか、代わりの方法はあるが大きな手間がかかるのかで、状況はかなり違う、と指摘します。
期限の理由は、急がせるための材料ではありません。受け手が、どこまでを優先して調べるか考えるための情報です。
出典: ウィッチゃん@事務職→社内SE→エンジニア「社内SEとSIerの両方を経験して分かった「伝わる依頼」と「困る依頼」」(2026年10月18日)
伝わる例として挙がっているのは、「本日15時から処理を始めるため、14時までに作業を続けてよいかだけでも回答がほしいです。」という書き方です。原因の特定に時間がかかっても、「続けてよいか」だけを先に答える、という進め方が選べます。
時計だけ見ると、順番を間違える
では、情シスの側は何を聞けばよいのか。むすびさんは、最初の聞き取りで押さえる3つを挙げています。
- 影響:何の仕事が、どこまで止まっているか
- 期限:いつまでに何ができないと、どんな問題が起きるか
- 代替:別の端末や方法で、仕事を続けられるか
冒頭の作例の続きとして、むすびさんは架空の条件を置きます。11時からの会議で使うPCが動かない。12時が送付の締切の請求処理が止まっていて、担当の2人は手作業では間に合わない。時計だけ見れば会議が先ですが、会議は代わりのPCで開けると分かっています。それなら、請求の調査を先にする案になります。
業務の締切と、システムを復旧させる必要がある時刻は違う。
出典: むすび「「全部急ぎ」と言われたら? 新人情シスの優先順位の考え方」(2026年10月20日)
締切が12時でも、直ったあとの処理に30分かかるなら、11時55分に直っても間に合いません。条件が変われば、答えも変わります。請求書の送付の締切は翌日で、業務の担当と決めた代わりの方法もある。反対に会議は10時15分からで、代わりのPCは使えず、延期も難しい。この条件なら、会議を先に支える案も十分にありうる、と続きます。
もう1つ大事なのが、情報のそろっていない依頼の扱いです。むすびさんは、人数も期限も分からないことを「それほど急がないだろう」の根拠にはできない、とします。分からない依頼ほど、先に聞きに行く。重大な障害やセキュリティの問題が疑われるときは、順番を比べる前に、社内の緊急の連絡の流れで報告する、とも添えています。
よくある「至急」は、どの質問で順番が決まるか
3つの質問のうち、どれが決め手になるかは依頼によって違います。窓口に届きがちな「至急」を、編集部の作例で並べると次のようになります。
| 届いた「至急」(編集部の作例) |
決め手になる質問 |
順番の目安 |
| 「メールが全員送れません。至急」 |
影響:何の仕事が止まっているか |
社外とのやり取りが止まるので、ほかより先。緊急の連絡の流れに乗せる |
| 「明日の役員会の資料を直したい。急ぎで」 |
期限:いつまでに何を終えるか |
役員会の開始と、直したあとの確認にかかる時間から逆算する |
| 「月末の集計のマクロが動かない。至急」 |
代替:手作業で続けられるか |
手作業で締めに間に合うなら今日の午後、間に合わないなら先に |
| 「新しい人のアカウントを至急お願いします」 |
期限:いつ使い始めるか |
入社日の前日に使えればよい。今日でなくてよいことが多い |
| 「なんか遅いので至急見てほしい」 |
影響:どの仕事が、どこまで止まっているか |
聞き返してから決める。分からないまま後回しにはしない |
「至急」の文字はどの行にも付いていますが、順番を分けているのは、その裏にある「いつまでに、何が困るか」です。
順番は、ひとりで決めきらない
板挟みエンジニアさんは、頼んできた3人が全員「うちのが先」と言ったとき、自分で順番を決めようとして板挟みになりかけました。それからは、「◯◯さんの件とぶつかっています」と上司に一度だけ相談するようにしたそうです。「順番を決めるのは、私の仕事ではなかったんですよね」。むすびさんも、新人は確認した事実と自分の案を添えて先輩に渡せばよい、と勧めます。
情シスの窓口に置きかえると、先に決めておくものは3つです。依頼がぶつかったときに順番を決める人、そのために聞く質問、待ってもらう人に伝える次の連絡の時刻。ここが決まっていないと、声の大きい依頼と、最後に来た依頼から先に進みます。
聞き返すときの文例
聞き返すのは、断ることではありません。板挟みエンジニアさんは、聞き返すと「この人に頼むと、ちゃんと順番を見てくれる」と思ってもらえることのほうが多かった、とふり返ります。
トラブルの「至急」には、3つの質問を1つのメッセージにまとめて返すと、やり取りが1往復で済みます。
受け付けました。順番を決めるために、3つだけ教えてください。
1. いま止まっている仕事は何ですか(何人ぶんですか)
2. 何時までに、何を終える必要がありますか。直ったあと、その作業に何分かかりますか
3. それまで、別のPCや手作業で続けられますか
冒頭の場面のような作業の「急ぎで」には、抱えているものを見せて、頼んだ人に順番を決めてもらいます。板挟みエンジニアさんの「いま◯◯と△△を進めています。どれから先にやりましょうか?」に、期限を聞く一言を足すと、こうなります。
承知しました。いま◯◯と△△を進めています。
これは今日中に要りますか、今週のうちで間に合いますか。
どれから先にやるか、決めていただけると助かります。
頼む人が別々なら、前の節のとおり、順番を決める人に渡すのが筋です。
待ってもらう人には、次に連絡する時刻を伝えます。むすびさんの例は、「後で連絡します」ではなく「11時30分に一度、状況をお知らせします」。ただし、これは直る時刻の約束ではない、と念を押しています。見込みが分からなければ、そのまま伝えます。
窓口で先に決めておく段取り
- まず1か月、「至急」「急ぎ」と書かれて届いた依頼の数と、そのうち本当にその日のうちに要ったものの数を数えます。
- 差が大きければ、依頼のフォームやテンプレートの「至急」のチェック欄を、「止まっている仕事」「何時までに何を終えるか」「代わりの方法」の3つの欄に替えます。依頼票の作り方は、「このデータ出して」の依頼票の記事の型も使えます。
- 依頼がぶつかったときに順番を決める人を、名前か役職で書いておきます。情シスが1人なら、その上長です。
- 待ってもらう人への返事には、次の連絡の時刻を入れることを窓口の決まりにします。
- 障害やセキュリティの疑いは、窓口の順番とは別の流れにします。緊急の線引きと連絡の方法は、割り込みを減らす窓口と受付時間の記事の区分の表が使えます。
1か月後に、「至急」の数と、本当にその日に要った数を並べてみてください。その差が、窓口の決まりを変えるいちばんの材料になります。