スペインの研究所IMDEA Networksなどの研究者が、ChatGPT やClaude 、Grok など9つのAIチャットのサービスを調べた論文を公開しました。ウェブ版の6つが、会話のURLや自動で付く題名、入力した文などを、広告や計測の会社に送っていたと報告しています。社員が業務でAIチャットを使う会社が、何を決めればよいかを整理します。
何が調べられたか
論文の題は「Prompt like a Butterfly, Sting like a Tracker」です。プライバシー技術の国際会議PETSの論文集(2027年第1号)に載る予定で、2026年9月22日に研究所の論文の公開サイトに載りました。研究者は5月に、先に調べた結果を「LeakyLM」というページで公開しています。
研究者が5月に公開した調査のページ「LeakyLM」の冒頭 出典: IMDEA Networksの研究者「LeakyLM」 (引用)
調べたのは、ChatGPT、Claude、Grok、DeepSeek 、Perplexity、Gemini 、Microsoft Copilot、Mistral(Le Chat)、Meta AIの9つです。ウェブ版はChromeの開発者ツールで、Androidアプリは通信を見られるようにした端末で、外へ出る通信を記録しました。試したのは2026年5月で、場所はスペインです。
条件は、ログインしない使い方、無料、有料の別と、Cookieの同意(すべて受け入れる・非必須を拒否する・答えない)の組み合わせです。論文は、法人向けと官公庁向けのプランは調べていないと明記しています。調べた場所や利用者の状態が違えば、結果も違いうるとしています。日本で同じ結果になるかは、論文からは分かりません。
何が分かったか
9つすべてが、少なくとも1つの広告や計測のサービスと通信していました。見つかった第三者は44の組織で、そのうち34が広告や追跡のサービスです。
会話の中身に関わる手がかり(論文は「会話の生成物」と呼んでいます)を第三者に送っていたのは、ウェブ版の6つと、Androidアプリの3つでした。
9つのAIチャットの調査で分かったことと、会社で気をつける点(編集部作成) 作成: 編集部 / もとの資料: Oliveira ほか「Prompt like a Butterfly, Sting like a Tracker」とLeakyLMのページを編集部が整理
渡ったもの
ウェブ版の提供元の数
Androidの提供元の数
会話のURL
5
0
会話のID
2
2
入力した文(プロンプト)
1
1
会話の題名
3
0
会話の画面の写し
1
0
共有した会話のURL
5
0
会話の題名は、AIが会話の中身から自動で作る短い要約です。論文の例では、年収と住宅ローンを尋ねると「85,000ドルの年収でのNYCの住宅ローンの見通し」のような題名が付きます。題名だけで、何を相談したかが分かります。ウェブ版の3つが、この題名を9つの第三者に送っていました。
これらは、広告のCookieやメールアドレスのハッシュ値(元に戻せない形に変えた値)と一緒に送られることがありました。研究者は、会話が広告の会社の持つ利用者の情報に結びつくおそれがあるとしています。
We show that 6/9 web and 3/8 Android clients disclose conversation URLs, titles, prompts, and screenshots to third-party services, often alongside persistent user identifiers.
