「うちの公式Xのログイン、前の担当者しか知らないんですが」と広報が言い、情シスは「そのアカウント、初めて聞きました」と答える。ホームページのドメインは、10年前の制作会社の担当者が取ったまま。広告のアカウントは、辞めたマーケ担当の個人のGoogleアカウントです。
この記事では、広報・マーケティングと情シスのあいだで起きやすい「持ち主が分からない」問題を、公開されている声とJPRS・Googleの公式の説明から整理します。誰かを責める話ではありません。どの部署も、そのときの最善で作った結果です。
3つの持ち主不明。どこで起きる?
公開されている声を読んで整理すると(公開されている声4件、編集部)、持ち主が分からなくなる場所は、SNS、ドメイン、広告の3つに集まります。次の表は、編集部の整理です。
| 対象 |
よくある状態 |
起きること |
| 公式SNS |
開設した人が異動・退職。登録のメールと電話番号が不明 |
ロックされても、パスワードを再設定できない |
| ドメイン |
制作会社が代行で取得。登録者が制作会社 |
制作会社を変えたい、廃業した、というときに動かせない |
| 広告アカウント |
前任者の個人のGoogleアカウント、個人カードの支払い |
担当が替わった直後に配信が止まる |
声1: 公式SNSがロックされて、登録メールが分からない
ある会社の広報担当の方が、公式Xのアカウントにログインできなくなった経緯を、noteに書いています(2025年8月26日)。アカウントがロックされ、パスワードの変更を求められたものの、登録の電話番号にSMSが届かなかったそうです。問い合わせの前提として、こう書かれています。
当該のアカウントは私が開設したものではない。そのため、なんの情報を使って登録したのかはわからない
出典: note「XからSMSが届かない…!公式Xアカウントロックから復活までの奮闘記」みやたゆりこ(株式会社Smart相談室 広報)
同じ文章には、「わかっているのは電話番号のみ」「メールアドレスは登録されているのかわからない」とあります。復旧までに1か月半かかり、最後はSMSが届いてパスワードを変更できたと書かれています。筆者は、登録するメールアドレスと電話番号の両方を確かめること、バックアップコードを保管すること、認証はアプリ方式にすることを、対応しておくとよい点に挙げています。
笑い話にしたくなりますが、困るのは「開設した人が、もう社内にいない」ときです。この場面は、広報が悪いわけではありません。登録の情報を会社の台帳に残す仕組みが、なかっただけです。
声2: 認証が個人のスマホにある
SNS運用の支援会社の解説は、担当者が辞めるときのリスクを、こう書いています(2026年3月2日)。事業者の解説なので、自社のサービスの案内も含まれます。事実の部分だけ読んでください。
退職者の個人のスマートフォンで二段階認証(SMS認証など)を設定していたり、個人のプライベートなメールアドレスでアカウントを作成していた場合、退職後に誰もアクセスできなくなります。
出典: 株式会社タタップ「SNS担当者が辞める!失敗しない引き継ぎマニュアルと「属人化」を防ぐ運用体制の作り方」
同じ解説は、退職前に、ID・パスワードの共有、登録メールアドレスを会社の共有アドレスへ変更すること、認証を個人のスマホから社用の端末や認証アプリへ切り替えることを挙げています。ここは、情シスの得意な仕事です。多要素認証(ログインのときにパスワードのほかにもう1つ確認を求める仕組み)の設定の場所を、会社のものにそろえます。
声3: ドメインの名義が制作会社のまま
ドメインの保守を扱う会社のコラムは、制作会社が代行で取得したドメインを取り上げています(2026年3月7日)。
管理を任せることと、所有権を渡すことは、まったく別の話です。
出典: Web管理「ドメインの所有者が「制作会社」になっていることの恐ろしさ」
同じコラムは、保守に不満があっても「解約するならドメインは返せません」と言われるケースや、制作会社の廃業で更新する人がいなくなるおそれを挙げています。実際の相談の数や割合は書かれていないため、頻度は分かりません。ただ、困る構造は、公式の説明と合っています。
JPドメインを管理するJPRSは、登録者を「JP ドメイン名を登録した組織や人」と説明し、登録時のデータの変更は、申し込んだ指定事業者に依頼するとしています。指定事業者は、登録者からの申請を取り次ぐ事業者です。つまり、誰が登録者として記録されているかと、どの事業者の窓口から手続きするかが、手続きの出発点になります。
声4: 広告の支払いが前任者の個人カード
広告運用の引き継ぎを扱うQiitaの投稿は、前任者と連絡が取れないときの確認の順番を書いています(2026年10月1日)。ツールの紹介も含む投稿です。
支払い方法が前任者個人のカードに紐づいていると、そのカードの失効や解約で、担当が替わった直後に配信が止まりうるためです。
出典: Qiita「前任者に聞けない広告運用の引き継ぎ|最初の1週間で確認する順番」ADmini BI
1日目に確かめることは、「自分がアカウントに入れるか」と、支払い方法が前任者個人のものに紐づいていないか、の2つだと書かれています。広告アカウントの不正アクセスについては、今週の記事ソルティドッグのGoogle広告MCCに不正アクセス、代理店任せの会社が確かめることに書きました。ここでは、不正の前の段階である「持ち主の把握」に絞ります。
持ち主は個人でなく会社。確かめる順番
