「カスタマーサポートの対応を、そろそろシステム化したい。情シスで進めてくれる?」。経営層からそう言われて、情シスのあなたは現場(コールセンター)へ向かいます。ところが、ベテランのオペレーターに相談すると、こう返ってきます。「うーん、正直、紙の資料のほうが速いんですよね」。上は「早く」、現場は「このままがいい」。その真ん中で、あなたは立ち尽くします。
カスタマーサポートの現場と情シスの連携は、よくこの「板挟み」で始まります。どちらが正しい・悪いという話ではありません。両者は、同じ「良い対応をしたい」という目的を、別の言葉で話しているだけなのです。今回は、公開されている体験談をもとに、この連携のつまずきと、うまくいく進め方を考えます。
よくある場面:「上はシステム化、現場は紙のまま」
note に、コールセンターのシステムを10年以上担当してきた人とのやり取りが書き残されています。役員からシステム化を進めるよう指示が出ていた中で、その担当者が口にしたのが次の言葉です。
システム化を進めたい。でも、オペレーターは紙の資料の方が使いやすいと言っている。
出典: note「コールセンターの情シスが気が付きたくなかったこと」(あまみるい)
ありがちな構図です。上からは「システム化を進めるように」と言われ、現場は「応対品質が下がる」「紙のほうが使いやすい」と言う。情シスは、その両方を聞きながら、どう進めればいいのか分からなくなります。
この記録が鋭いのは、抵抗の正体を「わがまま」ではなく「仕組みの問題」として捉えているところです。
組織の構造として、今動く理由が設計されていなかった。
出典: note「コールセンターの情シスが気が付きたくなかったこと」(あまみるい)
現場が動かないのは、やる気がないからではなく、「今、新しいやり方に変える理由」が、現場の仕事の流れの中に用意されていないから。ここに気づけるかどうかが、連携の分かれ目になります。
なぜ現場は「紙のほうが速い」と言うのか
カスタマーサポートの現場が紙や既存のやり方にこだわるのには、たいてい実務上の理由があります。
- 応対しながら素早く参照したい: 電話中に、画面を何回もクリックして探すより、手元の紙をめくるほうが速い、という感覚です。
- 書き込める・一覧できる: 紙は、その場でメモを書き込んだり、全体を一目で見渡したりしやすいという良さがあります。
- 応対品質を落としたくない: 新しいツールに慣れるまでの間、お客様を待たせたり、対応が雑になったりすることを、現場は何より恐れます。
これらは、現場が「良い対応をしたい」からこその抵抗です。情シスがこの理由を無視して「とにかく新しいツールに」と進めると、入れたのに使われない、という結果になりがちです。
ツールを入れて「終わり」にしない
もう一つ、ありがちな失敗があります。苦労して導入したのに、気づけば現場が使わなくなっている、というものです。原因の多くは、「使う理由」が現場の仕事の流れに組み込まれていないことにあります。
たとえば、新しい問い合わせ管理ツールを入れても、これまでの紙やExcelの記録も続けていたら、現場は二重の手間を感じます。手間が増えるだけなら、慣れた紙に戻るのは自然なことです。導入は「入れた瞬間」ではなく、「現場が、前より楽になったと感じた瞬間」に、ようやく半分が終わります。
だからこそ、入れたあとの観察が大切です。現場が実際にどう使っているか、どこで手が止まるか、二重手間になっていないかを見て、小さく直し続けます。情シスが一度決めた仕様を押し通すのではなく、現場と一緒に育てる姿勢が、定着を分けます。
情シスにしかできない橋渡し
この連携で、情シスには、ほかの人には難しい役割があります。それは、経営層の言葉と、現場の言葉を、両方分かる立場で「翻訳」することです。
経営層は、効率やコスト、品質の数字で物事を見ます。現場は、目の前のお客様への応対のしやすさで見ます。どちらも「良い対応を、無理なく続けたい」という同じ願いを、別の言葉で話しています。情シスが、現場の「この操作だと応対が遅れる」という声を、経営層に伝わる「対応時間が延びて満足度に響く」という言葉に置き換えれば、無理な期日や全面導入は、現実的な計画に変わります。
ツールの知識だけでなく、両方の立場の気持ちが分かること。それが、カスタマーサポートと情シスの連携で、いちばん効く力になります。
今日からできること
板挟みを抜けるには、「どちらに従うか」ではなく、「両者の目的をつなぐ」進め方が効きます。
- 現場の目的を先に聞く(情シス): 「なぜ紙のほうが速いのか」を具体的に聞き出します。応対の速さ、書き込み、慣れ、といった理由を一つずつ確かめ、新しいツールで同じことができるかを一緒に見ます。否定から入らないことが大切です。
- 小さく試す(情シス): いきなり全面切り替えをせず、一部の業務や、賛同してくれる数人から試します。うまくいった例が現場の中に生まれると、「今動く理由」が自然に育ちます。
- 紙との併用を認める(情シス): 「紙を完全になくす」をゴールにしないことです。しばらくは紙と併用し、新しいやり方のほうが明らかに楽になったと現場が感じてから、少しずつ移します。
- 経営層の言葉に翻訳する(情シス): 現場の「応対品質が下がる」という懸念を、経営層に伝わる言葉(品質の指標、対応時間、離職のリスクなど)に言い換えて共有します。これで、無理な期日や全面導入の指示を、現実的な進め方に調整できます。
- システム化そのものを目的にしない(全員): システム化は手段であって、目的は「お客様への良い対応を、無理なく続けること」です。この共通の目的に立ち返ると、上と現場の言い分は、意外と同じ方向を向いていると分かります。
カスタマーサポートの現場は、会社とお客様の最前線です。その現場と情シスがぶつかるのではなく、目的でつながれると、システム化は「現場を楽にする味方」になります。急がば回れ。現場の「今動く理由」を一緒に作ることが、遠いようでいちばんの近道です。
(この記事は、公開されている体験談をもとに、編集部が整理しました。)