メールが1通届かないだけで、役所の申請の入口が閉じることがあります。
横浜市の電子申請・届出システムは、10月31日17時40分ごろからメールを送れなくなりました。メールの二段階認証が必要な人はログインできません。11月3日21時45分の更新でも、復旧の見込みは未定です。
原因は市のシステムではなく、その先にあるメール配信サービス「アララ メッセージ」の緊急停止です。アララの件は約7700万件の漏えいとして伝わりました。ただ、配信を任せていた側には、止まり方というもう1つの問題が出ています。
3つの市で、止まったものが違う
横浜市、大阪市、姫路市の申請の仕組みは、いずれもTKCの提供です。メールの配信はそのTKCからアララへの委託で、姫路市の発表の言葉では「再委託」にあたります。
委託の形は同じでも、影響の書かれ方は市ごとに異なります。
| 市 |
止まったもの |
使えるもの |
漏えいの説明 |
| 横浜市 |
利用者登録、メールアドレスの変更、パスワードの再設定、確認メール、メールの二段階認証が必要な人のログイン |
二段階認証が不要な人のログイン(1分程度かかる)、ログインが要らない手続き |
メールアドレスと利用者名など。有無と件数は確認中。登録は約82万件 |
| 大阪市 |
利用者登録、メールアドレスの変更、パスワードの再設定、メールの送信 |
メール送信のほかの機能 |
メールアドレスや氏名など。有無も含めて確認中 |
| 姫路市 |
申請完了の通知などのメール |
申請状況はマイページか担当部署で確認 |
メールアドレスと氏名など。有無を確認中。カードの情報は含まない |
横浜市の11月3日の記者発表。メールの認証ができずログインできない出典: 横浜市「横浜市電子申請・届出システムが使用するメール送信サービスにおける個人情報の漏えいの可能性について」(引用)
いちばん重い影響は、横浜市のログインでしょう。同じシステムの中でも、メールの二段階認証が要る人と要らない人で分かれました。どんな人にメールの二段階認証が必要なのかは、お知らせに書かれていません。本人が選んだ設定なら、認証を増やした人ほど入れないという皮肉な形です。
もちろん、二段階認証をやめようという話ではありません。考えたいのは、2つ目の要素がメールだけで、そのメールを1社の配信サービスに頼っている作りです。大阪市と姫路市の発表はログインの停止にふれていません。メールの二段階認証を使っていないのか、書いていないだけなのかは分かりません。
横浜市のお知らせには、もう1つ細かい記述があります。ログインに1分程度かかり、申請のあとに読み込み中の表示が続いても、1分ほど待てば完了するそうです。メールの送信が終わるのを待ってから次へ進む作りなら、こうなります。配信サービスの停止が、画面の遅さとしても出ているとみています。
止まる先は申請だけでもありません。TKCが影響を受けると挙げたシステムには、マイナンバーカードの交付予約と、緊急連絡先の登録も入っています。姫路市の発表によると、ひょうご防災ネットのメール配信にも影響が出る可能性があります。
関西の利用者の目線では、アララ不正アクセスで止まる関西のメール 防災はアプリ、申請はマイページ(西のITメディア)で読めます。
影響も漏えいもないという説明は、数日で変わった
委託元に届く説明の変わり方も、情シスには他人事ではありません。
| 日付 |
TKCと各市に届いた説明、各市の動き |
| 10月28日 |
アララがTKCに不正アクセスを報告。姫路市にもTKCから報告。横浜市のシステムは14時ごろからメールを送れなくなった |
| 10月29日 |
横浜市のお知らせ(16時15分更新)が、調査の結果「当システムで利用している環境において、不正アクセスによる影響および情報漏洩がない」と確認されたと伝え、復旧 |
| 10月30日 |
「TKCの利用環境からの情報漏えいはない」との報告(TKC)。姫路市にもTKCから、情報漏えいはないとの報告 |
| 10月31日 |
緊急停止。TKCの環境は会計事務所向けが17時10分、地方公共団体向けが17時37分。横浜市のお知らせは、第三者による不正アクセスが「新たに確認された」との連絡を受けたと説明 |
