AI向けのデータセンターがメモリを大量に買い、PCやスマートフォン向けのメモリまで値上がりしています。その恩恵を受けたのが、メモリを作る米マイクロンと日本のキオクシアです。一方で、使う側の情シスにはPCやサーバーの値上げとして届いています。この記事では、両社の決算と株価、そして調達の現場で何ができるかを整理します。
メモリの契約価格はどれだけ上がったのか
メモリには大きく2種類あります。DRAMは作業中のデータを一時的に置くメモリで、PCの「メモリ16GB」などがこれです。NANDはデータを保存するメモリで、SSDやスマートフォンのストレージに使われます。
キオクシア製のPC向けSSD「BG6 512GB」(M.2の基板)出典: User5515(Wikimedia Commons)(CC0・作者 User5515)
台湾の調査会社TrendForceは、メーカーと大口顧客の間の「契約価格」の見通しを四半期ごとに出しています。2026年の予測は次のとおりです。
| 期間 |
一般的なDRAM |
NAND |
発表日 |
| 4〜6月期 |
前期比58〜63%上昇 |
前期比70〜75%上昇 |
2026年3月31日 |
| 7〜9月期 |
前期比13〜18%上昇 |
前期比10〜15%上昇 |
2026年7月3日 |
| 10〜12月期 |
前期比10〜15%上昇 |
前期比15〜20%上昇 |
2026年9月30日 |
予測の中央値を単純に掛け合わせると、DRAMは3四半期で約2.1倍、NANDは約2.3倍になる計算です(筆者計算)。上昇のペースは落ちていますが、値段の水準は高いままです。
なぜAIでPC向けのメモリまで足りなくなるのか
AI向けのGPUには、HBMと呼ばれる高速なDRAMが組み合わされます。HBMも一般的なDRAMも、同じ工場の限られた生産能力を取り合っています。TrendForceは9月29日、この取り合いで2027年まで供給がひっ迫すると分析しました。2027年のHBMの平均価格は前年比121%上がるとの予測も出しています。
Micronが公開している、AI向けの高速なDRAM「HBM4」の製品写真出典: Micron Technology(報道用の素材)
メーカーから見れば、利幅の大きいAI向けに生産を回すのが自然です。その分、PCやスマートフォン向けに回る量が細り、値段が上がります。
TrendForceは9月30日の発表で、メーカーがサーバー向けを優先していると説明しています。2027年にはPC向けDRAMの供給が減る可能性があるとも書いています。また、PCメーカーが売れ筋モデルのSSD容量を減らして部品代を抑えていると指摘しています。
マイクロンの決算 売上は1年で約4.8倍に
マイクロンは9月30日、9月3日までの四半期(会社の会計年度で2026年度の第4四半期)の決算を発表しました。主な数字は次のとおりです。
| 項目 |
今回の四半期 |
前年同期 |
| 売上高 |
542.3億ドル |
113.2億ドル |
| 純利益(GAAP) |
377.0億ドル |
32.0億ドル |
| 粗利率(GAAP) |
86.8% |
44.7% |
| 営業キャッシュフロー |
439.7億ドル |
57.3億ドル |
| 次の四半期の売上高見通し |
615億ドル前後(上下15億ドル) |
なし |
通期の売上高は1,331.9億ドルで、前の年の373.8億ドルから約3.6倍になりました。サンジェイ・メロートラCEOは、2027年度はさらに強い年になると見込んでいます。顧客と結んだ長期の契約が、業績の持続性に自信を与えているとも述べました。
事業別に見ると、PCやスマートフォン向けの部門の売上高は131.1億ドルでした。前年同期の37.6億ドルの約3.5倍で、粗利率は90%です。情シスがPCの見積で感じている値上がりは、メーカー側ではこうした数字として表れています。
キオクシアの決算と10月1日の株式分割
4〜6月期は売上収益が前年の約5倍
キオクシアホールディングスは7月31日、2026年4〜6月期の決算を発表しました。
| 項目 |
2026年4〜6月期 |
前年同期 |
| 売上収益 |
1兆7,671億円 |
3,428億円 |
| 営業利益 |
1兆2,700億円 |
449億円 |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 |
8,422億円 |
183億円 |
| 7〜9月期の売上収益の見通し |
2兆3,900億円(前四半期比35.2%増) |
なし |
会社は増収の理由を、生成AI向けを中心としたデータセンター顧客の需要と、平均販売単価の大幅な上昇だと説明しています。用途別では、SSDとストレージが1兆1,747億円、スマートデバイスが5,257億円でした。次の決算発表は10月30日の予定です(2026年10月3日時点)。
株式分割と、そのほかの発表
キオクシアは7月31日、1株を3株に分ける株式分割を決めました。9月30日の株主が対象で、効力は10月1日に生じています。発行済株式は約5.5億株から約16.4億株になりました。目的は、投資しやすくして投資家の層を広げることだと説明しています。
