国内で不正アクセスや情報漏えいの公表が相次ぐ中、セキュリティ会社のGMOサイバーセキュリティ byイエラエ(以下、GMOサイバーセキュリティ)が、攻撃元を調べた結果を公表しました。AIで自動に侵入テストをする道具「ARTEX」が使われており、日本企業を業種ごとに絞って狙っていたとしています。同社の10月19日と15日のブログ、米CrowdStrikeの報告から整理します。攻撃の手順や道具の使い方は書きません。
何が分かったか
GMOサイバーセキュリティのGMOサイバー犯罪対策センターは10月19日、日本企業を狙った侵害の事案で攻撃元の基盤を調べたところ、AIによる自律型の侵入テストの仕組み「ARTEX」が使われていたと発表しました。10月15日のブログでは、侵害の記録(フォレンジックのログ)から「AIによる攻撃の可能性が高い」と推定しており、それを裏付ける結果だとしています。
- 調べた攻撃元の基盤は、同社が観測できる範囲では、ほぼ日本だけを標的にしていた。標的は日本企業約20社で、うち9社は同じ業種のサイトだった
- 韓国の事案と合わせると、国と業種を絞った攻撃のキャンペーンで、キャンペーンごとに別の攻撃用の機械を用意しているとみられる
- 同じように日本企業ばかりを狙う、AIを使った攻撃元の基盤を、ほかに6台見つけた
日本企業を狙うAIの攻撃元の基盤6台と、主な標的の業種出典: GMOサイバーセキュリティ byイエラエ「相次ぐ不正アクセスの攻撃元の多くがAIであることを確認」(引用)
標的と確認した日本企業のうち8社は、2026年9〜10月にすでに情報漏えいを公表しており、同じ攻撃のグループによる犯行で、複数の被害が出ていることを示すとしています。情報は法執行機関に共有しました。日本と韓国以外も狙っているかは、調べている最中です。
ARTEXとは
米CrowdStrikeは10月7日、韓国の金融機関を狙った攻撃のキャンペーン(9月下旬〜10月上旬)で、ARTEXが使われたと報告しています。CrowdStrikeによると、ARTEXは中国で作られ、最近公開されたオープンソースの「エージェント型」の侵入テストの道具で、攻撃者はこれを複数の大規模言語モデル(LLM)と組み合わせていました。韓国の事案では、データが持ち出されています。CrowdStrikeは、攻撃者は中国語を話し、金銭目的である可能性が高いと、中程度の確からしさで見ています。
侵入テストの道具は、本来は自社や依頼を受けたシステムの弱い所を探して直すためのものです。それが攻撃に使われると、弱い所を探す作業の多くを、AIが休まず続けることになります。
AIを使った攻撃の速さについては、AIで6日・4万ドルでChrome攻撃を構築 情シスは「パッチを早く」でも取り上げています。
同社が挙げた「基本の対策の落とし穴」
GMOサイバーセキュリティは10月15日のブログで、相談を受けた多くの事案の傾向から、「基本的な対策をしていたのに、なぜやられたのか」を3つに分けて説明しています。特定の事案の話ではない、と断ったうえでの分析です。
- CVEの盲点: CVEには対象の版が書かれますが、書かれていない版も影響を受けることがある。サポートが終わった版は確かめられず、修正も情報も出ない。攻撃のコードを少し変えるだけで、別の版にも効く場合がある(同社は「シャドー脆弱性」と呼ぶ)。AIを使えば、全部の版のソースコードをたどって、こうした穴を探すのが簡単になる
- ASMの非対称性: 外から資産を点検するASMでは、製品によっては版が分からず、壊さない範囲の点検しかしない。版が分からないと、担当部門に急ぎの修正を強く求めにくい。一方、攻撃者は版を気にせず、攻撃のコードを打ち込めばよい
- セキュリティ機器のすり抜け: WAFのルールを研究したうえで、すり抜ける手口が複数使われていた
10月15日のブログが挙げた落とし穴の3つめ。WAFのすり抜け出典: GMOサイバーセキュリティ byイエラエ(2026年10月15日のブログ)(引用)
同社は、人間の攻撃とAIの攻撃をログから見分ける研究の知見も踏まえ、今回の攻撃にAIが使われたことはほぼ間違いないとしていました。被害が多い理由は、誰でも攻撃できるようになったことだけではなく、熟練の攻撃者が攻める側と守る側のずれを分析し、そのずれを突くためにAIを使っていることだ、と見ています。