| 11月2日 |
アララが公表。TKCは第2報で、漏えい対象にメールアドレス最大223万812件が含まれると公表。横浜市には18時ごろ、姫路市には18時30分に報告 |
横浜市の発表の経緯。11月2日18時ごろに影響を受けるシステムと判明出典: 横浜市「横浜市電子申請・届出システムが使用するメール送信サービスにおける個人情報の漏えいの可能性について」(引用)
10月29日と30日に「ない」と伝えられたものが、11月2日には最大223万812件になりました。TKCのアドレスの内訳と、各市の利用者が含まれるかは、まだ分かっていません。
時間を重ねると、もう1つ見えてきます。アララの第2報の表では、サービスを経由した持ち出しは10月29日1時36分から30日2時22分で、把握は31日の午前です。TKCの環境がこの区分かは書かれていません。そうだとすれば、横浜市のお知らせが「ない」と伝えた10月29日16時15分は持ち出しの最中で、確認した側がまだ気づいていなかった時間です。
責めたいわけではありません。調査が進めば答えは変わります。アララ自身も、10月30日の続報では、ほかの環境での流出はないとしていました。
委託先の影響なしという答えは、その時点の回答として受け取りたいものです。社内に流すときは、いつの、だれの、どの範囲の確認かを添えておきましょう。段数が増えるほど、この情報は落ちやすくなります。今回はアララからTKCへ、TKCから市へ、市から市民へと3段ありました。
会社に関係するのは2つの場面
まず、TKCの企業向けのシステムを使っている会社です。TKCの第1報は、次のシステムでメールを送れないとしています。
- FXクラウド、FX4クラウド、SX2、SX4クラウド
- PXまいポータル、TKCまいポータル
- 証憑保存機能、インボイス・マネジャー、月次決算速報サービス
代わりの運用があるものは、利用者に個別に案内しているそうです。顧問の税理士に勧められて使い始めた仕組みは、情シスの台帳に載っていないことがあります。経理に聞いてみるのが早いでしょう。
次に、自治体の電子申請を事業者として使っている会社です。横浜市の約82万件の登録には、事業者のアカウントも含まれます。届け出の担当者がログインできないなら、期限のある手続きは、早めに市の担当部署へ相談することになります。
アララもTKCも使っていない会社に、直接の影響はありません。ただ、同じ作りは自社の中にもありえます。
自社の確認メールはどこから出ているか、確かめること
- 重要なSaaSと社内のシステムから、確認コード、パスワードの再設定、招待のメールを1通ずつ集めます。ヘッダーのReturn-PathとDKIMのd=を見ます。配信サービスのドメインが見えれば、そこが依存先です。Amazon SESの独自のMAIL FROMやSendGridのドメイン認証を使う送り主では、自社名や送り主のドメインしか見えません。そのときは、そのサブドメインのCNAMEやMXを引くか、Receivedの最初の送信元を見ます。SaaSから届くメールでヘッダーから先が分からなければ、そのSaaSの委託先の一覧か窓口で確かめます。
- 管理者のアカウントから順に、メール以外の認証要素を足します。ログインや再設定の手段がメールだけなら、配信が止まった日は、セッションが切れた管理者から順に入れなくなります。緊急用のアカウントも、別の要素で1つ用意します。
- パスワードの再設定ができない日の答えを、ヘルプデスクと決めておきます。だれが本人を確認し、だれが再設定するか、の2つです。
- 自社で作ったシステムは、テスト環境で配信先を止めてみます。画面が送信の完了を待って止まるなら、送信を別の処理に分けます。切り替え先の候補はメール配信サービスの地図で比べられます。
- 次の契約の更新で、委託先に3つ聞きます。メール配信の再委託先はどこか、止まったときと漏れたときの連絡はいつ来るか、影響がないと答えるときの根拠は何か、です。
今夜、委託先のメールが止まったとします。最初に入れなくなるのはだれでしょう。答えが「管理者」なら、今週の優先順位はもう決まっています。