PHPの問題で10月21日から23日にかけて止まった国内のサイトやサービスは、多くが数日で戻りました。マイナンバーカード総合サイトが戻ったのは29日。止めてから7日かかり、問い合わせフォームは30日の朝もまだ止まったままです。
運営する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)は29日に再開を知らせましたが、なぜ止めたのかは、知らせのどこにも書かれていません。
22日0時45分に止め、29日に再開
マイナンバーカード総合サイトの再開の知らせ。止めた理由は書かれていない出典: マイナンバーカード総合サイト(地方公共団体情報システム機構)「サービスの再開について」(引用)
J-LISは10月22日、総合サイトの緊急メンテナンスを知らせました。始まりは同日0時45分の予定で、終わりの時刻はありませんでした。
総合サイトは、マイナンバーカードの申請の方法や更新の手続きを案内し、交付申請書を配っているサイトです。とはいえ、カードの申請そのものは止まりませんでした。22日の知らせは、オンライン申請サイト、申請状況照会サービス、国外転出者向けのオンライン申請サイトは使えるとして、それぞれのURLを載せていました。時事ドットコムによれば、マイナポータルも通常どおり使えました。
再開の知らせは、総合サイトとJ-LISのサイトの両方に出ました。中身は3つだけ。サイトを再開した、問い合わせフォームは引き続きメンテナンス中、急ぎの質問は電話で、です。
知らせに出てこない「PHP」
J-LISの22日と29日の知らせは、「緊急メンテナンス」「メンテナンスのため一時休止」という言葉だけで済ませました。PHPの名前も、被害があったかどうかも出てきません。
止めた理由は、報道で分かりました。時事ドットコムによると、J-LISは22日、PHPに重大な脆弱性が見つかったことによる予防的なメンテナンスの措置で、現時点で被害は確認されていないと説明しました。産経ニュースも、PHPの脆弱性の問題を受けて公開を止めたと伝えました。
J-LISの知らせには、もう1文あってもよかったと思います。同じ時期に止めたNTTドコモは、配信の再開の知らせにも「PHPの脆弱性に対応するための予防的なセキュリティ対応」と理由を残しました。J-LISの知らせだけを後から読む人には、何のための休止だったのか、情報が漏れたのかどうかが分かりません。理由と被害の有無を1文残しておけば、「マイナのサイトが止まっていたのは何だったのか」という問い合わせは、窓口に届く前に減らせたかもしれません。
先に戻ったもの、まだ戻らないもの
PHPの重大な脆弱性2件(php2shell)の修正版が出たのは10月21日。その前後に予防のために止めたもののうち、止めた日時と戻った日時を公式の知らせで確認できた8件を並べました(コドモンの再開の時刻だけは報道によります)。
| 止めた会社・団体 |
止めたもの |
止めた日時 |
戻った日時(10月30日朝の時点) |
| コドモン |
保護者アプリを含む全サービス |
21日 |
主なサービスは22日3時22分(報道による)、全機能は23日 |
| OBC |
奉行Netサービス、オンラインサポートなど |
21日19時ごろ |
23日9時までにすべて |
| ソフトバンク |
緊急速報メール |
23日6時47分 |
地震と津波の速報は25日9時25分、災害・避難情報は26日23時17分 |
| NTTドコモ |
エリアメールの一部、どこでも災害・避難情報 |
23日19時30分ごろから順に |
25日20時1分 |
| カゴヤ・ジャパン |
管理画面、会員サイト、新しい申し込みの画面など |
22日14時15分 |
会員サイトは23日17時35分、多くの管理画面は26日14時。Active!mailも稼働中。新しい申し込みの画面と、OEM・BPのコントロールパネルは停止中 |
| 大阪市 |
市のサイトの検索など5つと、市が管理するサイトやシステムの一部 |
検索などは22日12時5分 |
検索などは24日15時15分(翻訳は23日15時ごろ)。26日9時の一覧(30日朝に見た最新版)では、会員や施設の予約のシステムなど19件が停止中 |
| J-LIS |
マイナンバーカード総合サイト |
22日0時45分 |
29日。問い合わせフォームは停止中 |
| JPCERT/CC |
インシデント報告のWebフォーム |
21日18時 |
停止中。電子メールでの報告は受け付けている |
止めた理由とほかの会社の例は、php2shellの記事の一覧にもまとめてあります。携帯各社の緊急速報の止まり方と戻り方は、西のITメディアの記事がくわしく比べました。
同じ組織の中で見ると、戻す順番には癖があります。