3つに共通する考え方は、持ち主を「会社」にして、管理者を2人以上にすることです。Google広告のヘルプも、管理者が1人しかいないと、その人が対応できなくなったときにタグにアクセスできなくなるおそれがあるため、少なくとも1人の追加を勧めています。
| 対象 |
持ち主として記録すること |
確かめる場所 |
| 公式SNS |
登録のメールアドレス(会社の共有アドレス)、電話番号、認証の方式、管理者の2人以上 |
各サービスの設定画面 |
| ドメイン |
登録者、管理指定事業者、更新期限、更新の通知の宛先 |
JPRS WHOIS、管理指定事業者の管理画面 |
| 広告 |
管理者の2人以上、支払い方法、リンクしているアカウント |
広告の管理画面のアクセス設定 |
ドメインの登録者名は、JPRS WHOISで調べられます。汎用JPドメインと都道府県型JPドメインは、登録者名を非表示にできるとJPRSが案内しているため、表示されないときは、管理指定事業者に聞きます。
管理指定事業者を変えるときの手続きは、JPRSが公開しています。変更元の指定事業者に認証コードを確認し、変更先に申し込みます。認証コードの有効期限は、生成した日の翌日を1日目として35日後の23:59:59までです。指定事業者変更ロックなどが設定されているときは、先に解除します。
ドメインの守り方は、今週の記事.gh・.sl・.asのDNS書き換えで不正証明書、Chromeが遮断。自社ドメインの守り方に書いたので、ここでは繰り返しません。台帳には、ドメインと証明書の期限をまとめて書けます。
見落としやすい。ドメインを止めるとSNSも危ない
ドメインとSNSは、別の話に見えて、つながっています。SNSのログインIDやパスワードの再設定に、自社ドメインのメールアドレスを使っていることがあるためです。JPRSは、廃止したドメイン名を第三者が登録して同じメールアドレスを作ると、パスワードの初期化などでSNSアカウントを乗っ取られるおそれがあると注意しています。
JPRSの「ドメイン名の廃止に関する注意」のページ(廃止後に第三者が登録できるまでの流れ)出典: JPRS(日本レジストリサービス)(引用)
JPRSによると、廃止から一定期間は誰も登録できず、その期間は汎用・都道府県型JPドメインが1か月、属性型JPドメインが6か月です。その後は、登録の要件を満たせば誰でも登録できるようになります。更新を忘れて廃止になったときは、廃止から20日以内であれば登録回復申請ができます。取り扱いと期間は、指定事業者によって異なる場合があります。
SNSの登録メールが、ドメインのメールになっていないか。ドメインの更新の通知が、辞めた人の宛先になっていないか。この2つは、広報と情シスで一緒に見ると早く終わります。
分担の表(編集部の整理)
次の表は、公開されている声と公式の説明をもとにした、編集部の整理です。会社の規模や契約で変わるため、案として使ってください。
| 仕事 |
主に担う |
協力する |
| 発信の内容、投稿、広告の中身 |
広報・マーケ |
情シスは触らない |
| アカウントの持ち主の台帳(誰が管理者か) |
情シス |
広報・マーケ(使っているものを申告) |
| 認証の方式、バックアップコードの保管 |
情シス |
広報・マーケ(運用する端末の確認) |
| ドメインの登録者、期限、支払い |
情シス |
制作会社(代行する範囲を契約に) |
| ドメインのDNS、サイトの更新 |
制作会社と情シスで決める |
広報(公開の予定を知らせる) |
| 広告の管理者、支払い方法、代理店の権限 |
マーケと情シスで相談 |
経理(カード・請求) |
| 退職・異動のときの引き継ぎ |
人事と情シス |
広報・マーケ(使っているものの申告) |
言い方の例も挙げます。
| 言いがちな言い方 |
こう言い換える |
| そのアカウント、誰のですか |
使っているものを一覧にしたいので、広報で運用中のものを教えてください |
| ドメインは制作会社の管理でしょう |
登録者がどこになっているか、一緒にWHOISで見てみませんか |
| 個人のカードは困ります |
支払いを会社のカードに移す手順を、経理と一緒に作りたいです |
| 勝手に作らないでください |
新しく作るときは、会社のメールで、管理者を2人にして作ると後で楽です |
今日からできること
- 広報・マーケに聞く。「いま運用している、SNS、広告、サイトのアカウントを全部教えてください」と。一覧にして、登録のメールアドレスと管理者を書く
- 会社のドメインを、JPRS WHOISなどで調べる。登録者、管理指定事業者、更新期限を台帳に書く。登録者が制作会社なら、契約の見直しを制作会社に相談する
- 公式SNSの登録メールを、会社の共有アドレスにする。電話番号と認証の方式を確かめ、バックアップコードを、会社のパスワード管理の保管先に入れる
- 広告アカウントの管理者を2人以上にする。支払い方法が個人のカードでないかを確かめる
- 退職・異動の手順に、「SNS・ドメイン・広告のアカウントの引き継ぎ」を1行足す。退職の手順は退職者のアカウントはいつ消す?停止・削除・引き継ぎの順番とチェックリストが使えます
パスワードやバックアップコードの保管先に迷うときは、法人向けパスワード管理ツール比較を見てください。
広報とマーケは、発信の中身を持っています。情シスは、アカウントの入り口を持っています。どちらも、持ち主を会社にそろえるところから始まります。