安藤ハザマ(株式会社安藤・間)、NTT、富士通グループの1Finity(1FINITY株式会社)は、2026年10月19日、建設中の山岳トンネルで行った通信の実証の結果を発表しました。IOWN(NTTが進める、光を使う次世代の通信と計算の基盤の構想)のAPNで、遠くの拠点から工事を管理できるかを確かめたものです。建設の話ですが、粉塵の多い場所に機器を置く工夫や、遠くの拠点を太い回線で結ぶときの考え方は、工場 や倉庫をつなぐ情シス にも参考になります。
どこで、誰が、何を確かめたのか
項目
内容(発表のとおり)
場所
東海北陸自動車道(4車線化)椿原トンネル工事
時期
2026年3月
坑内の網
光ファイバを1,100m敷き、切羽(掘っている最前部)から100mおきに光伝送装置を6台
遠くの拠点
1,000kmの長距離通信を模擬したAPNの環境
役割
安藤ハザマが環境の準備と推進、NTTが無線と遠隔検査・AIのひび割れ検知の仕組み、1FinityがAPNの模擬の環境と機器
APN(オールフォトニクス・ネットワーク)は、通信を光のまま送る網です。NTTは、低い消費電力、大容量、低遅延の伝送をめざすとしています。
発表の見出しの「1,000km先から」は、実際に1,000km離れた拠点とつないだ結果ではありません。 発表は「1,000kmの長距離通信を模擬」と書いています。構成図では、トンネルの長さ1,500mも、実際の長さに遅延を足して疑似的に作っています。
実証のネットワーク構成。APNの1,000kmは模擬、坑内に光伝送装置6台 出典: 安藤ハザマ・NTT・1Finity(報道発表資料の図2) (引用)
実証で出た数字
発表の主な成果は次のとおりです。
確かめたこと
結果
光の区間の品質
パケットロスなし。ジッタ(遅延のばらつき)は概ね100ナノ秒以下。24時間以上の連続稼働
監視 と大きなデータの同時送信
カメラ15台分の映像を流しながら、約20GBの3次元計測データを坑内から現場事務所まで約1分で送信
無線
WiGig(60GHz帯の無線LAN)で、100m離れて遮る物がある所でも、0.2mmのひび割れを見るのに要る帯域を確保
遠隔検査
1,000kmを模擬した拠点へ4K映像と音声を送り、幅0.2mmのひび割れを確認。AIの画像解析での検出にも成功
0.2mmは、国土交通省の施工管理基準などで対象になるひび割れの幅です。約20GBを約1分で送った区間は、坑内から現場事務所までです。単純に割ると、毎秒約2.7ギガビットになります(編集部の計算)。
遅延の値は、発表に書かれていません。2025年8月の安藤ハザマとNTTの発表では、点群データ(レーザーで測った3次元の点の集まり)の解析にかかる時間を60秒に縮める目標を掲げていました。
粉塵と湧水の坑内に機器をどう置いたか
山岳トンネルでは、毎日の発破で振動と粉塵が出て、湧水で湿ります。安全のため、床に置くラックも使えません。そこで通信機器は収容箱に入れ、トンネルの壁のワイヤに吊り下げました。
収容箱は、防塵・防水の等級がIP65(粉塵が入らず、噴き付ける水にも耐える等級)のものです。実証の期間中、箱の中の通信機器は安定して動いたとしています。図には、坑内温度15〜20℃、機器温度 最高50℃、湿度 約50%と書かれています。
坑内の環境と、壁のワイヤに吊った防塵の光伝送装置の収容箱 出典: 安藤ハザマ・NTT・1Finity(報道発表資料の図4) (引用)
工場の製造ラインや倉庫、屋外の設備に機器を置くときも、確かめる点は似ています。粉塵と水への等級、箱の中の温度、置き場所の安全です。工場の機器を止められる時間の決め方は、工場の古いPCは更新できない?製造現場と情シスの止めてよい時間の合わせ方 にまとめています。
商用のAPNの回線はいま契約できるのか
実証は模擬の環境ですが、APNの回線そのものは商用で提供されています。公式の発表とサービスのページで確かめた範囲は次のとおりです(10月19日確認)。
会社・サービス
帯域
提供の状況
NTT東日本・NTT西日本 「All-Photonics Connect powered by IOWN」
10Gbps〜800Gbps(帯域保証・2拠点を結ぶ)
2024年12月1日から順次。料金は個別の見積もり
NTT西日本の同じサービスのタイプ3・タイプ4
100〜800Gbps(東日本のエリアとつなげる)
大阪・愛知・福岡など11府県で受付中。2027年9月に北陸など7県、2028年1月に四国など12県へ広げる予定
NTTドコモ ビジネス「docomo business APN Plus powered by IOWN」
帯域固定は10Gbps〜1.2Tbps、可変のNaaSプランは100Mbps〜10Gbps
2025年10月1日から。国内全域(一部の接続口は沖縄県を除く)。料金は営業の担当へ
NTT西日本では、10〜400Gbpsのタイプ1・2は全エリアで提供中です。西日本と東日本のエリアをまたぐときは、NTT東日本の契約と料金が別に要ります。NTTドコモビジネスのNaaSプランは、ポータルやAPIから自分で帯域を増やせ、増やした分は日単位の料金です。
NTT東日本は、インターネットVPNは回線の混み具合で品質が左右され、広域イーサネットは閉域網で設計の自由度が高いと説明しています。APNは光の波長を専有するので、ほかの利用者の通信の影響を受けないとしています。APNは、日立製作所などのデータセンター間の実証 でも使われています。
影響する会社・しない会社
影響する: 工場・倉庫・建設現場など遠くの拠点から、高精細の映像や大きな計測データを本社やデータセンターへ送りたい会社。
影響する: 粉塵・水・振動のある場所に、ネットワーク機器やカメラを置いている会社。収容箱の等級と吊り下げの置き方が参考になります。
影響する: 拠点間の回線の見直しで、帯域保証の専用線を比べている会社。APNの商用の回線が候補に入ります。
影響しない: 拠点の通信がメールや業務システムの利用が中心で、今の回線で困っていない会社。
急がなくてよい: トンネルの遠隔施工管理の仕組みそのもの。実際のAPNでの運用の試しはこれからで、実運用に向けた検証は2027年度以降の予定です。
情シスが今日やること
拠点ごとに、送りたいデータの量と種類を書き出します。カメラの台数と解像度、1回に送るファイルの大きさです。今回の「映像15台分と約20GB」が、比べるときの目安になります。
今の拠点間の回線で、パケットロスとジッタを測っているかを確かめます。測っていなければ、監視の道具に項目を足します(編集部の提案)。
粉塵や水のある場所の機器を一覧にし、収容箱のIP等級と、箱の中の温度を確かめます(編集部の提案)。
帯域保証の回線が要りそうなら、NTT東日本・西日本かNTTドコモビジネスの営業の担当に、提供エリア、帯域、見積もり、開通までの期間を問い合わせます。
最後の区間を無線でつなぐなら、距離・向き・遮る物で帯域がどう変わるかを、置く場所で測ります。今回の実証も、この3つを評価しています。
2026年10月19日時点の内容です。「IOWN」はNTT株式会社の商標または登録商標です。