ソフトバンクは、緊急速報メールのうち地震と津波の速報を先に戻し、国や自治体の災害・避難情報はその1日半後でした。カゴヤ・ジャパンは、会員サイト、管理画面、新しい申し込みの画面の順です。会員サイトは23日、多くの管理画面は26日に戻りましたが、新しい申し込みの画面と、OEM・BPのコントロールパネルは30日の朝も止まっています。大阪市も、市のサイトの検索など5つは24日に戻した一方、26日9時の一覧では、会員や施設の予約のシステムを含む19件が止まったままでした。J-LISは案内のページを戻しながら、問い合わせフォームだけを止めています。JPCERT/CCも、メールで報告を受けながら、Webのフォームは21日から止めたままです。
どれも、外から文字を受け付ける画面を後に回しています。ただし、そうでない例もあります。OBCは、体験利用の申し込みのサイトや、セミナー・イベントの申し込みのサイトも、23日9時までにほかのサービスとあわせて戻しました。
正直なところ、セキュリティの報告を受けるJPCERT/CCのフォームがいちばん長く止まっているのは、初めは意外でした。ただ、届く中身の重さを考えると、いちばん慎重になるのもうなずけます。
フォームを最後に回す理由
J-LISもJPCERT/CCも、フォームを止めている理由を書いていません。ここからは編集部の見方です。
まず、フォームは外からの入力を受け取るために作られた画面です。php2shellの攻撃は、ファイルを送るときの形式(multipart/form-data)のPOSTの要求を使います。案内のページなら、POSTの要求を入り口で断るように絞り込めるでしょう。でもフォームは、POSTを受け取らないと役目を果たせません。送られた中身をサーバーの上で処理する画面だからです。止めたまま点検を続けるのは、筋の通った判断だと考えます。
次に、入られたときに漏れるものが重い。フォームには、名前やメールアドレス、相談の中身が届きます。インシデントの報告のフォームなら、被害を受けた会社の内情まで書かれるはずです。案内のページを書き換えられるのと、受け付けた相談を持ち出されるのとでは、後始末の重さがまるで違います。大阪市で最後まで残っているのが、会員や予約のように人の情報を受け付けるシステムなのも、同じ理由でしょう。
そして、代わりの道があります。J-LISには電話とチャットボットが、JPCERT/CCにはメールがある。止めても受け付けが途切れないので、急いで戻す理由が小さいわけです。J-LISが総合サイトを止めている間も申請と照会を続けられたのは、申請のサイトを別に動かしていたからです。
問い合わせフォームの画面。10月30日朝もメンテナンス中のまま出典: マイナンバーカード総合サイト(地方公共団体情報システム機構)「お問い合わせフォームメンテナンス中」(引用)
影響するのは、フォームで質問したい人と、社員に案内する総務
- 総合サイトで申請の方法や交付申請書を探していた人は、29日から元どおり使えます。
- 問い合わせフォームで質問したい人は、まだ使えません。フォームの画面には、よくある質問、チャットボット、電話を使うよう案内が出ています。
- 社員のマイナンバーカードやマイナ保険証の質問を受ける総務・人事は、「総合サイトが開けない」という声への答えを、「29日に戻った。フォームだけまだ止まっている」に改めます。
- 影響しなかったのは、オンライン申請、申請状況の照会、マイナポータルを使っていた人です。J-LISの22日の知らせと報道によれば、止まったのは総合サイトだけでした。
自社のサイトを戻すときの段取り
J-LISと、ほかの7件のやり方から、自社で同じ判断をする日に備えて、戻す側で先に決めておけることを拾いました。
- 止める知らせに、代わりの道を書きます。J-LISは最初の知らせで、使えるサイトのURLと電話の番号を示しました。止めた直後の問い合わせは、これだけでかなり減らせます。止める日の最初の1文の用意は、松屋のアプリの停止の記事で取り上げました。
- 戻す順番を、画面の種類で2段に分けておきます。POSTを受けない読むだけのページを先に戻し、ログイン画面・フォーム・申し込みの画面のようにPOSTを受ける画面は、点検のあとに戻す。こう決めておけば、点検の済んだものから順に戻せます。
- フォームを戻す前に、フォームの周りを点検します。メールを送る部品や受け付けた中身を保存する仕組みの版、PHPの版と設定を、運用の委託先と一緒に確かめます。
- 再開の知らせに、止めた理由と被害の有無を1文残します。「PHPの脆弱性への予防の措置で、不正アクセスや情報漏えいは確認されていません」と書いておけば、後から読む人も読み違えません。
- 社内の案内も、戻ったら閉じます。「マイナのサイトが使えない」と社内に知らせていたなら、29日の再開と、フォームだけ止まっていることを伝え直しましょう。
止める判断は数時間でできても、戻す判断には点検の時間がかかります。J-LISの7日と、30日朝で8日を過ぎたJPCERT/CCは、その差がいちばん大きく出た例でした。