米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が、2026年9月16日に約3年ぶりの利上げを決めました。利上げは一般に、IT企業のような成長株には向かい風です。ところがナスダック総合指数は、その5日後に最高値を更新しました。この記事では、何が起きたのかを日付順に整理し、金利とIT株の関係を基礎から説明します。
FRBの本部があるワシントンのエクルズ・ビル(2011年にFRBが撮影)出典: FRB(Wikimedia Commons「Eccles Building (26088200676).jpg」)(パブリックドメイン(米国政府の著作物)・作者 Federalreserve(FRB))
9月の日米の利上げと株価を日付で追う
まずは事実を並べます。数字はいずれも各機関の公表値です。
| 日付 |
出来事 |
数字 |
| 7月29日 |
FRBが政策金利を据え置き |
3.50〜3.75%。投票した12人のうち3人は利上げを主張 |
| 9月16日 |
FRBが0.25%の利上げ |
3.75〜4.00%。12対0の全員一致 |
| 9月18日 |
日銀が0.25%の利上げ |
1.0%程度から1.25%程度へ。賛成7・反対2 |
| 9月21日 |
ナスダック総合指数が最高値 |
終値27,122.09。6月2日以来の更新 |
| 9月22日 |
ナスダックが続けて最高値 |
終値27,244.28 |
| 9月23日 |
米10年債利回りが急上昇 |
5.11%(前日4.96%)。ナスダックは1.1%安 |
| 10月1日 |
日経平均が大幅高 |
終値68,956.72円(前日比2,203円高) |
| 10月2日 |
米国の9月雇用統計 |
就業者数は前月比2.9万人増。失業率は4.2% |
出典はFRB、日本銀行、米財務省、Nasdaq、日経平均プロフィル、米労働統計局です。FRBの利上げは2023年7月以来で、ウォーシュ議長のもとで決まりました。
日本株にはマイクロンの決算が波及した
日経平均の10月1日の上昇は、半導体関連株が引っ張りました。株探の市況記事は、日本時間の早朝に発表された米マイクロンの決算が好調で、投資家心理が強気に傾いたと伝えています。
ただし上がったのは一部です。東証の33業種のうち、上昇は11業種でした。プライム市場の値上がり銘柄は、全体の約半分にとどまっています(株探、2026年10月1日)。日経平均は翌10月2日に647円安の68,309.46円で終えました。
日経平均の終値の最高値は6月25日の72,366.34円です。10月2日の終値は、まだその水準を約6%下回っています(2026年10月2日時点)。指数が大きく上がった日でも、中身は半導体に偏っていたことになります。
FRBと日銀はなぜ利上げしたのか
FRBはインフレの高止まりを理由に挙げた
FRBの声明は「インフレは高止まりしている」と書いています(2026年9月16日)。今回の利上げで、2%目標への戻りを早めるという説明です。7月の声明では、中東の紛争によるエネルギー価格の上昇にも触れていました。
同時に出た経済見通しでは、2026年の物価上昇率(PCE)の中央値は3.7%です。政策金利の2026年末の中央値は4.1%で、年内にもう1回の利上げを見込む形です。6月の見通しでは、この数字は3.8%でした。
FRBが9月16日に公表した、参加者18人の政策金利の見通し(ドットプロット)出典: FRBウェブサイト「Summary of Economic Projections, September 2026」(パブリックドメイン(米国政府の著作物)・作者 FRB)
日銀は物価の基調が2%に近づいたと判断した
日銀は9月18日、短期の政策金利を1.25%程度に上げました(適用は9月24日から)。声明は、AI関連需要の拡大や原油高、円安を背景に、企業間の物価が高い伸びを続けていると説明しています。反対した2人の委員は、今の時期の利上げは適切でないなどの理由を挙げました。
金利が上がると、なぜIT株は売られやすいのか
将来の利益を今の値段に直す「割引率」
株価は、会社が将来稼ぐ利益を今の価値に直して合計したもの、という考え方があります。今の価値に直すときに使う率を「割引率」と呼びます。金利が上がると、この割引率も上がります。
将来受け取る100万円の今の価値を、割引率3%と5%で比べると次のとおりです。
| 受け取る時期 |
割引率3% |
割引率5% |
目減り |
| 2年後 |
約94.3万円 |
約90.7万円 |
約4% |
| 10年後 |
約74.4万円 |
約61.4万円 |
約17% |
| 20年後 |
約55.4万円 |
約37.7万円 |
約32% |
遠い将来の利益ほど、金利が上がったときの目減りが大きくなります。成長中のIT企業は利益の多くを将来に見込んでいるため、金利の影響を受けやすいのです。
株価の「ものさし」になる米10年債利回り
割引率の目安としてよく使われるのが、米国の10年国債の利回りです。米国政府に10年間お金を貸したときの年利で、株価を評価するときの目安としてよく参照されます。米財務省の公表値では、2026年1月2日に4.19%だった利回りが、9月30日には年内最高の5.29%になりました。
