日本取引所グループ(JPX)と日立製作所は2026年10月20日、取引システムの運用監視にAIの本格適用を始めたと発表しました。2026年10月から、JPXが運営する国内金融市場の取引システムで、アラート発生時の対処手順候補をAIが絞り込み、担当者の初動判断を支援しています。
日立製作所が発表に添えた画像出典: 日立製作所(PR TIMES)(報道用の素材)
熟練者に頼っていた手順選びを支援
採用したのは、日立の「JP1 Cloud Service 生成AIアシスタント」です。対象の監視業務では、株式やデリバティブ商品などの取引を担う40以上のシステムを、24時間365日体制で集中監視しています。
両社によると、アラートに対応する手順の選定は、従来、熟練者の経験に依存していました。AIは対処手順の候補を絞り込む役割を担います。本格適用の目的は、特定の担当者に知識や判断が集中する状態を解消し、生産性を高めることです。
今回の適用は、障害対応のすべてをAIに任せるものではありません。JPXは今後、障害時の初動切り分けや、その後の対処業務にも段階的に適用を広げる方針です。現在は人が担う障害対応業務へのAIエージェント適用も、将来の方針として示しています。
判断精度97%以上は「候補を正しく絞れた割合」
本格適用に先立つPoC(実運用を想定した検証)では、JPXが蓄積した1万件以上のインシデント事例と対処手順を活用しました。両社は、1,600件以上のテストケースで、AIの判断精度が97%以上に達したとしています。
この数値は、正しい対処手順候補をAIが絞り込めた割合です。障害を自動復旧できた割合や、本番運用での障害対応の成功率を示すものではありません。自社への導入を考える際も、「候補を選べること」と「対処を実行して復旧できること」は分けて評価する必要があります。
検証では、回答に判断根拠を示す機能と、AIが誤りやすい項目のプロンプト補助機能を実装・調整しました。プロンプトはAIへの指示を指します。検証で得た成果は、JP1の製品機能に反映されています。
情シスが参考にしたいのは、精度の数値だけでなく、過去の事例と手順を使い、判断根拠や誤りやすい項目も検証した点です。
影響する会社・しない会社
- 影響する: JPXの対象取引システムの運用監視に関わる会社・担当部門です。AIによる候補提示を踏まえ、担当者がどう初動判断するかが実務上の確認点になります。
- 影響する: 監視業務へのAI導入を検討する会社です。自社の事例・手順を使った評価や、判断根拠の確認方法を考える際の参考になります。ただし、同じ精度が得られるとは示されていません。
- 影響しない: JPXの対象取引システムの運用に関与しない会社は、今回の本格適用の直接の対象ではありません。JP1を利用する他社への適用条件や、必要な設定変更は発表には書かれていません。
情シスが今日やること
以下は、この事例を自社の導入検討に生かすための確認手順です。発表に伴う更新期限や必須作業ではありません。
- 今日、監視責任者と、AI導入を検討する範囲を確認します。「アラートから手順候補を選ぶ」「障害原因を切り分ける」「対処を実行する」を分け、今回の事例と同じ範囲はどこかを整理します。
- 自社の監視画面のアラート履歴と、障害対応記録・手順書を照合します。候補選びに使える記録があるか、運用担当者と確認してください。発表には具体的な管理画面名や操作経路は書かれていません。
- 検証を始める前に、運用責任者と評価項目を決めます。正しい候補を選べたか、判断根拠を確認できるか、誤りやすい項目は何かを分けて記録する方法を用意します。
- 導入判断の前に、製品の提供元へ自社で利用できる機能と適用条件を確認します。経営者や導入承認者には、97%以上は今回のテストケースでの候補選定精度であり、自社の復旧成功率を保証する値ではないことを伝えます。