社員のAndroidに入っているMicrosoft Authenticatorが古いままなら、9月に直ったはずの脆弱性は、まだその端末に残っています。
Microsoftは2026年9月8日、Android版のAuthenticatorの脆弱性(CVE-2026-80097)を公表し、修正版を出しました。見つけたセキュリティ企業のEnclaveは10月23日(米国時間)に詳しい中身を公開し、権限を一つも持たないアプリが、仕事用のアカウントのトークンを受け取れたと明かしています。
MSRCのCVE-2026-80097のページ。深刻度は重要、CVSSは8.6出典: Microsoft「CVE-2026-80097 Microsoft Authenticator における権限昇格の脆弱性」(引用)
「Teamsです」と名乗るだけで、トークンが渡った
Android版のAuthenticatorは、認証のコードを出すだけのアプリではありません。TeamsやOutlookがサインインするとき、代わりに認証をしてトークンを渡す「ブローカー」の役も持っています。トークンは、サインイン済みであることを相手のサービスに示すデータです。
Enclaveによると、Authenticatorには、端末のどのアプリからでも呼び出せる画面がありました。呼び出したのが誰かは、呼び出した側の申告をそのまま使っていたといいます。
確認の仕組みはありました。ただ、それは名乗ったアプリの署名から作った値と、送られてきた値が合うかを見るだけのものです。本物のTeamsが端末に入っていれば、その値はどのアプリでも作れます。偽のアプリでも通るわけです。
Authenticatorは本当の呼び出し元を知っていたのに、信用の判断には使っていなかった。Enclaveはそう書いています。返ってきた結果には、アクセストークン、更新トークン、IDトークンが、そのまま読める形で入っていました。
取られたトークンでできたこと
Enclaveの試験では、偽のアプリが3つの相手になりすまし、それぞれ別の権限を受け取りました。
| なりすました相手 |
受け取れた権限の例 |
| Teams(Microsoft Graphを要求) |
メールの読み書きと送信、ファイル、予定表、SharePointのサイトの読み書き、Teamsのメッセージの送信 |
| Teamsのチャットの裏側のサービス |
利用者になりかわって操作する権限 |
| Authenticator自身 |
サインインの方法の読み書き、パスキーの作成と削除 |
Enclaveのブログ。3つの相手になりすまし、3通りの権限を得た出典: Enclave「AuthMask: We Made Microsoft Authenticator Hand Over Tokens to an App With Zero Permissions」(引用)
重いのは3つ目です。攻撃者が自分のパスキーを足してしまえば、偽のアプリを消したあとも、そのアカウントに入り続けられます。メールやファイルを読まれるだけでは終わりません。
利用者の操作が要るかで、両者の書き方が違う
悪用の条件について、MicrosoftとEnclaveは違う書き方をしています。
Microsoftは、悪意のあるアプリを入れて動かし、そのうえで利用者を説得し、Authenticatorで認証の流れを終えさせる必要があるとしています。CVSSでも「利用者の関与が要る」と評価し、基本値は8.6です。
Enclaveは、仕事用のアカウントでサインインしたAuthenticatorが端末にあれば、それ以上の操作は要らなかったと書いています。
どちらの説明でも、まず偽のアプリを端末に入れさせる必要がある点は変わりません。MSRCの表示では、悪用は確認されていません。
影響を受けるのは、AndroidでAuthenticatorを使う会社
対象は、Android版のAuthenticatorに会社のアカウントを入れている端末です。Enclaveは、6.2606.4246より前の版が対象だとしています。
| 端末 |
影響 |
| Android、Authenticatorが6.2606.4246より前 |
受ける。更新が要る |
| Android、6.2606.4246以降 |
9月の修正が入っている |
| iPhone |
MSRCの対象に入っていない |
| Authenticatorを使っていない |
この脆弱性は関係しない |
見落としやすいのは、私物のスマホでしょう。会社が管理していない端末でも、社員が自分のAndroidで会社のアカウントをAuthenticatorに入れていれば、対象になります。
Intuneで端末の版を確認する手順
会社が管理するAndroidなら、Intuneで版を確認できます。以下はMicrosoft Learnの説明に沿った手順です。
- 入っている版を見る。Intuneの「検出されたアプリ」のレポートは、アプリの名前、版、端末の数を一覧にし、CSVにも書き出せます。個人所有の仕事用プロファイルでは管理対象のアプリだけ、会社所有では仕事用プロファイルのアプリが載ります。一覧の更新は、登録から7日ごとです。
- 更新を急がせる。管理対象のGoogle Playのアプリは、既定ではWi-Fiにつながって充電中で、使っていないときにしか更新されません。Authenticatorの割り当てで更新モードを「優先度高」にすると、新しい版が出しだい、その条件を待たずに更新されます。
- 管理していない端末は、社員に頼む。Google PlayでAuthenticatorを最新にするよう案内し、版の番号を答えてもらいます。
足されたパスキーと、残ったトークンを見直す
アプリを更新しても、すでに足されたパスキーや、取られたトークンは消えません。不審なアプリを入れた覚えのある社員がいれば、Entraの側も確認します。
- 認証方法を見る。Entra管理センターの「認証方法」の「アクティビティ」で、社員ごとの登録の詳細と、登録やリセットの記録を見られます。使うにはEntra ID P1かP2が要ります。社員ごとの「認証方法」の画面には、パスキーを含む登録済みの方法が並び、覚えのないものは消せます。
- セッションを取り消す。社員の概要のページで「セッションの取り消し」を選ぶと、更新トークンが無効になります。数が多いときは、Microsoft Graph PowerShellでまとめて取り消せます。
パスキーの登録の管理は、同期パスキーの落とし穴SBI証券の警告から情シスが確かめることでも扱いました。
今回の入口は、社員が自分で入れたアプリです。Authenticatorを入れたスマホに、ストアの外からアプリを入れてよいか。私物の端末の規程にその一文が無ければ、MFAの設定と同じ重さで決めておきたいところです。