この1年弱で、ものさしそのものが1ポイント以上動いたことになります。同じ利益の見通しでも、ものさしが変われば株価の評価は変わります。
9月23日に起きたこと
9月23日、米10年債利回りは前日の4.96%から5.11%に上がりました。CNNは2007年以来の高さだと伝えています。この日、ナスダック総合指数は1.1%下げました。最高値の翌日でも、金利が急に上がれば株は売られます。
それでも最高値を更新した3つの理由
理由1 利上げは事前に予想されていた
ニューズウィーク日本版は、市場では事前に利上げ期待が強まっていたと書いています(2026年9月19日)。そのため「サプライズとは言えなかった」という評価です。予想されていた出来事は、発表の前に株価へ反映されやすくなります。
理由2 AI関連企業の利益が大きく伸びている
割引率が上がっても、将来の利益そのものが大きく増えれば、株価は支えられます。9月21日はメタ株が1日で11%上がり、指数を押し上げました(日本経済新聞)。AI関連の決算でも、伸びの大きさが目立ちます。
| 会社 |
発表日 |
内容 |
| マイクロン |
2026年9月30日 |
9月3日までの四半期の売上高は542.3億ドル。前年同期の約4.8倍 |
| マイクロン |
2026年9月30日 |
次の四半期の売上高見通しは615億ドル前後 |
| マイクロソフト |
2026年7月29日 |
4〜6月期の売上高は900億ドル。前年同期比18%増 |
理由3 原油価格の下落
日本経済新聞は、9月21日の最高値の背景に「原油安とAI期待」があったと伝えました。原油が下がるとインフレの心配が和らぎ、金利の上昇圧力も弱まります。ただし9月23日には原油が再び上がり、金利も上がりました(CNN)。
情シス・会社員にとって何が変わるのか
株価の話は、IT予算とも無関係ではありません。金利と株価の動きは、次のような形で使う側に届きます。
| 動き |
使う側に来る影響 |
確かめること |
| AI投資の拡大 |
メモリやGPUの奪い合いで、PCやサーバーが値上がり |
見積の有効期限と次回の価格改定日 |
| 大手IT企業の好業績 |
値上げをしても顧客が離れにくい立場になる |
契約更新月と値上げの通知時期 |
| 日銀の利上げと為替の変動 |
海外製品やクラウドの円建て価格が動く |
予算の為替前提(1ドル何円で組んだか) |
| 米金利の高止まり |
新しいITベンダーの資金調達が難しくなる |
利用中ベンダーの決算と資金繰り |
金利の上昇は、ベンダーの側にも効きます。赤字のまま成長を目指すソフトウェア企業は、借入や増資でお金を集めにくくなります。その結果、値上げや機能の絞り込み、事業の売却を選ぶ会社が出てくることがあります。取引先の決算に目を通す習慣は、こうした変化に早く気づく助けになります。
実際にVAIOは、法人向けPCの出荷価格を10月1日から上げると発表しました。理由として、生成AIの普及によるメモリ需要の拡大を挙げています(2026年9月17日発表)。マイクロソフトも、4〜6月期の設備投資410億ドルには部品価格の上昇の影響が含まれると説明しています。
見方は分かれる 楽観と慎重の両方を並べる
今後について、どちらの見方にも根拠があります。片方だけを見ないように並べておきます。
| 楽観的な見方の根拠 |
慎重な見方の根拠 |
| マイクロンは次の四半期も売上高の増加を見込む(615億ドル前後) |
米10年債利回りは10月2日に5.28%で、1月2日の4.19%から約1.1ポイント上昇 |
| FRBの見通しでは2028年末3.9%、2029年末3.6%と、その先は金利が下がる道筋 |
FRBは2026年末までにもう1回の利上げを見込み、9月の決定は全員一致 |
| 日銀は利上げ後も「緩和的な金融環境は維持される」としている |
7月にはメモリ株が急落し、キオクシアは1か月で7割弱下げた(日本経済新聞) |
| FRBの声明は「設備投資は堅調」と書いている |
FRBは地政学の動き、日銀は中東情勢を不確実さの要因に挙げている。原油価格しだいで金利が動く |
ナスダックは少数の大型IT株の影響が大きい指数です。最高値の更新は、一部の銘柄の上昇に支えられている面もあります。
今日からできること
使う側の立場で、今週のうちにできることをまとめます。
- FRBの会合(10月27〜28日)と日銀の会合(10月29〜30日)を、予算見直しの予定と並べて書き込む
- PC・サーバー・クラウドの見積で、有効期限と次の価格改定日を確認する
- 来期予算の為替前提と、値上げを見込む幅を決めておく
- 主要ベンダーの次の決算発表日を確認し、値上げや提供条件の変化に備える
- 株式を持っている人は、ナスダックやIT株の比率がどれくらいかを確かめ、金利が動いたときの値動きの大きさを知っておく
株価は金利と利益の綱引きで動きます。どちらか一方だけで先行きを決めつけず、両方の数字を見るのが基本です。この記事は売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身で行ってください。