経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、2026年4月16日に「デジタルスキル標準(DSS)」のver.2.0を公表しました。DSSは、個人の学習と、企業の人材確保・育成の指針です。全員向けのリテラシーと、DXを推進する人の役割を3枚の図にし、情シス・社内SEの仕事やキャリアとのつながりを整理します。
デジタルスキル標準は2つの標準でできている
DSSは、次の2つの標準でできています。
- DXリテラシー標準(DSS-L): 全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準
- DX推進スキル標準(DSS-P): DXを推進する人材の役割や、習得すべきスキルの標準
DSS-Lは、経営層を含む全てのビジネスパーソンが対象です。DSS-Pは、組織の中で専門性を持ってDXの取組みを推進する人材が対象です。どちらも、特定の産業や職種の知識がなくても読めるよう、できるだけ汎用的な言葉で書かれています。
DSSは指針です。IPAのFAQによると、DSS-Pには詳しいレベルの評価指標や、統一的な達成基準の一覧がありません。各社が事業や育成方針に合わせて、独自の評価指標をつくることを勧めています。
| 版 |
公表 |
主な中身 |
| ver.1.0 |
2022年12月 |
先に公開していたDXリテラシー標準に、DX推進スキル標準を加えて「デジタルスキル標準」として公開 |
| ver.1.1 |
2023年8月 |
生成AIの普及を受け、DSS-Lの学習項目例とマインド・スタンスの補記を追加 |
| ver.1.2 |
2024年7月 |
生成AIに関するDSS-Pの行動例・学習項目例と、ビジネスアーキテクトに関する補記を追加 |
| ver.2.0 |
2026年4月16日 |
データマネジメント類型の新設、ビジネスアーキテクトとデザイナーのロールの見直し、AI実装・運用などのスキルの追加 |
ver.2.0の資料は、IPAの「資料ダウンロード」のページにあります。本編のPDFのほか、DSS-LとDSS-Pの分冊版、類型ごとの分冊版、スキルリストのExcelが公開されています。経済産業省のページにも、本編のPDFが載っています。
DXリテラシー標準は全員向けの4つの柱
DSS-Lのねらいは、一人一人がDXに関するリテラシーを身につけ、DXを自分事ととらえて、変革に向けて行動できるようになることです。項目は「Why」「What」「How」「マインド・スタンス」に分かれます。
DXリテラシー標準(DSS-L)の4つの柱と23項目、有用な試験作成: 編集部 / もとの資料: 経済産業省・IPA「デジタルスキル標準」
| 柱 |
項目 |
| Why DXの背景 |
社会の変化、顧客価値の変化、競争環境の変化 |
| What データ |
社会におけるデータ、データを読む・説明する、データを扱う、データによって判断する |
| What デジタル技術 |
AI、クラウド、ハードウェア・ソフトウェア、ネットワーク |
| How 活用事例・利用方法 |
データ・デジタル技術の活用事例、ツール利用 |
| How 留意点 |
セキュリティ、モラル、コンプライアンス |
| マインド・スタンス(デザインマネジメント実践) |
顧客・ユーザーへの共感、常識にとらわれない発想、反復的なアプローチ |
| マインド・スタンス(新たな価値を生み出す基礎) |
変化への適応、コラボレーション、柔軟な意思決定、事実に基づく判断 |
数えると、Whyが3、Whatが8、Howが5、マインド・スタンスが7の、合わせて23項目です。WhatとHowは、手を動かすレベルまで求めるかどうかで分けています。Whatは知識として持っておきたい項目、Howは実際の業務の作業や判断で使ってほしい項目です。
ver.2.0では、マインド・スタンスの「デザイン思考/アジャイルな働き方」という表題が「デザインマネジメント実践」に変わりました。資料は、新しい表題が前の表題の中身を含むと書いています。
情シスが社内のITリテラシー研修の範囲を決めるときにも、DSS-Lは使えます。IPAのFAQには、DSS-Lの「データ・デジタル技術の理解・活用能力」を、自社の制度で「ITリテラシー」と定義してよいかという質問があります。IPAは、制度の目的に照らして適切であれば問題ないと答えています。
有用な試験はITパスポートと情報セキュリティマネジメント
IPAの「DXリテラシー標準(DSS-L)概要」のページは、DSS-Lに有用な情報処理技術者試験を示しています。「特に有用」はITパスポート試験、「有用」は情報セキュリティマネジメント試験です。
試験の区分や日程、合格率の読み方は、情シスに役立つIPAの国家試験を図解 試験の地図と受験者数・合格率にまとめています。
DX推進スキル標準は6類型・17ロール
DSS-Pは、DXの推進に必要な役割を6つの「類型」に分けています。類型を業務の違いでさらに分けたものが「ロール」で、ver.2.0のロール一覧には17が並びます(数は編集部が数えたもの)。ver.1.2の資料は「人材類型」と呼んでいましたが、ver.2.0は「類型」と書いています。
DX推進スキル標準(DSS-P)ver.2.0の6つの類型と17のロール作成: 編集部 / もとの資料: 経済産業省・IPA「デジタルスキル標準」
| 類型 |
ロール |
| ビジネスアーキテクト |
ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャー |
| デザイナー |
サービスデザイナー、UX/UIデザイナー、コミュニケーションデザイナー |
| データサイエンティスト |
データビジネスストラテジスト、データサイエンスプロフェッショナル |
| データマネジメント |
データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクト |
| ソフトウェアエンジニア |
フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、クラウドエンジニア/SRE、フィジカルコンピューティングエンジニア |
| サイバーセキュリティ |
サイバーセキュリティマネージャー、サイバーセキュリティエンジニア |
資料は、類型どうしを「どちらかがどちらかに指示をする、又は依頼する」関係ではなく、協働する関係として描いています。1人が複数のロールを担うことも、1つのロールを複数人で担うことも想定しています。どのロールが上という並びではありません。
スキルは共通スキルリストで定める
ロールに必要なスキルは、全ての類型・ロールに共通の「共通スキルリスト」で定めています。共通スキルリストは、5つのカテゴリーと13のサブカテゴリーで整理されています。
| カテゴリー |
サブカテゴリー |
| ビジネス変革 |
戦略の理解とアーキテクチャ設計、プロダクトのマネジメント、変革活動のマネジメント、デザイン |
| データ整備・活用 |
データ・AIの戦略的活用、AI・データサイエンス、データマネジメント |
| テクノロジー |
ソフトウェア開発、デジタルテクノロジー |
| セキュリティ |
セキュリティマネジメント、セキュリティ技術 |
| パーソナルスキル |
ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキル |
ロールごとに、スキル項目の重要度が付いています。技術的な面のスキルは、a(高い実践力と専門性が必要)からd(全体の中での位置づけや他項目との関連の理解が必要)までの4段階です。パーソナルスキルはz(役割や状況に応じた実践力が必要)で、全ロールに普遍的に求められるとしています。
DSS-P全体の水準は、ITSS+の「レベル4」相当を想定しています。独力で業務を遂行でき、後進人材の育成もできるレベルです。
ver.1.2からの主な変更点
以前の版で学んだ人や、社内の育成計画にDSSを使っている会社は、次の違いを確かめておきます。
| 見るところ |
ver.1.2(2024年7月) |
ver.2.0(2026年4月) |
| 類型の数 |
5つ(人材類型) |
6つ(データマネジメントを新設) |
| ロールの数 |
15 |
17 |
| ビジネスアーキテクト |
新規事業開発、既存事業の高度化、社内業務の高度化・効率化の3つ(名前はどれもビジネスアーキテクト) |
ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャー |
| デザイナー |
サービスデザイナー、UX/UIデザイナー、グラフィックデザイナー |
グラフィックデザイナーを削除し、コミュニケーションデザイナーを新設 |
| データエンジニア |
データサイエンティストの中のロール |
データマネジメントの中のロール |
| 共通スキルリスト |
「データ活用」カテゴリー |
「データ整備・活用」に改め、データマネジメントのスキルを6つ新設。AI実装・運用やAIガバナンスなども追加 |
ver.1.2には「ビジネスアーキテクト(社内業務の高度化・効率化)」というロールがありました。ver.2.0に、この名前のロールはありません。ver.2.0の資料は、ビジネスアーキテクトの類型で使う「プロダクト」という言葉に、社内向けの取組みを含むと書いています。
情シス・社内SEの仕事とつながるロール
DSS-Pに「社内SE」や「情シス」という名前のロールはありません。ただ、資料には情シスの仕事に関わる記述がいくつかあります。
- ソフトウェアエンジニアの対象には、社外の顧客向けの開発に携わる人のほか、社内のユーザーにシステムやサービスを提供する人も含まれる
- サイバーセキュリティエンジニアは、IT部門の担当者の兼務による対応も想定する
- サイバーセキュリティマネージャーは、事業部門やリスクマネジメント部門の担当者の兼務も想定する
- データマネジメントは、IT・デジタル、リスク・コンプライアンスなど、組織内の多様な機能と連携することが求められる
次の図は、社内SE(情シス)という就職先を図解 仕事の全体像とSIer・SaaS企業との違いの5つの区画に、近いロールを並べたものです。対応は編集部の整理で、DSSが情シスの区画とロールを対応させているわけではありません。
情シス・社内SEの仕事の区画と、近いDSS-Pのロール(編集部の整理)作成: 編集部 / もとの資料: 経済産業省・IPA「デジタルスキル標準」
| 情シスの区画 |
近いロール |
資料の手がかり |
| 1 問い合わせ対応、2 端末とアカウント |
同じ名前のロールは無い |
全員向けのDSS-Lが土台。ユーザー企業の情報システム担当者の育成の標準にはUISSがある |
| 3 ネットワーク・サーバー・クラウド |
クラウドエンジニア/SRE |
社内のユーザーにシステムを提供する人も対象 |
| 4 セキュリティ |
