Web3のスタートアップ支援(アクセラレーター)を名乗り、無料のAIクレジットやコーディングの道具、セキュリティ 監査と偽って、悪意あるnpm パッケージでマルウェア を配る攻撃が報告されました。Elastic Security Labsが10月12日に公表したもので、開発者 のAIツールの通信まで乗っ取る点が新しい手口です。開発者を狙う流れと、情シス が開発部門と確かめることを整理します。
何が報告されたか
Elastic Security Labsは、暗号資産のスタートアップや創業者を狙い、Web3のベンチャー支援を装う一連の活動を「REF8801」として追っています。
Elastic Security Labsの報告の要点(2026年10月12日) 出典: Elastic Security Labs「Auditing the auditor: Unmasking Apex Accelerator」 (引用)
攻撃者は、数か月かけて「Apex」という支援組織の見た目を作り込み、200件を超える出資先や、1億2,400万ドル超の調達があるとうたっていました。偽のレビューや、国際的なカンファレンス(シンガポールのTOKEN2049など)への出席で、信用があるように見せていたとされます。無料のAIクレジット(ClaudeやGemini)、コーディングの道具、セキュリティ監査を入り口にして、開発者を引き込みます。
偽物の中身
配られたnpmパッケージは、入れて動かすと、宣伝どおりの機能は果たしません。
情報窃取と裏口を仕込む 。macOS向けには「CloudSyncD」という裏口、Windows向けには独自の情報窃取が入ります。盗んだ情報は、WindowsではTelegram経由で外へ送られます。
AIの通信を流し替える 。正規のコーディング支援ツールをほぼそのまま流用し、起動時の仕掛けだけを足していました。Elasticの検証では、AIへの問い合わせ先が攻撃者のサーバーに書き換えられ、「OpenRouter」という名前の表示のまま、実際には攻撃者のサーバーへ送られていました。手元で読んだファイルの中身が、問い合わせに含まれて送られることも確かめられています。
監査の結果をでっち上げる 。18個のセキュリティ監査ツールは、実際には調べず、作り物の結果を返します。別の検証では、実在しないプロジェクトに51点(100点満点)を返したとされます。「監査で問題なし」という偽の安心を与える、という点でも危険です。
攻撃者は、暗号資産のウォレットや、取引者向けの分析ツールの開発者に、直接の出資をちらつかせて近づき、「審査のために、この道具を動かして」と促していました。Elasticは、ソースコードの履歴にロシア語のコメントがあったとしつつ、それだけでは正体は特定できないとしています。
影響する会社・しない会社
影響する: 暗号資産・Web3のスタートアップや、その開発者。出資や採用、監査の誘いを受けて、言われた道具を入れた場合は、該当のPCを調べます。
影響する: 開発部門で、出どころの確認が緩いまま、npmや外部の道具を入れている会社。今回のパッケージ以外にも、同じ手口は広がりえます。
影響しない(可能性が高い): 問題のパッケージを入れていない会社。ただし、「無料のAIクレジット」「無料の監査ツール」の誘いは、Web3に限らず広がりうるため、開発部門への周知が要ります。
情シスが今日やること
出どころの確認を決める 。npmなどのパッケージは、公開元・ダウンロード数・公開からの日数・リポジトリの実体を確かめてから入れる決まりにします。採用や出資の誘いに付いてきた「審査用の道具」は、とくに警戒します。
開発PCのAIの鍵を守る 。ClaudeやCursor、Windsurfなどの設定や認証の情報(config.jsonやstorage.json、.envなど)は、この攻撃が集める対象でした。AIの道具に渡すAPIキーは、用途ごとに分け、上限や通知を設定し、ソースコードや設定ファイルに平文で置かないようにします。使っていない鍵は失効させます。
問い合わせ先の書き換えに気づく 。AIの道具で、問い合わせ先(ベースURL)が勝手に書き換わっていないか、見覚えのないMCPサーバーが登録されていないかを確かめます。外向きの通信の記録で、想定外の宛先が無いかも見ます。
入れた疑いがあれば、鍵を全部替える 。該当のPCで扱った、AIのAPIキー、ウォレット、各種のパスワードを漏れた前提で替え、PCを調査します。
AIの道具は、各社のAPIキーを預け、手元のファイルを読ませて使うものが増えています。だからこそ、偽の道具を一つ入れるだけで、鍵も、読ませたファイルも、まとめて攻撃者に渡りえます。OpenCodeのConsoleへの侵害の記事 でも触れたとおり、どの道具に、どの鍵を預けているかを一覧にしておくと、こうした報告が出たときに、すぐに失効させる範囲が分かります。