出典: Oliveira ほか「Prompt like a Butterfly, Sting like a Tracker」
サービスごとの主な例
論文に書かれた例のうち、会社の使い方に関わるものを挙げます。
Grok: 会話のURLと題名が、Meta、TikTok、Googleの広告などに渡りました。無料・有料とも、会話のURLは既定で誰でも開けます(後から制限できます)。共有した会話では、画面の写しと最後に入力した文もTikTokなどに渡りました。
Perplexity: メールアドレスのハッシュ値を、計測の会社に送っていました。ログインしない使い方の会話は、いつも公開です。
Claude: 非必須のCookieを受け入れると、自社の領域から読み込む設定で、利用者の出来事を11の広告などのサービスへサーバー同士で転送する作りでした。拒否すると、この転送は見られませんでした。
ChatGPTとClaude: ウェブ版が、会話を見分けるIDを計測のサービスに送っていました。
研究者は、会話のURLを仕込んだ仕掛け(開かれると知らせる目印)も試しました。外から開かれた跡が見つかったのはGrokだけで、14の国から70回開かれていました。
Cookieの拒否と、有料プランの効き目
非必須のCookieを拒否すると、送られる情報が減る場合はありました。それでも、拒否したあとも第三者の追跡の80.8%は動いたままでした。無料の使い方では、9つのうち4つで、拒否しても第三者が情報を集めていました。
有料にしても、つながる第三者はほとんど変わりませんでした。ウェブ版で、同意の選択をずっと覚えておく設定があったのは、ChatGPTの有料プランだけだったとしています。
各社と当局の反応
研究者は2026年4月13日に、欧州と英国のデータ保護の当局に結果を知らせました。4月17日には、会話のURLを誰でも開ける点について、xAI(Grokの会社)に知らせています。論文によると、9月10日の時点でxAIからの回答は無く、Grokの会話のURLは誰でも開けるままでした。
スペインのデータ保護庁(AEPD)は5月27日、この調査を欧州データ保護会議に知らせ、各国の当局に広めるよう求めたと発表しました。論文によると、OpenAIは8月15日にChatGPTのプライバシーポリシーを改め、第三者の追跡に明示的に触れました。研究者は、この調査との関係は確かめられないとしています。
ほかの会社の公式の反応は、論文と研究所の発表には書かれていません(10月19日確認)。同じ調査を、個人の使い方の目線で紹介した記事はAIチャットの会話のリンクや題名、広告や計測の会社に渡る スペインの研究所がChatGPTなど9つを調査、Grokは入力した文も です。
会社にとって何が問題か
社員が個人のアカウントのウェブ版で業務の相談をすると、題名やURLに業務の中身が出るおそれがあります。例えば「〇〇社への値下げの提案書」のような題名が、AIの会社以外の第三者に渡りうるということです。
個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、会社が生成AIに個人情報を入れるときは、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう求めています。今回の調査は、AIの会社だけでなく、その先の第三者に何が渡るかも、確かめる点になることを示しています。
影響する会社・しない会社
影響する: 社員が、個人のアカウント(ログインしない使い方・無料・個人の有料)のウェブ版のAIチャットで、業務の相談をしている会社です。
影響する: AIチャットの会話を、共有リンクで社内外に渡している会社です。Grokのように、既定で誰でも開けるサービスがあります。
影響する: AIチャットを使ってよいかの決まりが無い会社です。何を入れてよいかが社員の判断に任されています。
影響しない: 業務ではAIチャットを使っていない会社です。ただし、社員が私物の端末で使っていないかは、確かめないと分かりません。
影響しない(この調査の範囲では): 法人向けプランだけを使っている会社です。調査の対象外なので、同じことが起きるかは契約先に確かめます。
情シスが今日やること
社員が使っているAIチャットを洗い出します。 サービスの名前と、会社の契約か個人のアカウントかを分けて聞きます。
業務の情報を入れる先を決めます。 「業務の情報は、会社が契約した法人向けプランだけに入れる。個人の無料アカウントには入れない」を、今日のうちに社内へ知らせます。
共有リンクの扱いを決めます。 業務の会話は共有リンクで渡さないことにします。すでに作った共有リンクは、各サービスの画面で取り消すよう知らせます。
契約先に問い合わせます。 法人向けプランのウェブ版に、第三者の計測や広告のタグがあるか、会話のURLや題名が外に送られていないかを、文書で答えてもらいます。
個人で使う社員にも伝えます。 非必須のCookieは拒否を選ぶこと、ただしそれだけでは止まらない送信があることを、注意として添えます。
社内に知らせる文面の例です。そのまま使えます。
件名: AIチャットの業務での使い方について(お願い)
AIチャットの会話のURLや自動で付く題名が、広告や計測の会社に送られていたとする研究が公表されました。
業務の情報は、会社が契約したサービスだけに入れてください。個人のアカウントや、ログインしない使い方では入れないでください。
業務の会話を共有リンクで渡すのはやめ、作った共有リンクは取り消してください。分からないときは情報システムの担当へ相談してください。
2026年10月19日時点の内容です。