サイバーセキュリティエンジニア、サイバーセキュリティマネージャー |
IT部門や事業部門の担当者の兼務も想定 |
| 5 企画・発注・予算 |
ビジネスアナリスト、ビジネスアーキテクト、プロダクトマネージャー |
「プロダクト」には社内向けの取組みも含む |
| 社内のデータの整備 |
データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクト |
組織内の多様な機能と連携する |
問い合わせ対応や端末管理は、DSS-Pのロールの名前には出てきません。IPAのFAQは、ほかのスキル標準との違いを次のように説明しています。
- DSS: IT技術者だけでなく、非IT職も対象
- ITSS: IT技術者育成の指標
- ITSS+: IT技術者のリスキリング
- UISS: ユーザ企業における情報システム担当者育成の標準
日々の運用やヘルプデスクの仕事は、UISSやjob tagの職業の説明もあわせて読みます。前に挙げた社内SEの記事は、この2つで仕事の区画を整理しています。
就活・異動・学び直しでDSSを読むときのポイント
就活: IT業界・社内SEを目指す人
まず、DSS-Lの23項目を、説明できる項目とできない項目に分けます。資料は、知らない言葉に接したときに自ら調べる姿勢も求めています。
求人の職種名と見比べるときは、ソフトウェアエンジニアのロールが手がかりになります。資料によると、フロントエンド・バックエンド・クラウドエンジニア/SREの名前は、一般的な求人市場等で用いられている表現を意識したものです。サイバーセキュリティエンジニアも、求人票で多用されている名前だとしています。
DSSの資料には、ロールごとの年収や、就職に有利かどうかは書かれていません。ロールは役割の違いを示すもので、どれが得という並びではありません。
異動: 事業部門から情シス・DX推進へ
データスチュワードは、事業ドメインの知識をもとに、データの品質・信頼性・安全性を保つ運用を担います。事業部門でデータマネジメントを定着させ、データの利活用を進めるのも役割です。業務の知識を前提にしたロールです。
サイバーセキュリティの類型は、「プラス・セキュリティ」とも連動すると資料は書いています。プラス・セキュリティは、セキュリティを専門としない人材が、担当業務に必要なセキュリティスキルを身につける取組みです。異動の前に、配属先がどのロールを受け持つのかを上司と確かめておくと、学ぶ範囲を決めやすくなります。
学び直し: いまの仕事を続けながら学ぶ人
資料は、学習項目例はあくまでも例であり、全ての項目の学習を必須とするものではないと書いています。共通スキルリストのExcelには、ロールごとのスキルの重要度が載っています。担当に近いロールで重要度がaやbのスキルから選ぶと、範囲を絞れます。
講座は、経済産業省とIPAが運営する「マナビDX」で探せます。研修事業者などの学習コンテンツが、DX推進スキル標準と紐づけて示されています。
IPAは、「デジタル人材スキルプラットフォーム」の構築も進めています(2026年4月の発表時点)。個人のスキル情報を、DSSに紐づけて蓄積・可視化する仕組みです。
試験との関係は「有用」という位置づけ
IPAは、ver.1.2のロールごとに「各ロールに有用な情報処理技術者試験」を公開しています。2024年3月29日に掲載した情報を整理した資料で、ダウンロードのページでは「過去バージョン資料」に置かれています。2026年10月18日の確認では、ver.2.0のロールに合わせた同じ一覧は、ダウンロードのページにありませんでした。
ver.1.2とver.2.0で名前が変わっていないロールのうち、情シスに近いものの記載は次のとおりです。
| ロール(ver.1.2の資料) |
特に有用 |
有用 |
| クラウドエンジニア/SRE |
ネットワークスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験 |
システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、応用情報技術者試験 |
| サイバーセキュリティマネージャー |
情報処理安全確保支援士試験 |
プロジェクトマネージャ試験、ITサービスマネージャ試験、応用情報技術者試験 |
| サイバーセキュリティエンジニア |
情報処理安全確保支援士試験 |
ネットワークスペシャリスト試験、応用情報技術者試験 |
同じ資料は、システム監査はDSS-Pの全ての領域が対象で、システム監査技術者試験が有用だとも書いています。
IPAは、2027年度から新しい試験制度に移る予定です(2026年3月31日時点の検討状況)。検討状況のページと出題範囲の改定案に、新しい試験とDSSのロールの対応は書かれていません。
今日からできること
- IPAの「資料ダウンロード」のページで、ver.2.0の分冊版(DXリテラシー標準)を開く。23項目のうち、人に説明できない項目に印を付ける。
- DSS-Pの6類型から、いまの担当か、志望する仕事に近いロールを1つ選ぶ。類型ごとの分冊版で、そのロールの「担うべき責務」と主な業務を読む。
- 共通スキルリストのExcelで、選んだロールの重要度がaとbのスキル項目を書き出し、今月学ぶものを1つ決める。
- マナビDXで、選んだロールに紐づく講座を探す。
- 社内の育成計画や研修資料でDSSを使っているなら、ロール名と数がver.2.0と合っているかを確かめる。