8月27日には、米サンディスクと日本で2032年までに総額約5兆円の投資を見込むと発表しました。政府の支援を前提にした計画です。米国の証券取引所への上場準備も進めていますが、時期は未定としています(2026年9月15日の発表)。
キオクシアの岩手県北上市の工場(2026年5月撮影)出典: 掬茶(Wikimedia Commons)(CC BY-SA 4.0・作者 掬茶)
株価は最高益でも大きく揺れた
両社の株価は、決算の好調さに比べて動きが激しくなっています。
| 時点 |
マイクロン(ドル) |
キオクシア(円・分割後換算) |
| 2025年末 |
285.41 |
3,478 |
| 6月の高値(終値) |
1,213.56(6月25日) |
36,233(6月22日) |
| 7月末 |
823.03 |
13,167(7月30日) |
| 10月2日 |
1,074.89 |
19,300 |
出典はNasdaqとYahoo Financeの終値です。キオクシアの過去の株価は、分割の影響をならした換算値です。
日本経済新聞は7月29日、キオクシア株が1か月で7割弱下がったと伝えました。記事は、「半導体スーパーサイクル論」が後退したと書いています。最高益を続けていても、今後の需要に疑いが出ると株価は大きく下がります。
決算後の反応も一方向ではありません。マイクロン株は10月1日に前日比で約3%上がり、日本でも半導体関連株が日経平均を押し上げました(株探)。ところが翌10月2日は、マイクロン株も日経平均も下げています。
PC・サーバーの値上げはどこまで来たか
部品の値上がりは、製品の値段に届き始めています。
| 動き |
中身 |
出典・時点 |
| VAIOの値上げ |
個人向けを9月18日、法人向けを10月1日から値上げ。法人向けは全製品が対象(Reborn VAIOを除く) |
VAIO、2026年8月27日・9月17日発表 |
| PCの平均単価 |
2026年の世界の平均単価は17%上昇の予測。2025年の水準には戻りにくい |
IDC、2026年6月2日 |
| 世界のPC出荷 |
2026年は前年比11.3%減、10〜12月期は20%減の予測 |
IDC、2026年6月2日 |
| 国内のPC出荷 |
2026年4〜8月の台数は前年同期の69.5%、金額は92.1% |
JEITA(参加8社) |
JEITAの数字から1台あたりの金額を出すと、約14.3万円です。前年同期の約10.8万円から3割ほど上がっています(筆者計算)。ただし前年は、2025年10月のWindows 10のサポート終了を前にした買い替えが多い時期でした。台数の減少には、その反動も含まれます。
使う側の反応も数字に出ています。リユースPC事業のリングローが7月に300人に聞いた調査では、77.7%が調達価格が「上がった」と答えました。対応としては「購入・更新の延期」が39.7%で最も多く、「1台あたりの予算を増やす」は21.7%でした。
情シスができる調達の工夫
値上がりそのものは止められません。それでも、買い方で差は出ます。
| 工夫 |
やること |
気をつける点 |
| 仕様を固定して比べる |
メモリ容量、SSD容量、型番を表にして見積を並べる |
同じシリーズでも容量が減っていないか |
| 価格改定の日を押さえる |
見積の有効期限と、メーカーの改定日を確認する |
VAIOは改定の約2週間前に告知した |
| 更新の優先順位を付ける |
保証切れ、OSサポート、性能不足の順に替える |
急がない更新は時期を分ける |
| 延命・リース・リユースを比べる |
修理、リース、整備済み品の費用を出す |
保守期間とセキュリティ更新の有無 |
| 予算を組み直す |
単価の上昇を前提に来期の台数を決める |
為替の前提もあわせて見直す |
見方は分かれる 楽観と慎重の両方を並べる
| 楽観的な見方の根拠 |
慎重な見方の根拠 |
| マイクロンは次の四半期も売上高の増加を見込む |
TrendForceの予測では価格の上昇幅は縮んでいる |
| キオクシアは7〜9月期も前四半期比35%の増収を見込む |
7月には最高益でもキオクシア株が1か月で7割弱下げた |
| IDCはメモリ不足が2027年末まで解消しないとみる |
消費者向けの需要が弱まり、PCの出荷は減る予測(IDC) |
| 企業向けSSDの需要は記憶容量ベースで2026年に80%超伸びる見込み(TrendForce) |
キオクシアとサンディスクの約5兆円投資など、供給を増やす動きも出ている |
今日からできること
- 今後半年に買う予定のPCとサーバーを書き出し、急ぐものと待てるものに分ける
- 見積を取り直し、メモリ・SSD容量と型番、有効期限を一覧にする
- 取引先メーカーの価格改定のお知らせを確認し、改定日を予定表に入れる
- 来期予算の単価を、今の見積をもとに引き直す
- サーバーやクラウド、保守の契約で、部品価格や為替を理由にした値上げの条項と通知期間を確かめる
メモリの値段は、AI投資の勢いしだいで上にも下にも振れます。株価も同じ理由で大きく動きます。この記事は売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身で行ってください。